サーラの魔力検査 2
前書きと後書きを追加するついでに、一部の表現を改めました。
作業用の丸椅子に腰掛けると、水晶玉を両方の掌に乗せて魔力をゆっくり巡らせていく。一見透明な水晶玉だが、魔力を水晶玉の内部へ向かって走らせると肉眼では見えない内包物が水晶玉の中にあるのが分かる。まずはこの内包物を魔力で慎重に一つ一つ潰していく。要は水晶玉の内包物を魔力で破壊していく作業なのだが、下手に魔力を加え過ぎると内包物を破壊するだけではなく水晶玉自体にひびが入ってしまうので、精密かつ慎重な魔力操作を必要とする作業である。この内包物が無くなることで出来た微小な穴をこれまた魔力で塞いでいく。この作業をしないで魔道具を作ることも可能なのだが、事前にこの作業をすると魔道具の性能が大幅に上がるのだ。この魔道具は売り物ではないからたまにはいいだろう。
売り物、商品である魔法屋の魔道具を作る時には、敢えてこの作業を省略して魔道具を作っている。不特定多数の人物が使う可能性のある商品に無駄に高い性能を持たせてしまうと、魔道具が誤作動したり壊れたりすることがあるからである。
私が魔道具作成前にこの作業をするのは、かなり限られている。せいぜい王都の入口に私が張っている結界維持用の魔道具と王族の護身用に使う魔道具ぐらいだ。
さて、水晶玉の内包物がなくなったので、次は水晶玉一つずつ作業をすることにしよう。青い皿の魔道具は魔力を持っている者が触ると魔道具が光るんだったな。魔力を検知できるように水晶玉の表面に触れた時だけ接触面から水晶玉の中心に向かって魔力が強制的に流れるように魔力の道筋、即ち魔力回路を作成する。そして水晶玉の中心部に魔力が到達すると光を放つ魔法陣を埋め込む。魔力検査で使う魔道具は魔力の有無だけを判断して光るようになっているが、私は属性も判断できるように魔法陣に術式を書き足しておいた。
魔力検知の魔道具はこれでよし、と。次は魔力放出感知とでも言えばいいのか。魔力を放出しているかどうか見分ける魔道具だな。
これは水晶玉の表面に魔力検知の回路を組み込むだけで良い。水晶玉の表面に細かく、かつむらなく魔力検知の魔力回路を張り巡らせていく。最初は網状だった魔力回路が徐々に複雑になり、最後は水晶玉表面を全て覆い尽くすまで回路を書き足していく。しばらくすると水晶玉の表面が白くて淡い光を放った。これで水晶玉の表面全てが魔力回路で覆われたということだ。
私は出来上がった魔道具を作業台の上において観察した。一見ただの透明な水晶玉である。
自分の作った魔道具がちゃんと作動するかを確認しよう。まずは魔力検知の魔道具からだ。私はどの属性の魔法も使えるから、魔力検知の魔道具を持つと各属性の色に光るのが正常である。よし、この魔道具は問題無いな。次に魔力の放出を検知する魔道具だ。私は魔道具を軽く握ると魔力の放出量を徐々に増やしてみた。私は魔力の放出量を自分で調節できるので、こうした確認の仕方ができる。よし、これも問題ない。早速サーラの所へ行って調べてみよう。
私は完成した魔道具を手近な皿の上に乗せ、作業着の埃を軽く払ってから台所に移動した。今日は煮込み料理なのだろうか、台所からいい匂いが漂ってくる。私は入り口の傍で立ち止まると、ミリルに声を掛けた。
「ミリル、ちょっといいかな。」
「はい、サーラさん、ちょっとこのお鍋をゆっくりかき混ぜておいて。」
ミリルはサーラに今やることを取り急ぎ伝えると、慌てて私の所までやって来てくれた。
「お待たせ致しました。エルデさん、何でしょうか。」
「そちらの仕事の進み具合はどう?手が空いた時にちょっとサーラを借りたいんだけど。」
「そうですね・・・今は丁度手が離せない所なので、手が空くまでにはもう少し時間がかかると思います。」
「長くなりそう?」
「そうですねぇ、それほど長くはかからないとは思いますが、ここでこのままお待ち頂くのには長いかと。」
「そう。それなら私はこのまま書斎に戻って仕事をしているから、手が空いたら呼びに来てもらえる?」
「分かりました。それでは、手が空き次第サーラさんに呼びに行かますわ。」
「そうしてくれると助かるよ。それじゃぁお願いね、ミリル。」
「畏まりました。」
