第十二話 本当のAI(最終話)
一週間後。
カルロフは調査委員会に出頭し、計画の全容を自ら証言した。ヴァルタ情報管理局は解体された。選挙は予定通り半年後に行われることが決まった。
ヴェラの再設計委員会が発足した。委員にはリナ、津城、オルソン教授、そして市民代表が加わった。桐島は法的な手続きを進めながら、委員会に技術顧問として参加することになった。
再設計委員会の初回会議の日。リナは会議室の窓から、ヴァルタの街を見た。
津城が隣に来た。缶コーヒーを持っていた。いつもと同じ顔だった。
「緊張しているか」「少し」「そうか」津城はコーヒーを一口飲んだ。
「ヴェラを再起動した後、また歪むかもしれない」「分かっています」
「また誰かが改竄しようとするかもしれない」「分かっています。だから委員会があります。だから複数の人間が関わります。だから——継続的に監視します」
「終わりのない仕事だ」「そうですね」リナは少し笑った。「でも——終わりのない仕事がある、ということは——終わりのない理由があるということです」
津城は窓の外を見た。ヴァルタの空が広がっていた。青く、高い空だった。
「お前が最初に報告書を持ってきた時——三日目の朝だ。あの時、正直に言う。私は、また潰されると思った。お前も、私も。どうせまた、正しいことをした人間が負けると」
リナは津城を見た。「でも——」
「お前は負けなかった」津城は静かに言った。「それだけだ」
リナは窓の外を見た。ヴァルタの街が広がっていた。人々が歩いていた。その人々のスマートフォンに、今日も情報が届いている。誰かが発した言葉が、誰かに届いている。
その言葉が——正しく届くように。削られず、歪められず、書き換えられず。そのために、リナはここにいる。
「始めましょう」リナは言った。会議室のドアを開けた。
世界は、一度で変わらない。カルロフが去っても、また別の誰かが現れるかもしれない。ヴェラを再設計しても、また別のAIが歪められるかもしれない。
でも——気づく人間がいる限り、止められる。気づき続ける人間がいる限り、終わらない。
倉木リナは、会議室に入った。その背中を、ヴァルタの青い空が——静かに、力強く、押し出していた。
The Hidden Truth AI洗脳戦 完
あとがき
この物語で描きたかったのは、一つのことです。
情報は、誰のためにあるのか。
人工知能は道具です。使う人間の意図によって、人を助けることも、人を支配することもできる。しかし——どんなに精巧なシステムでも、最初に気づく人間がいる限り、止められる。
倉木リナが最初に感じた「気持ち悪い」という感覚。それは技術でも知識でもない。言葉を大切にしてきた人間だけが持つ、皮膚の感覚だ。
あなたも持っているはずです。何かがずれている。何かがおかしい。その感覚を——大切にしてください。たいてい、正しいから。
八雲 海
The Hidden Truth AI洗脳戦
本作品はフィクションです。登場する人物名・団体名・組織名・国名・地名・事件等はすべて架空のものであり、実在する個人・団体・国家・事件とは一切関係ありません。
作中に登場する「ヴェラ」および人工知能システムは架空のものです。実在する人工知能技術・製品とは無関係です。




