二日連続の食事会 2
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ロイはともかくサーラには状況が掴めていなかったらしい。俺の言葉が足りなかったか。
「ああ・・・俺の言い方が悪かったね。サーラが重い物を軽々と運ぶことができることを、ミリルに知られないようにしたいんだ。」
「は、はぁ・・・。」
「まぁ、ミリルに悪気はないんだろうが、ミリルは良くも悪くも能力があるのにその能力を使わないのは勿体無いという勢いで、あわよくばエルデ様すらこき使おうとするからなぁ―――」
ロイが遠い眼をして溜息をついた。その時のことを思い出してしまったのだろう。
「うちの店の従業員は良く言えば少数精鋭なんだけれど、俺が従業員に求める魔法の能力が高すぎてね。それに見合う人が中々集まらないんだ。仕方がないと言えば仕方がないんだけどね。」
俺は肩をすくめてサーラに言った。
「あ、あの・・・。」
サーラは不安そうに俺の顔を見てきた。自分の能力のことで少し心配になってしまったかな?
「ん?サーラの能力は俺の見立てでは全く問題ないから大丈夫。ね、ロイ。」
俺は笑顔でサーラにそう声を掛け、ロイにフォローを頼んだ。
「そうですね、エルデ様の仰せの通りです。とりあえずサーラちゃんは力仕事をしないで大丈夫。そういうのは俺に任せておいて。俺がいない時は俺が帰ってくるまでそのままにしておくか、最悪エルデ様に頼むといいよ。」
「は、はい・・・、わかりました。」
サーラにも何とか納得してもらえたようだ。こうして、サーラは力仕事ができるが魔法屋の中で力仕事をしない、させないということが俺達とサーラの間で決まった。ミリルは以前から力仕事はロイに任せっきりだから言わなくても問題ないだろう。
「それから、明日は朝一番で商業ギルドから家具職人が来る予定だ。サーラはミリルと一緒に書斎でサーラの部屋に置く家具について打ち合わせをすることになっているから、そのつもりで。サーラ達が打ち合わせ中、俺は執務机で別の仕事をするつもりだが、分からないことがあったらその都度俺に聞いてもらってくれて構わない。ロイはサーラ達が打ち合わせをしている間、店の片付けを優先してお店を開ける準備をしておいて。」
「畏まりました。」
「は、はい・・・。」
「エルデ様、魔力の結び目についてもお話頂きたいのですが。」
「ああ、それもあったなぁ。ロイ、指摘してくれてありがとう。これも今話しておかないとならない大事な話だ。」
俺は首を左右に振って雑念を追い出した。
「魔力の結び目とは自分の魔力を練って縄状にしたものを結んだ結び目、と言えばロイはイメージできるかい?」
「普通の縄の結び目なら分かりますが・・・縄が魔力でできているようなものですか?」
「そうだね。俺はここを建てた時に自分で魔力を編んでこの建物を作ったから、魔力の結び目も見えるし、結んだり解いたりすることもできる。ロイはどうだ、魔力の結び目は見えるか?」
「私はこの建物から土属性の魔力を感じることはできますが、魔力の結び目自体は見えていないのだと思います。見えない結び目を結んだり解いたりすることは無理なのではないかと。」
「そうだねぇ。恐らく、ロイ自身がもう少しはっきり魔力を見えるようになれば、魔力の結び目を見ることもできるようになるかもしれないね。サーラは今日手伝ってくれた通り、魔力の結び目が見えていて、結んだり解いたりもできるんだよね。もしかして、サーラには魔力の色も見えるのかな?」
「魔力の結び目は見えますし、結んだりほどいたりすることはできました・・・ね。あの、魔力の色って、何ですか?」
「魔力の色かぁ・・・そこまで話すと長くなりそうだから、食事をしながら話そうか。料理は美味しいうちに味わいたいからね。ロイにも魔力の色の話は聞いて置いて欲しいから、お酒は一旦下げて飲み物は皆、水か葡萄ジュースにしよう。お酒は後で俺達だけで飲めばいいだろう。」
「畏まりました。それではお酒は書斎に下げておきますね。」
お酒を運びに行ったロイが書斎から戻って来た。テーブルの上にあったお酒の代わりに水差しを置き、再び席へ着いた。トレーの上に人数分の新しいカップとお茶菓子も一緒に持って来る辺りが心遣いの細やかなロイらしい。お茶菓子を見つけたサーラがぱぁっと明るい表情になった。サーラは本当にお茶菓子が好きだなぁ。
「お待たせ致しました。」
「ロイ、ありがとう。葡萄ジュースもあるし、ロイがお水を持って来てくれたから、とりあえず食後のお茶はなくてもいい?」
「は、はいっ。」
「それでよろしいかと。」
「では、今日この食事を頂けることに感謝を。」
「「感謝を。」」
