"華"の女子大生
坂道を上っていると後ろから
「はなー、おはよー!」
と声がし、振り返ると友人の夢子が手を振っている。
ここは北陸地方の石尾県白沢市。
上園華は4月はじめに国立白沢大学に入学し、一人暮らしを始めて3週間が経つ。
同じ学科の矢場夢子とはすぐに意気投合して仲良くなった。
お互い身長は169cm前後、体重は…言えないけれど2人ともなかなかのふくよかである。
目が細く一重の地味めな顔立ちも2人は似ている。
違うところと言えば、華は自分の容姿に劣等感を持っているが、夢子は底抜けに明るい。
「夢子、昨日テニスサークルの新歓コンパ行ったんでしょ?どうだったの?」
「楽しかったわよ。と言っても女の子としか喋ってないけどね。イケメンはいたことはいたけどね、美女にばっかり話しかけてさ、私は視界に入ってなかった」
夢子は話の内容とは反対に楽しそうに笑った。
「駅前の『White River』っていうおしゃれなレストランでやったの。美味しかったわよ。今度2人でランチ行ってみる?」
「…考えとく」
「それより華はサークルには入らないの?」
「サークルねぇ…。なんかピンと来ないのよね…」
華は3月末に実家を離れた時に母と交わした会話を思い出す。
母は
「"華"の女子大生生活楽しんでね」
と言うが、華は
「うーん、"華"の女子大生とは言えないかも」
「なんで?」
「だって太ってるうえに腫れぼったい目でしょ、鼻は横に広がってるでしょ、髪はごわごわ硬くて癖毛でしょ。それに声も低いし、なんだか男っぽいし。どうがんばっても華やかな生活にはならないわよ」
「何言ってんの、あんたは可愛いわよ。それにまだ18歳、若いんだからね。若さは武器よ!自信を持って名前の通り華やかな毎日を楽しんでらっしゃい!」
と母の方は自信満々だ。
母は華のことを本気で可愛いと思っているのだ。
もちろん細い目をパッチリ二重と勘違いしているとか、横に広がった鼻を鼻筋が通っていると思い込んでいるとか、そういうことではない。
見た目とは別に盲目的な愛情、強力な親バカフィルターで華を可愛いと思っている。
華もそれが分かっていて、どんなに否定してもさらにその反対が返ってくるのは目に見えているので、ここはあきらめて、
「ありがとう。行ってきます」
と家を出てきた。
しかし現実は厳しく、男の子達はやはり初対面では美人にしか興味を持たないように思え、華や夢子はなかなか男の子と話すきっかけすら掴めない。
まあ彼氏を作るために大学生になったわけではないんだけどね…。
華はとりあえず一人暮らしにも少しは慣れてきたし、授業のリズムも整ってきたし、映画のような出会いはなさそうだし、バイトでも始めようかと思いつく。
募集サイトで検索すると、ちょうど大学と駅の間にあるワッフル店「小春庵」を見つけたので、早速応募フォームを送信すると、その日のうちに面接の日時が返信されてきた。
「もう来た!」
どんなお店だろう。どんなスタッフがいるんだろう。華は新しい日々を想像し、ワクワクする。
この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。




