か・ぞ・く 4
・・暇だ。
「お父さん散歩いこ」
「ん?」
お父さんじゃないと否定することに飽きた俺、妥協したわけではないけれど、諦めた。
「公園でも行こうよーバトミントンあるよー」
「分かった分かった、服を引っ張らないでくれ」
重い腰を上げると歩いていった。玄関に出て門を見ると、見知らぬ客人が居た。
「・・なんだこのデブ猫」
「ダルマだ」
・・達磨法師?
「おいでダルマー」
デブ猫がのっそとおき上がると明日香のほうを見た。見ただけで飛びついたりはしない。貫禄のある顎下の肉が震える。
「んなぁー」
もはや猫の鳴き声ではない。
「不吉な予感がするから帰ろう」
「えー?!だるまは白猫だよー?黒猫じゃないよー」
「横切ってなくとも黒でなくともなんかそんな気がしたんだ、戻ろう」
「いぃーやぁー!!」
服をつかまれかえろうとした足を止められる。・・前も思ったが重い・・っ子どもって思っていた以上に重いんだということが来て早々分かった。分かったからといってどうにかなるわけじゃない
「はぁ」
妥協するしかないか。
「分かった、行くか」
「おぉ!わーい」
手を掴んで引っ張るように歩き出した。ダルマが「んなぁー」と見送った。
「ダルマはねー、お隣のおばあちゃん家の猫なのー、ダルマのね、奥さんがね、美人でね、シラタマっていうのー」
「白い猫で丸いのか」
「お父さんスゴイねぇーよく分かったね!」
分かるだろう。
お隣のお婆さん、猫に餌やりすぎだ。
家を出て、歩いて10分もかからないところに公園はあった。
「わーい」
一人独走。
ブランコに乗って遊びだしたのでベンチに座ってその様子を眺める。前に後ろに前に後ろにゆれる。楽しそうに遊ぶ子どもを見ると、自分の子どものころを思い出す。
「・・おとーさーん」
ハッ
思い出に浸っていたのを、明日香の声が引き戻した。明日香のほうを見れば片手を大きく振ってよんでいた。
「・・・・・」
近寄ると明日香は晴生に抱きついた。
「?」
「えへへー」
頬を赤らめ喜ぶ、何が嬉しいのかさっぱり分からない。
「どうした?」
「なんでもないよー」
明日香は離れるとジャンプして次の用具のところまで行った。
「わからん・・」
ぴぴぴぴぴ・・会社を休んで初めての電話がかかってきた。
「・・拓郎か」
電話に出ると、明るい声が聞こえてきた。
『よぉー!どんなだ?』
「何が」
『もーとぼけんなってー、びっじんな奥さんなんだろー?あ、もしかして初夜は結婚してか―――』
ブッツ
めんどくさくなって切る。するとすぐまたかかってきた。
「なんだ」
『軽い冗談だろー!?そのすぐ切るクセ止めろよな』
「切らせてるのはお前だろうが」
向こうのほうで笑い声がした。仕事中なのに電話かけていいのか?
『ま、俺らは心広いからいいものの、お前、もう少し女性には優しくしろよ?女性ってのは気丈に振舞っててもデリケートなんだからな』
「誰もがそうってわけじゃないだろう」
『そうだけど、写真見たけど清廉潔白って感じの奥さんだったジャねぇか。絶対今心の中で寂しいって思ってるんだぜ』
「だから?」
『だからって、おめーほんっと駄目なやつだなー』
ブッツ・・ぴぴぴぴぴ!
『だから切るなって!俺らはお前を応援してんだぜ?脱根暗―――』
ブッツ・・今度は着信拒否にしておこう。
「お父さん見てみて」
「?」
公園の隅に咲いている雑草の花を指差した。
「綺麗だね」
「・・そうだな」
小さく白い花
「もって帰ろう」
明日香はそういうと花を摘もうとしたが、手を引っ込めた。
「どうした?」
「可哀想だからやめたの」
「可哀想?」
「お花さんも生きてるんだよ」
ほう、初耳。子どもが考えそうなことだ・・しかし、最近の荒んだ若者にしてはピュアな感想じゃないか・・五歳児だけど
「・・あれ?明日香ちゃん?」
「あ!お姉ちゃん」
・・お姉ちゃん?振り返るとポニーテルで活発そうな女子高校生が居た。学校帰りなのかスクール鞄を持っていた。こちらを怪しいものを見るような目で見てきた。
「あの・・どちらさま?」
なんだ、この人攫いパターン
「お父さんだよ」
明日香が目を輝かせながら言った。
「お父さん・・?今日子さんは?」
どうやら普通に知り合いらしいが、晴生のことはがっつり不審者と思っているらしい。
「お母さんはお仕事」
「そうなんだ・・」
じー・・疑われているようだ。しかし証拠を見せろといわれても見せようがないし・・。仕方ないとりあえず自己紹介でもしようか
「夕島晴生です」
「え?夕島・・?」
「お見合い結婚する予定なんだ、まだしないけれど」
「??」
ますますわけの分からないという顔をしていた。
「君は?今日子さんの知り合いのようだが?」
「・・あ、私この近くの高校通いで、上松由加里っていいます」
「悩める高校生なんだよね」
明日香は分かってるのか分かっていないのかへんなフレーズを口にした。でも、関係性はよく分かった。今日子がココで彼女の悩みでも聞いているのだろう・・。
「お姉ちゃん、暇なら一緒にあそぼー」
「え・・?」
「そうだな、遊んで来い」
「えぇ」
丁度いい押し付け相手ができた。
「あそぼー」
彼女はそのまま鞄を置いて遊びだした。悩める高校生か・・誰がつけたんだ?
今日子しか居ないか・・