私は台所から作業着のまま書斎へ戻ると執務机で今作った魔道具について、作り方を自分の魔道具作成記録帳に書き残しておくことにした。この記録帳にに新しく作った魔道具について書き込むのも随分久しぶりだ。もう一度この記録帳を見て同じ魔道具が作れるように、魔道具の材料や事前処理の方法、使った魔法陣の種類や作成時の魔力の走らせ方まで詳細に書いておく―――大体こんなもんか。
私は席を立つと一息入れるために窓際のテーブルの前に行った。書斎には簡単な茶菓の準備ができるように、窓際の一角にお茶を淹れるためのスペースを設けてある。今は台所でミリルとサーラが食事作りをしているから邪魔をしたくない。こういう時は自分の好きな時に台所に行かなくてもお茶が飲めるので非常に便利だ。さて、どのお茶にしようか―――集中して作業したから、頭をすっきりさせるブレンドがいいか。私はテーブルの上においてあった自分のカップに茶葉を直接入れると、水魔法と炎の魔法でカップにお湯を満たした。行儀は悪いが、書斎にいるのは私一人だ。私はその場で立ったままゆっくりとお茶を味わった。
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―――コン、コン、コン。
台所側にある書斎の扉を叩くノックの音がした。このどちらかと言えば控えめな音はサーラだろう。ロイは店番をしているし、ミリルは勢いよくノックをするか、相変わらずノックを忘れて勢いよく扉を開けて入って来るからな。
「サーラ、来てくれてありがとう。エプロンを外して作業場へ行こうか。」
「は、はいっ。」
私は書斎の扉を開けると、入り口に立っていたサーラを連れて作業場へ向かった。台所でサーラは慌ててエプロンを外してテーブルに置いてから私について来たようだ。
サーラと二人、先程魔道具を作った一番奥の作業台の前に行くと、私は魔力検知用の魔道具を自分の掌で軽く転がしながらサーラに話しかけた。
「サーラ、私も話すのをすっかり忘れていたんだけど、ここエルヴァトラ王国では十二歳以上の者は魔力検査をすることが義務付けられていてね。」
「はい・・・。」
「魔力検査では魔力を持っているかどうかと、身体から魔力を放出しているかどうかを魔道具を使って確認しているんだ。今月王都で行われる魔力検査はサーラがここに来る前に終わってしまったから、私が作った魔道具で試しに検査してみようと思ってね。」
「は、はあ・・・。」
サーラが不思議そうな顔をして頷いた。まあ、魔力検査について知らないんだから、仕方がないだろう。
「それでね、今、私が手に持っているのがサーラが魔力を持っているかどうか見分ける魔道具なんだ。通常の魔力検査では魔力の有無しか分からないんだけど、試しにどの属性が優位なのか見分けられるようにしてみたんだ。サーラ、手を出してごらん。」
「こうですか?」
おずおずと右手を差し出したサーラの掌に、私は魔力検知用の魔道具を乗せた。
サーラの掌からすうっと白い光が魔道具の中心に向かって流れたかと思うと、魔道具全体がぱあっと白く眩しく輝い―――たのは一瞬で、サーラの掌が触れている部分から水晶玉が一気に砂状になって崩れていく。
「ちょっ?おい待て!何でそんなっ?」
俺は予想外の魔道具の挙動に動揺した。サーラもキョトンとして自分の掌を見つめている。
「さ、サーラ、ちょっと手はそのまま動かさないでいてっ!」
「は、はいっ。」
俺の剣幕に驚いたのか、サーラも上ずった声で返事をした。俺は慌てて作業台の引き出しからきれいな皿を出すと、サーラの掌の下に差し出した。サーラの掌よりも大きな受け皿があって良かった。
「サーラ、この砂みたいになってしまった物を、この皿の上にあけてくれるかな。」
「ここで・・・いいですか?」
「ああ。悪いけれど、掌にこびりついているのもいい?」
「分かりました。」
サーラは自分の掌で砂状になってしまった魔道具の成れの果てを丁寧に集めてくれた。
「あの・・・これで終わりですか?」
「いや、申し訳ないけれどもう一つあるんだ。その前に、そこの洗い場で一度手を洗ってきてくれるかい?」
「はい。」
ちょっと中途半端ですが、続けると長くなるので一旦ここで切って続きは次回にします。
今回も最後までお付き合いありがとうございました。




