サーラの魔力検査 3
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前回の続きです。
「今度は魔力を放出しているかどうか見分けるものだよ。さっきみたいになると困るから、今度は最初から皿をサーラの手の下に受けておくよ。手は洗ってもらったけれど、念のためさっきと反対の手でやってみようか。」
私はサーラの左手に魔力放出感知の魔道具を乗せた。が、今度は何も起こらない。
「あれ、おかしいなぁ。サーラ、この魔道具を温めるようにイメージしてごらん。」
「あたためる、ですね―――」
サーラが目を見開いて掌の魔道具をまじまじと見つめる。しばらくすると、また白い光が魔道具全体を淡く覆ったかと思うと一気に魔道具全体が眩しく輝き、魔道具の表面全体がパラパラと崩れ始めた。
「ははっ、やっぱりそうか―――」
俺はサーラの魔力検査の結果を目の当たりにして力なく笑った。魔道具は表面からサラサラと砂状になってサーラの掌にこぼれていく。
私は先程と同様、サーラの掌に残った魔道具であった物を皿の上に回収した。
「サーラは凄いな。俺の予想を遥かに超えているよ。魔力も魔力の放出も申し分ないね。」
「は、はあ・・・。」
サーラは「私にはよく分からないけれど、とりあえず相槌を打っておこう」というような顔をしていた。
「サーラ、もう私の用事は終わったから仕事に戻っていいよ。ミリルに何か聞かれたら『私が作った新しい魔道具のテストをしたけど失敗した』って言っておいて。ここで何が起こったかを詳しく説明する必要はない、というか説明しない方がお互いの為にもいいだろう。」
「はい・・・わかりました。」
「ああ、魔道具だった物の残りが手についているかもしれないから、手はここでしっかり洗っていってね。」
「はい・・・。」
サーラは再び洗い場で手を洗い、台所へ戻って行った。私は皿に集めておいた自作の魔道具だった砂をそれぞれ元の魔道具の名前を書いた瓶に入れ、作業場の私物を入れる引き出しにしまっておいた。
サーラが台所へ戻り、作業場に一人残った私はクスクス笑い始めた。サーラの魔力検査の結果が自分の予想を遥かに超えていた―――ということは、俺もそれだけサーラの能力を見縊っていたということだ。
―――全く、見つけた場所も場所だったが、本当にとんだ拾い物だったよ。サーラを保護してすぐに、ここで住み込みで働いてもらうように手を打てて良かった。もうこちらでサーラを雇用も兼ねて保護したから、今更サーラを王宮や研究所に寄越せと言われても、分かりました、と応じなくて済む。がしかし、兄上にはなんと報告したらいいのだろう。兄上にも一応立場があるからなぁ・・・仕事柄、俺も虚偽の報告はできないし―――
今月の王都で行われる魔力検査は終わっていたので、こちらで簡易的に魔力検査用の魔道具を作り、魔力検査を行った。魔力検査の結果、サーラに魔法の適性はあると思われる。
私が散々悩んで捻り出した文章は至ってごくごく平凡な物だった。しかし事実は必要最低限書いてあるし、嘘はついていない。必要以上に報告すると早々にサーラを研究所か王宮まで連れて来いと言われそうだから、これ以上書くのはやめておこう。
さて、サーラの魔力検査についてこれ位でいいか。教本を貰い受ける時にサーラの魔力を流す必要があるので、その時だけは不本意だがサーラを連れて行かざるをを得ない。しかし王城や研究所までサーラを何度も連れて行くのは避けたいところだな。あとは私自身が持っている教本の一覧を書き添えればいいか。
私は書斎から寝室へ行くと、自分の教本がしまってある書棚の前に来た。仕事をする書斎に大抵の本は置いてあるが、魔法関連の教本は敢えて書斎に置かず自分の私室である寝室に置いてある。というのも、時に商談の場となる書斎に教本を置いておくと、目敏い者が教本を見つけて中を見たがるという無用のトラブルを避けるためである。商才に長けた商人ほど目敏い者が多いから、こればかりは仕方がない。
書棚の教本は久しく使っていないので、うっすら埃が積もっている。私は羽箒で積もった埃を軽く払うと背表紙をゆっくり撫でた。
懐かしいなぁ・・・
私は色々あった学院時代に少し思いを馳せた。
魔法の教本は濃い飴色の皮で装丁されていて、金で題字が刻印されている。私は書棚の左から順に背表紙の題字を確認した。
王立魔法学院教本 魔法1
王立魔法学院教本 魔法2
王立魔法学院教本 魔法8
