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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ


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着替えてはみたものの

 私は鞄を持って昨日使った脱衣所に行き、着替えることにした。ローブを脱いでよく見ると、エルデさんに借りたシャツは立った時に私の腿の真ん中位までの丈しかなかった。昨日の夜はとにかく眠かったので全く気にならなかったが、改めて自分の姿を見直してエルデさんがローブを羽織るよう気遣ってくれた理由が何となく分かった。


 今まで着ていたエルデさんのシャツは小さく畳んで鞄の中にしまおう。もふさまはシャツでくるんであげたほうがいいのかな。うーん。シャツを鞄の底に敷いて、その上にもふさまを置いておこうかな。お洗濯・・・が自分でできるようになるのが、いつになるか分からないのが心配だけど・・・もふさま、ちょっとの間がまんしてね。もふさまを鞄にしまい、ミリルさんが洗ってくれた服を着る。私・・・こんな服を着ていたんだっけ?改めて見ると、この服も実際、どこでどうやって手に入れたか覚えていない。

 

 本当に、覚えていないこと、ばっかり、なんだ・・・な・・・・・・。


 何故、自分がここにいるのか、本当に分からなかった。とりあえず親切なエルデさんが自分の家にいてもいいと言ってくれた。そして、自分はお店をやっているから自分の店で働けばいいと。それは本当に有難いと思う。


 名前を聞かれた時、何も考えずにサーラ・ファリュージャと答えていた。でも・・・さっきエルデさんに年齢を聞かれた時に、私はすぐに答えられなかった。自分の年が・・・分からなかったから。とりあえず頭の中に聞こえた声の通りに答えたけれど。そもそもさっき聞こえた声は何なのだろう・・・それに、私。私は本当にサーラ、サーラ・ファリュージャなの?


 急に心細くなって涙が出てきた。慌てて目を閉じたが、涙が目からあふれて両頬を伝う。ぼーっとはしているが、見ず知らずの自分のために親切にしてもらっている人の家の中で、さすがに声を上げて泣くのは気が引ける。私はしばらく静かに涙を流した。


 ふと洗濯された物を見ると、起きたときに顔を冷やした布切れもきれいに洗ってくれてあった。これで涙を拭いておこう。私はその布切れで涙をぬぐってから鞄にしまった。鞄の中へ布をしまおうとした時に、指先がもふさまに当たった。


 もふさまに少し触っただけで、自分の心がすぅっと落ち着いて行くのが分かる。私は、しばらくもふさまを触って気持ちを落ち着けようとした。もふさまを触ってだいぶ落ち着いてきたので、深呼吸を数回繰り返す。これなら大丈夫かな。ただ、顔が涙でひどいことになっているに違いない。


 そうだ、台所でもう一度水をもらって顔を拭いてこよう。


ようやく気持ちを切り替えられたので、私は布切れを持って台所へ急いだ。台所の扉をちょうど開けようとしたとき、扉が急にがばっと開いた。


「ひぃぃぃぃっ!」


台所の扉を開けて姿を見せたのはミリルさんだった。


「ご、ごめんなさいね。大丈夫だった?もしかして私、あなたのことを涙が出るほど脅かしてしまったかしら。扉の向こう側にあなたがいるとは思ってなかったのよ。台所に何か用でもあった?」

「はい、ちょっと顔を拭きたくてお水をもらいに来ました。」

「あら?水ならあなたが着替えていた脱衣所でも出せるけれど、もしかして知らなかった?エルデさんに教わっていなかったのかしら?」


「・・・そ、そうなんですか?昨夜はものすごく眠かったから、教えてもらったけれど覚えていなかったのかもしれません・・・」

「そうだったの。まぁいいわ。ついでに教えておくから、ついていらっしゃい。」

「はい・・・。」


 ミリルさんと一緒に脱衣所へ戻った。浴室側の壁際に棚が置いてあり、棚の上に大きな白い器が置いてある。


「ここの白い器のある壁に四角いボタンがあるのは分かる?」

「はい。」

「このボタンを押すと、押している間だけ白い器に水が溜まるようになっているのよ。」

「そうなんですね・・・」

「器から水を溢れさせないように気をつけてね。水を捨てる時は隣の浴室に器の中の水を捨てていいわよ。浴室の中はちゃんと水が流れるようになっているから、浴室の中ならばどこへ流しても大丈夫。物は試しで、実際にやってみたらどう?」

「はい・・・やってみます。」


 私は壁のボタンを押してみた。白い器の底から水がちょろっと出てきたように見えた。少しボタンを押し続けると、じわーっと器の底から水が湧き出てきた。水が湧き出て来る様子を見ているのは面白い。


「サーラさん、そろそろ水があふれるわよ。」

「え・・・?あ、ありがとうございます。」

ミリルさんの声で我に返った私は慌ててボタンから手を離して水を止めた。危ない危ない。あと少しで器から水が溢れるところだった。私は水に布切れを浸して軽く絞り、顔を拭いた。ふぅー、これで涙の跡も消えるかな。器に残った水で顔を拭いた布切れを軽くすすいで絞った。


「あ、あのー・・・これ、乾かしたいんですけど、どうしたらいいですか。」


私はミリルさんに、布切れを見せてながら尋ねた。


「ああ、そこの棒に干しておくといいわ。濡れた服をここで乾かすこともあるから大丈夫よ。この大きさなら私たちが買い物から帰ってくる頃には乾くでしょう。」

「そうなんですね・・・では、干しておきます。」


 ミリルさんが指し示した方には壁全体に手すりのようなものが取り付けられていた。ここで洗ったものを干したりするのかな。私は手近な高さの所に布切れを開いて干した。


「まだ他に何か用事はあるかしら?着替えも大体終わったように見えるけど。もう支度は終わったの?」

「はい・・・大体、おわり・・・ました。」

ミリルさんは私の服装を上から下までざっと眺めた。


「サーラさん、先程着ていたローブも羽織ってしまいましょうか。出かけるのが遅くなると帰りも遅くなってしまうわ。エルデさんに必要なものを確認したら、すぐに買い物へ出かけましょう。とりあえず書斎に戻りましょうか。」

「はい、分かりました。宜しくお願いします。」


 私はミリルさんにお辞儀をするとローブを羽織り、もふさまとエルデさんのシャツが入った肩掛け鞄をローブの上から肩に掛けた。これで準備は、大丈夫・・・だと思う。


 私はミリルさんと一緒に書斎へ戻った。

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