商業ギルドにて 2
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2021/10/15 誤字修正しました。
「うん、お店に常備する日持ちのするお茶菓子だ。」
グラントが私の真意を測りかねたのか、瞬きを数回した後、私の顔を覗き込んできた。
「エルデ、そいつは魔法屋で販売するのか?」
「いや、魔法屋では扱わないよ。たまたま売り物じゃないけどって、おまけに貰ってきた物が気に入ったから、自分達が休憩の時に食べられるよう、好みに合わせて作ってもらいたいだけだ。」
私の答えにグラントの表情が一瞬固まった。一呼吸置いて、グラントがお腹を抱えて笑い出した。
「ぶわっはっは。自分達が食いたいからって理由だけで金を掛けて新商品を開発しちまおうなんて話、ギルドでも聞いた事がねえや。相変わらずエルデのやることは面白ぇなぁ。お前、それで一発儲けようと言う気はないのかよ。」
「ないね。」
「なんだ、即答かよ。」
私の迷いのない返事にグラントが呆れている。
「ああ。魔法屋は少数精鋭なんだ。魔法と全く関係のない、ただの食品を扱うのは無駄な店の仕事が増えるから困る。俺は自分達の食べたい物が食べたい時に食べられるようになればそれで充分だ。」
私はグラントに向かってにっこり微笑みながら答えた。
「相変わらずエルデもぶれねぇなぁ。まぁ確かに、魔法屋は人数が少ないからな。それで、エルデはどこの店のどいつと組みたいんだ。」
「王都にある揚げ菓子屋だ。オーランという男性がやっていると店の者から聞いた。」
「まあ、エルデさんはお目が高いですわね。オーランさんのお店は最近王都でも話題になっているんですよ。オーランさんもお一人で店を切り盛りされていますから、エルデさんのお店と同じく、確かに色々と足らないですわね。」
エリナがすかさず食いついてきた。商業ギルドのサブマスターだけあって、王都内の店の情報は一通り頭の中に入っているようだ。
「この話はオーランの方にはしてあるんかい?」
「昨日うちの店の者がちらっと話はしたようだけど、正式な話はこれからだ。商業ギルドに手伝ってもらって新商品の開発依頼をしたい、という話を店の者がオーランへ伝えには行っているよ。私は今日グラントに相談がてら根回しをしに来た。」
「ったく。エルデは変なところで正直だなぁ。」
「ああ。本当はもっと私も腹芸ができた方がいいんだろうけどねぇ。契約は、商業ギルドに私がオーランと一緒に来ればいいんだっけ。」
「ああ。ただ、今回のような依頼は滅多にないからなぁ・・・エリナ、今回は俺達が立ち会うか。」
「はい。珍しいケースなので、今後の事も含めてその方がよろしいかと。」
グラントとエリナが顔を見合わせて肯いた。
「んじゃ決まりだ。契約の際は話し合いも含めて俺とエリナが立ち会う。それで、エルデ達がいつ来れるかはまだ決まってないんだよな。」
「開発依頼の話と合わせて、店の者にオーランの都合を聞いてもらっている所だ。少なくともオーランの店が終わった後じゃないと無理だと思うから、早くても夕方になりそうだね。」
「そうか。それなら、こちらの都合を先に伝えておくか。エリナ、俺とエリナの両方が夕方以降空いている日っていつだ?」
「マスターと私の両方ですとここ一週間以内で一番早いのが明後日、その次は四日後と五日後ですわ。」
「わかった。オーランの都合を聞いてまた知らせるよ。」
「おう、知らせるのはお使いで十分だからな。」
「分かってるって。」
私とグラントは互いの顔を見合って微笑んだ。
「それから小さな話が一つって何だよ。」
グラントは笑いながら私に聞いてきた。
「ああ、さっきうちの店に住み込みで人を雇うっていう話をしただろ。それで、店の増築と同時にベッドを作って貰いたいんだけど、グラントにいい家具職人を紹介してもらおうと思ってさ。」
「はははっ、確かに店の増築や新商品開発に比べたら小さな話だな。よし、俺の友人枠で腕利きの職人を紹介してやるよ。」
「私よりグラントの方が仕事柄、職人達の事は圧倒的に詳しいから助かるよ。そもそも、ベッドみたいな大きな家具っていつ頼めばいいんだ?」
「おいエルデ、覚えてないのかよ。お前さん、ロイと二人で店建てたんだろう。そん時だってベッドや他の家具は自分で作るか誰かに作って貰うはずだぞ。」
「ロイは通いだから、仕事で泊まり込む時に使う簡易ベッドしかいらないし・・・俺の部屋のベッドや書斎の家具はどうしたんだっけな・・・。」
私は遠い眼をして魔法屋を建てた時のことを思い出したが、家具について実際どうしたのか思い出せなかった。グラントはそんな私の様子を見て、やっぱりな、と笑った。
「その分だと絶対ロイの方が色々と覚えていそうだな。店に戻ったらロイに聞いてみたらどうだ?」