王立魔法学院教本 魔法10
意外と番号が飛んでいるな。私は手近にあった紙に手元にある教本の番号を控えると、書斎を通りぬけ、魔法屋へ行った。
「いらっしゃいませ。」
カウンターの中で魔道具を作っていたロイが、顔を上げずに扉の開いた音に反応して接客用の挨拶をした。
「ロイ。客じゃないけど、ちょっといい?」
私は店番をしながらカウンターの中で魔道具を作っているロイに声をかけた。余程作業に集中していたのだろう。
「あっ・・・エルデ様でしたか、失礼致しました。」
ロイは作業する手を止めると作成中の魔道具を脇へ退け、私の方に振り返った。
「如何いたしましたか。」
「うん、ちょっと教本の件でね。ロイは学院の時の教本って何持ってるのかなって。」
「そうですね・・・。私はエルデ様と学院で同じ内容を学んでおりますから、エルデ様と大して変わりはないと思いますよ。」
「そうだよねぇ。今俺が持ってる教本、四冊しかなかったんだよね。しかも、番号が飛んでるんだ。」
「ちなみに何をお持ち感じですか?」
「うん、学院の1・2・8・10の四冊だよ。ロイの手持ちの教本はどうなんだろう。」
「さすがに私もそこまで詳しくは覚えていませんね。」
「ロイの教本は今どこにあるの?魔法屋には置いてなかったよね?」
「はい、自宅の書斎に置いてあります。」
「家に帰った時に確認してきてくれる?」
「畏まりました。確認してから報告致します。」
「ああ、宜しく頼むよ。」
一礼すると魔道具作りの作業に戻った。
「エルデ様。」
書斎へ戻りかけた私に、ロイが後ろから声を掛けてきた。
「エルデ様と私はベントレイ先生のお蔭で学院だけしか通っておりません。ここにはミリルもいることですから、学校を卒業しているミリルにも確認してみてはいかがでしょうか。サーラちゃんの教育を進める時の参考になるかもしれません。」
「ああ、それはいいね。俺達は学校に行ってないけど、サーラは学校の内容から始めるつもりだからね。ミリルにも早速聞いて来よう。」
「エルデ様、ミリルが何の教本を持っているか、私にもお聞かせ頂けますか。」
「ああ、ミリルが構わないと言ったらそうするよ。」
「分かりました、宜しくお願いします。」
ロイは私に一礼すると、さっさと店番兼魔道具作りの作業に戻ってしまった。私は台所で今日の夕食を作ってくれているミリルの元へ行った。ミリルはサーラに教えながら何か作業をしていた。
「ミリル、ちょっといい?」
「はい、エルデさん何でしょうか。」
「ミリルは学校の教本って何を持っているか教えてもらってもいい?」
「はい、構いませんよ。お急ぎですか?」
「え、今分かるの?」
「はい、実は・・・私の教本は更衣室のロッカーの中に置かせて頂いているんです。」
「ああ、そうなんだ。」
「ええと・・・私の教本をこちらに置いては駄目だったでしょうか。」
珍しくミリルがもじもじしている。これはこれで貴重だな。私に無断で私物を置いていたから気にしていたのかもしれない。
「いや、別に構わないよ。単純に私の好奇心からその理由が知りたい。」
「あの、本当に個人的な理由なんです。結婚して家を出る時に本人しか使えない厄介な代物はさっさと持って行ってくれと実家で言われましたし、結婚したらしたで夫も学校の出身ですから、さすがに家に二人分の教本を置いておくのも邪魔なんです。夫の職場にはそれこそ教本を置けるような場所もなかったので・・・。」
確かに、ミリルの夫は騎士団で働いているから着替えを置く場所位はあっても、教本を置く場所など無いだろう。
「学校の教本って、ここでの仕事に多少は参考になる部分もあるの?」
「はい。私が普段使わない魔道具の回路を引く方法も載っています。他にも参考になる所があるんですよ。」
「仕事で使うのならば全然問題ないよ。教本を頻繁に使うのならば、ミリルのロッカーではなくて作業場の棚に教本を置けばいい。」
「え、いいんですか?」
「丁度ここを増築したばかりなんだ。教本を置くのに良さそうな場所があるか見て来ると良い。」
「はい、分かりました!」
ミリルは勢いよく作業場へ駆けて行った。
日にちが空いてしまいましたが、先日の地震で被災された方に心よりお見舞い申し上げます。
今までの日常だった色々が非日常になってしまってから約一年がたちますが、拙作で緩やかな気持ちと何気ない日常を味わって頂けたら幸いです。
次回でこの話も一段落する予定です。
今回も最後までありがとうございました。




