真夜中の研究所
中学の時、テスト勉強中に爆睡した たけちゃんの唇を奪った時、マシュマロよりも柔らかくて温かったのに、奴の唇はナメクジのように気持ち悪い感触でしかなかった。
そのナメクジが首筋から唇に向かおうとしている。
「いや…」
抵抗しようと腕に力を入れるよりも早く、私と奴の間に腕が見えた。
「!」
奴の腕は馬乗りする自分の体を支えている。明らかにもう1人いた。
「面白そうな事をしているじゃないか」
新たなる声の主は、その腕を奇怪に動かした。
骨のない、タコみたいに曲げたかと思うと、私の上にいた奴に絡みつき、持ち上げて壁に叩きつける。
「ぐぁっ」
壁にぶつかった衝撃でうめく声がした。
腕はベッドから壁まで伸びている。
「なに? 何なの?」
何が起きたのか、頭はまだ混乱しているけれども、奴から解放されたので逃れた一心でベッドから離れた。
「これが人間の感触か。重い。ぬめぬめして、自ら熱を放ち、実に気持ちの悪い」
腕は二段ベッドの上段から壁まで伸びている。
おそるおそる視線を向けてみると…横になってテレビを見るように、リラックスした人…のような物体がいた。
満月の明かりしかないからはっきり見えないけど、明らかに人間ではなかった。
「だ、誰?」
「カジュマルだ。覚えておけ、人間」
態度のでかい非人間、カジュマルは、軽やかに二段ベッドから降りた。ついでに伸ばしていた腕を元に戻す。
「ひぃっ」
解放された仲原さんは、自分がした事を忘れ、被害者ぶった声をあげて部屋を駆けだした。
「……」
助かった。
「助けてくれて、ありがとう」
得体の知れない非人間にお礼を言ったけれども、返ってきた言葉は、予測できないものだった。
「助けたわけではない。
人間の繁殖とやらが どういうものか観察したかったが、ママがお呼びだ」
「ママが?」
カジュマルの言葉に反論よりも疑問が出てきたのは、最近、ママの声が聞こえなかったから。
「まは、人類滅亡前の人間世界を自らの足で歩いてみたいと望んでいる。そのため人間に近い体を生み出そうとしているのだ」
「人類滅亡…」
ママが、人間に近い体を作って観光したいたという行動に驚くべきなんだけれども、人類滅亡の言葉に思考を持って行かれた。
「……やっぱり、人間は滅亡するんだね」
「当たり前だ。お前達 人間は、傷つける以外にママに何をした? 滅んで当然だ」
非人間はきっぱりと即答し、反論はできなかった。
カジュマルの背中を追って外に出た。
建物や街灯に遮られて、普段は月が出ているかぐらいに気にならなかったけれども、辺りに何もない研究所施設は、月光という天然の明かりに照らされていた。
「……」
月光に照らされて歩く『カジュマル』とかいう得体の知れない奴の後ろ姿は、さらに非現実的感ただよう。
白く淡い緑色の肌に紅葉色の目と唇。
服の代わりに蔓や葉っぱが覆われてて、細身のくせに胸は大きくてウェストはきゅっとしまっている。性格が悪くなければ、モデル体型と言っていたと思う。
「……カジュマルって人間じゃないよね」
「人間なんかになってたまるか。ママの指示と、速く移動しなければならないから仕方なくなってるだけ」
「そうなんだ。それはそうと、ママはどこにいるの? 本当に会えるの?」
「ついてこれば会える」
カジュマルはそれ以上、答えない。人間にわざわざ説明するなんて面倒くさいからだろう。
仲原さんが悲鳴を上げて逃げていったけれども、騒動で起きた人はいない。
だからこの庭には2人…1人と1本しかいないと思っていた。
「ママは奥でお待ちだ」
研究所の庭は、サッカーの試合ができるぐらいの広い芝生スペースと、外から覗き込めないように、林と呼べるぐらいの木が植えられていた。
カジュマルの足が止まったのは林のだいぶ前、芝生スペースのど真ん中だった。
「!」
カジュマルの異様な姿に視線が釘付けになっていたのと、ただ単にカジュマルが遮っていた2つのせいで気づけなかったが、庭のど真ん中は非現実的になっていた。
まず目についたのは、光る目を持つ生物、猫が数匹いるのと、その下にうごめくネズミとかの生物たち。
「まったく、お前らは呼んでいない。去れ」
カジュマルの腕が超高倍速で撮ったアサガオの蔓みたく伸びると、ムチのように地面に叩きつけて生物たちを威嚇した。
生物たちは瞬く間にその場から逃げたけれども、去る気にはならず、数メートルで足を止め、元の場所を見つめる。
『傷つけては駄目よ、カジュマル。みんな、私の可愛い子供たちなんだから』
「傷つけてなんかいないよ、ママ」
「?」
カジュマルは地面に向かって優しく、少し甘えたような声をかけていたけれども、地面には何もなかった。
そう、本来あるはずの芝生も。そこだけで綺麗に刈り取ったかのように、1メートル四方の土だけがあった。
「さぁ、栞音。ママの声が聞こえる唯一の人間。ママの所においで」
土の中から声が聞こえた。