「そうだね、後でロイに聞いてみるよ。せっかく注文するのだから、好みを聞いて作って貰う方がいいかと思ってね。そうだ、グラントが紹介してくれる職人さんって、うちの店まで来てもらうことはできる?色とか形は部屋に合わせて本人の好きに注文させたいんだけど。」
「魔法屋は王都と王国内を行ったり来たりする商人なら誰でも知ってるから大丈夫だよ。それから、作る時は、ちゃんと部屋に入る大きさの使える物を作って貰えよ。笑い話じゃないけれど、奮発して大枚をはたいて作ったのに部屋に入らなかった、っていう残念な若造の話をここでちょくちょく聞くからな。俺から言えるのは、増築する部屋の広さが分からないから、色々頼むんなら増築が終わってからの方がいいってことさ。」
「うん、分かった。そうするよ。」
「それにしても、住み込みの従業員をたった一人雇うのに、こんなに大事になるとは思わなかったぜ。エルデは随分甘いんだな。」
「そうか?元々魔法屋は店と私が生活するのに必要最低限の広さでしか作っていなかったからね。建物に余裕がないんだよ。それに、うちの従業員は少数精鋭だから、すぐに辞めてもらわれては困るんだ。そもそも俺が従業員に求める魔法のレベルが高すぎるから、候補になれそうな者もなかなか見つからないし、新たに人材を雇って仕事ができるようになるまでにも時間と手間がかかるんだ。だから従業員の待遇を良くして、長く働き続けてもらわないと俺も非常に困る。自分で言うのも何だけど、王都でも、うちの店の待遇はかなりいい方だと思うよ。」
「まぁ・・・成り行きでうちの店で雇うことにしたとはいえ、私が王都に住んでいるからサーラを王都に連れて来てしまったという負い目があるからね。」
最後の言葉は口の中でもごもごと呟き、私は少し自分の都合でファルドの森から連れて来てしまったサーラのことを思って目を伏せた。しかし、ファルドの森から私がサーラを連れだしたのは事実だし、ファルドの森にサーラをあのまま置き去りにするのはもっと危険なことだったから、やむを得なかったと思う。
「やっぱり持つべきものは友達だね。グラントに相談したら全部解決しそうだよ。」
「ああ。普段はちっとも会わないのに、エルデが俺のことを何だかんだ言いながら頼ってくれるのは嬉しいよ。」
グラントが本当に嬉しそうに笑っている。最初にグラントの所へ相談に来て良かったな。
「仕事柄そんなに顔を合わせる機会がないんだから仕方がないさ。それに、毎日のように顔を合わせている仲のいい奴だけが友達っていうもんじゃないだろう。」
「そうだな。俺達みたいな仕事をしていると、友達のありがたみが本当に、よぉ~く分かるぜ。」
「ああ。私も数は多くないけれど、学院で友達を作っておいて良かったと思っているよ。」
ベッドの注文の話から色々と脱線してグラントとエリナを交えた三人で世間話をしている間に、エリナが王宮へ使いを出した商業ギルドの者が帰ってきた。
私宛の書状があるとのことで、使いの物が私に直接書状を渡してくれた。グラントとエリナに断りを入れ、その場で中を改める。王宮からの回答は次のような内容だった。
『王宮から魔法屋へ依頼している「任務」の都合上、魔法屋の片側が常に王都の一番端になるよう定めている。このため、事前に届け出てくれれば魔法屋の増築に必要な土地の使用に関しては全く問題はない。ただし、周囲の店と比べて見た目が著しく華美になったり、変に魔法屋が悪目立ちしたりするような増改築は避けて欲しい。できたら今後も魔法屋で増改築の必要がある場合は、今回のように事前に図面を見せてもらえると有難い。』
とりあえず今回の増築の土地問題に関しては呆気ない位簡単に解決したのでほっとした。
ほっとしたのだが。
私は書状の下の余白に書かれた一文に目を奪われ、思わず書状の端を握り締めてしまった。
『お店の増築が落ち着いた頃、私もそちらの様子を見に行かせて頂きますね。 ギル』
別人になりすますため筆跡はわざと変えているようだが、ギルという名は、私の弟の偽名の一つだ。全く、あいつはこんな部署にまで出入りしていたのか。奴のにまっとした笑顔を思い出してしまい、書類を握り締める手に力が入ると共に、眉間に皺が寄る。
「お、おい。エルデ、大丈夫か。」
私の様子を見たグラントが心配して声をかけてくれた。
「あ、ああ。ちょっと予想外の人物から返事が来て驚いただけだ。グラント、心配してくれてありがとう。」
私はゆっくり深呼吸して気持ちを落ち着かせると、増改築用の図面をもう一度テーブルに広げた。ついでに自分の眉間を撫でて皺が寄っていないことを確認する。
エルデの弟であるギル(偽名)は名前のみの登場で、しばらくは物語に登場しない予定です。




