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3日勇者  作者: 楠木あいら
day2
33/52

話し合い?

「出かけるって?どこにどうやって?」


 改めて言うがここはビジネスホテルの3階。襲撃を防ぐためドアも窓も開かない。

 カジュマルは歩き出し、ママさんに報告する形で俺の問いに答えた。


「ママ、今度は北にある大陸の人間どもが、また 移住計画ロケットを打ち上げると言う可笑しな行動している」

「あら、困った子ね。仕方ないわ。

 私の可愛い子供たち、ちょっと出かけてくるから、お留守お願いね」


 姿は見えないが、まるで隣にいるぐらいの音量で、ママさんの声が届いた。

 違和感があったが、それどころではない。風呂場に向かったカジュマルが、栞音と引き換えに入っていったのだから。

 つまり、栞音が姿を現した。


「ドーベル、留守中にママの体を見張っててくれ。そこに年頃の男がいるから無防備にできない」

「ドーベル、お願いね」

「ママの頼みならもちろんです」


 ドーベルは素直に風呂場に向かい、部屋は2人っきりとなった。

 と言うよりユニットバスに3人って狭くないか?カジュマルは?ママさんは遠隔操作だから体を置いて行けるけれども、カジュマルも遠隔操作ボディなのか?

 ……くそう、確かめてみたいけれども、入れない。


「変態」


 この思考を知らず、ただお風呂場の方向を見ていた俺に栞音が吐き出した言葉は、それだった。


「何も着ていないママに何かしようなんて、変態」

「何が変態だよ。そっちだって何してるんだよ。人を種にして。これって立派なはんざ…」


 言い終わる前に種銃を向けられて、言葉が消えてしまったが、そのまま口を閉ざす気にはなれなかった。

 なぜだろう。多分、幼なじみだからだろう。昔からの仲だからか、黙る気分にはなれない。


「撃てるものなら撃ってみろよ」


 鋭い風が頬をかすめる。


「本当に撃つことはないだろうが」

「うるさい。たけちゃんはいつもそう。デリケートな領域に勝手に土足でドカドカ入ってくる。デリカシーなさすぎ」

「何が『でりかしー』だよ。そっちだって夕飯食いに来たかと思えば、勝手に俺の部屋に入って、物を漁ってくる。俺にだってプライバシーがあるんだからな」


 人類滅亡を阻止するため、何よりも暴走する栞音と話し合いをするはずなのに、内容が日常すぎる……


「プライベートというより、やましい物を隠して、見つけられたくないからでしょ。身が潔白なら入っても気にならないわよ」

「やましい物って…そんな物はない」

「何よ、その間。証明しているじゃない」


 くそう、視線が栞音に合わせられない。


「本当に信じられない。男っていつもそう。黙っていれば隠せると思っているんだから、バレバレなのよ」


 俺に向ける銃口が頭から胸に移動した。ヘッドショットも一撃なので、変えても意味はないのだが。


「でも、もう良いの。人間は明日でお終いなんだから。たけちゃんの事も見逃してあげる」

「何だよ、それ」


 『やましい物』てっきり書物やDVDの話だと思っていたが、何か違う。


「そう。もう、何もかもお終い。全てがリセットされるのよ」


 栞音の笑みが夜のように暗色していく。


「消える、消える、消える。たけちゃんの歴史も闇に染まる前に、きれいなままで終わるのよ。

 だって人類は滅亡するんだから」


 今まで見たことのない栞音がいた。


「何だよ、それ」

「良くそんな事が言えるわね。

 私が研究所に行っている間、何してたの?」


 栞音の目が刃物ように鋭くなった。


「何って、学校行って、飯作って、友達とつるんでカラオケ行くとか」

華木(はなき)先輩は?」


 予想もつかない固有名詞が栞音の口から飛び出てきた。


「華木先輩は? たけちゃんの小遣い稼ぎで仲良くなったんでしょ」


 その前に『小遣い稼ぎ』について説明しなければならない。

 親は研究所に行きっぱなしで帰りが遅く、空腹を満たしたければ作らなければならなかった。もちろん、昼食の弁当も例外ではなく、テスト期間を除き、栞音の分も合わせて作っていた。

 ただ、その弁当を1人分、余裕がある時は2人分多めに作り、それを学校で売っている。弁当用のLINEグループを作り、親や教師にチクらない信頼できそうな人だけ招待し、そこで購入者を募った。冷凍食品を使わないのと、日々料理スキルが上がっているせいか、売れ残る事はない。

 費用も『食べ盛りだから』と偽って親から貰っている分、使い捨ての弁当箱と割り箸代を引けばそのまま自分の懐に入る。なのでバイトしなくても良かった。

 そして、その購入者の中に華木先輩がいた。

 華木先輩は弁当を売りさばいている噂を聞きつけ、直接声をかけてくれて、常連さんの1人となった。

 言っておくが、先輩と一線を越えた関係など、残念ながら もちろんない。


「華木先輩は、お客さんの1人だ」

「よくもそんな事が言えるわね。私、知っているんだから。華木先輩は関西にある有名な調理専門学校の理事長の孫娘で、たけちゃんをお気に入りだって」

「何だよ、それ。誰から聞いた」

「研究所から帰りのバスで、同じ学校の人達が話しているのが聞こえた」

「……」


 言葉がつまった。

 先輩とは恋愛関係はなかったが、声はかけられたことはある。

 『おじいちゃんの専門学校に来ない?』と、


「でもあれは、あくまで受験しないかで。優遇なんて……」


 風を切る小さな音が耳に届き、胸に痛みが走る。

 種化も貫通もしないが、痛みに胸を押さえ、前屈みになる。


「やっぱり、隠してた。嘘つき、信じられない」

「嘘って、恋愛関係のない。ただの進路じゃないか。卒業すれば、誰だって進学や就職する。当たり前の事を」

「うるさい、うるさい、うるさいっ。私に黙って、こそこそ離れていくなんて信じらんない」

「私に黙ってって、何で俺の進路に栞音の許可がいるんだよ」

「幼なじみでしょ。いつも一緒にいて、これからもずーっと一緒にいられると思ったのに。

 ずーっと一緒いるの。学校も研究所も先輩も、もう関係ない」


 栞音が闇のように笑ったが、俺は1つの言葉にひっかかった。


「栞音、研究所で何かあったんだろ」


 栞音の表情が人間に戻った。



 岳春の収入。栞音の親からも|(岳春の親に内緒で)貰っている設定があったりします。

 おこづかい に弁当代に栞音親からの収入…うん、バイトいらず。


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