俺達三人はマシューの配達してくれた食事を堪能した。スープが残ったので、鍋の中身を魔法屋の小鍋に移しかえておく。少し早く食べ終わったロイがテーブルの片付けに席を立った。
「サーラちゃん、スープが少し残ったから明日の朝、これに何か足して食べよう。」
「はい・・・。」
テーブルから飲み物とカップ以外を下げ、洗い場の箱に入れた。マシューの店の大皿や鍋も、一緒に入れて箱に蓋をして水の浄化魔法をかけて席に戻った。
「さて、と。ロイは学院の復習になるけれど、サーラもいるから属性の話からしようか。サーラは『属性』という言葉をサーラは聞いたことがあるかな?」
「ぞくせい・・・?」
「その様子だと覚えていないか、聞いたことが無さそうだね。」
「はい・・・。」
「魔法にはその種類によって特徴があってね。同じような性質を持つ魔法を『属性』という言葉でそれぞれの性質ごとにまとめているんだ。例えば水の魔法は水属性、というようにね。」
と言うとエルデは空のカップをトレーから取り、水魔法でカップに水を満たした。
「うわぁ・・・。」
カップの底から水が湧きだすようにカップの中に水が満たされていく。サーラは間近で見る魔法に驚いたようで、目を大きく見開いて口も半開きになっている。
「サーラちゃん、口開いてるよ。」
ロイはカップを不思議そうに見つめるサーラの肩を軽く数回叩いた。
俺の方からすると、重い物を無意識に魔法を使って軽々と運ぶサーラちゃんの方が十分不思議なんだが。
「あ・・・、はい。」
サーラが我に返ったようなので、俺は話を続けた。
「ロイ、ありがとう。では話を続けようか。『属性』は大きく分けて光・闇・火・風・水・土の六つがある。結界は空間に使う魔法として色々使われているが、それ以外にも時間や空間を扱う魔法もあるのではないかと言われている。結界魔法も含めてこれらの魔法はまだ国内でも研究中で発展途上なのが実情だ。そして、これらの魔法がある程度系統的に確立された時点で、既存の六つの属性には当てはめないということは決まっている。」
「ということは、新しい属性を決めるということですか。」
ロイが質問してきた。いい生徒役だ。
「新しい属性として分類するかどうかまでは現時点では決まっていない。結界魔法の研究のこれまでの成果から、既存の六つの属性に組み込むのはどう考えても無理だろうという、という合意が研究者全体でなされたところだ。」
「おや、頭のお固い研究者方にしては、随分と譲歩されたんですね。」
ロイの言葉が刺々しい。まぁ、ロイは学院の時に頭の固い学院の教師達に随分苦労させられたから仕方がないか。
「ああ。ロイには言ってなかったっけ。学院長と研究所の所長が協議した結果だよ。」
「えっ!あの所長が、ですか。」
「ええとだな、ロイ。学院長と所長が協議したのは研究所の所長が今の所長に代替わりしてからの話だから、俺達が学院にいた頃の所長じゃない。」
「つまり、『あのお方』ではない、と。」
「ああ、そうだよ。『あのお方』は俺達が学院にいた頃の悪行が表沙汰になってね。本人は後進に道を譲ると言って所長を辞めたけれど、それはあくまでも表向きの理由だからね。王宮から悪事を大々的に公表されて懲戒免職になるか、実質上の更迭とはいえ引退して退職するかのどちらかを選べと言えば、いくら『あのお方』でも穏便な方を選ぶでしょう。本当は俺も『あのお方』の悪行には痛い目に遭っているから、気分的には穏便じゃない方が良かったんだけどねぇ。」
「それは存じ上げませんでした。研究所の所長がそのような不祥事を起こして辞めたなどと公になったら、ここぞとばかりに王宮から研究費を削れという圧力が強くなるでしょうね。研究費が削られれば研究所だけではなく、学院や学校にも影響があるでしょう。エルデ様ならその程度の悪意を跳ね除けるのは朝飯前でしょうから、心配はしておりませんが。」
「ふふっ、そうだね。今の言葉はお褒めの言葉として受け取っておくよ。まぁこれは俺が研究所へ入ってからの話だから、ロイは知らなくても仕方がないんじゃないかな。ロイは騎士団にいた頃だろう。」
「ええ、私が騎士団で訓練と鍛錬に明け暮れていた頃ですね。」
俺は当時の事を思い出して少し懐かしいな、と思った。ロイも感慨深い表情をしているから同じようなことを考えていたのだろう。おっと、話がずれる前に先へ進めよう。
『あのお方』ってそんなに酷かったんですかねぇ。『あのお方』はやっていることがえげつなさそうなので、その頃の事は書きたいような書きたくないような・・・。書いたら私の筆力のせいで、小物感満載なエピソードになったらどうしましょう(滝汗)。
次回は連載2周年記念として、少し長めにお届けできる予定です。お楽しみに!




