23話 望まぬ再会、あふれる殺意
前回のあらすじ
・ユウキ「シンジの下僕……うん、まあ、実情そうだけれども……」
・スカサハがシンジと契約するために専門施設から脱走
・警察官「最後通告__」←槍を投げられる
ぴりっ、と、肌が引きつるような痛みを感じた。
いや、怪我をしたわけではない。ただ、それほどまでに空気が、張り詰めたのだ。
「コンラ……?」
すさまじい怒気に、ユウキは声を震わせながら、コンラの方を見る。
コンラの表情は、抜け落ちていた。いや、その言い方では正確ではないだろう。黒色の瞳の瞳孔は開き切り、目は零れ落ちそうなほどに開かれ、窓の外を見ている。
ひりつく殺意に、凍えるような怒りに、ユウキはただ何も言えずにコンラを見る。コンラは奥歯を噛みしめると、盛大に舌打ちをして、ぐっと拳を握り締めた。そして、ユウキに言う。
「命令しろ」
「へ……?」
ポカンとするユウキ。しかし、コンラは次の瞬間、保健室の白い床を踏みしめ、地を這うような声で言う。
「言え。アイツに挑めと……!」
「だ、ダメだよ! 何でそんなこと言うのさ!」
驚いてびくりと肩を震わせるユウキ。本気で怒っているらしい彼の表情は、あまりにも起伏がなく、ただただユウキは恐怖を覚えることしかできない。そして、同時に察した。滅茶苦茶マズいことになったと。
コンラの死因は、実の父親クー・フーリンである。詳しく聞いていないため、彼がアルスター物語群のどのコンラなのかはわかっていないが、誰にしろコンラは父クー・フーリンに殺されている。
自分だけではコンラを止めることはできないと判断したユウキは、彼の叔母であるというスカサハに言う。
「すいません、スカサハ様! 止めるのを手伝ってもらっても……」
「ふはは、何とあの愚弟子、私に挑むか……! いいだろう、その挑戦受けてやる!」
「貴女そんなゲッシュありましたっけ?!」
いかにも楽しそうに笑うスカサハ。ユウキはスカサハのゲッシュを知らないが、少なくとも挑戦系統のゲッシュではなかったように思える。単純に戦いが楽しいから武器も持たずに外へ出ようとしているのだろう。シンジはあきれたようにため息をついていた。
ユウキはハッとしてシンジに言う。
「その、シンジ。今なら、帰れると思う! 僕はコンラ止めてから追いかけるから……」
「黙れ」
シンジは機嫌悪そうにそう言いながら、コンラを一瞥する。そして、言った。
「てめえがそんなことをしていれば、ババアどもの戦いに巻き込まれてヨワキが死ぬぞ」
「だからどうした」
「だからどうしたじゃねえよ、おがくず頭が」
シンジは無表情で怒るコンラを嘲笑し、言う。その言葉に、初めてコンラはその眉間にしわを刻んだ。
__何で挑発するんだよ……!
コンラが自身の死を軽んじたことよりも先に、ユウキはシンジの心配をしていた。もしもこれをコンラが『挑戦』だと受け取れば、必然的に戦闘が始まってしまう。そうなればシンジも危ない。
しかし、そんなユウキの心の起伏にはまるで気が付かず、シンジはコンラを鼻で笑い、言葉を続ける。
「てめえがいくら好きなように戦ったところで、下らねえところでこいつが巻き込まれて先に死ぬのがオチだろうが。そうなりゃ、必然的にてめえも満足しねえままに死ぬぜ? それもわかんねえのは足りてねえんだろ、ココ」
シンジはそう言って、自分の頭を人差し指で刺し、わざとらしくつつく。そのあからさまな挑発に、コンラは開いていた目をさらに見開き、額に青筋を浮かべた。
「確認しよう、それは俺に対する挑戦か?」
「そんなわけねえだろうが。てめえごときに挑戦するほど暇じゃねえんだよ」
怒るコンラを、さらに煽るシンジ。爪を保護するための赤色のネイルが、保健室の白色の光に照らされてきらりと反射する。いつの間にかスカサハは保健室のすぐ外にあった物干し竿を片手に校庭へ向かっていた。
コンラはしばらく押し黙ると、盛大に舌打ちをしてシンジに言う。
「そいつを連れて行け。俺だけ残ればいい話だろうが」
「い、いや、ダメだよ! 他の召喚獣への攻撃は法律違反だ!」
「じゃあ叔母さんは何だよ」
「スカサハ様はそもそも……うん……脱走している時点で論外と言うか……」
「……そうだったな」
言いよどむユウキに、コンラは小さくため息をつく。ようやく怒りもマシになってきたのか、眉間に刻まれたしわを指でもみほぐしながら、コンラは頭をがしがしとかいた。
「……とりあえず、叔母さんの戦闘に巻き込まれないように帰るか」
「ああ。ありがたいことに目的忘れてるっぽいしな」
目を伏せいうコンラ。シンジはそう言って大げさに肩をすくめて見せた。
ユウキは少しだけ考えた後、コンラに問いかける。
「でも、挨拶をするくらいする? 戦闘は流石に許可できないけど……」
「……行ってもどうせ名乗れないからな」
「名乗りくらいは僕が代理するよ。紹介はゲッシュに抵触しないだろう?」
「そうだな。……殴りたくなるかもしれねえが」
「だったら止めておく?」
「いや、あのクソ親父に嫌味の一つでも言わねえと気が済まねえ。前は言う前に殺されたしな」
コンラはそう言ってそっと目を細めた。校庭では既に物干し竿を持ったスカサハとゲイ・ボルグを持ったクー・フーリンの戦いが始まっている。何故か武器に差があるにも拘らず、クー・フーリンは逃げ腰であった。
「師匠! 頼むから、話聞けよ!!」
「ふはは、武器を持って挑んだのは貴様だろう」
「まだ挑んでねえんだけど?!」
物干し竿を横なぎにふるうスカサハ。視界の外から側頭部を狙うその一撃を、クー・フーリンは表情を引きつらせながら朱槍で受け止める。
ゲイ・ボルグの鋭い槍がきしむ音が響く。腕がびりびりと振るえ、心臓がぞくりと縮み上がる。思わず苦笑いを浮かべ、クー・フーリンは短く息を吐く。物干し竿である以上、当たっても死なないとはいえ、もしもこれがスカサハの愛用する黒槍であったならば、どうだったのだろうか。
「いいからちょっとは落ち着いてくれ、師匠!」
クー・フーリンは表情を引きつらせながらスカサハに怒鳴る。カウンター気味に槍を手元で回転させ、足払いをしかけるのを忘れずに。
朱槍ゲイ・ボルグの足払いを難なく回避し、スカサハは首をかしげて問いかける。
「ほう、私のどこが落ち着いていないように見える?」
「いきなり攻撃を加えてくんのは普通じゃねえだろうが!」
「……?」
「くそ、師匠に人類の一般常識を言ったのが間違いだった……!」
琥珀の髪飾りがしゃらりと音を立てる。金の髪はオレンジの夕日を浴びて柔く輝いていた。オレンジの光で、朱槍はより不気味に艶めく。
持っている武器の質は、歴然である。しかして、武芸の達人であるクー・フーリンをもってしても、攻めあぐねていた。
理由は簡単。スカサハがクー・フーリンの師匠であり、その戦いの癖を把握していたからだった。
「どうしたセタンタ! 足が留守になっているぞ?!」
仕返か、それとも、手本か。スカサハの振るった物干し竿がクー・フーリンの脛を打つ。防具と金属がぶつかり合う鈍い音が響き、クー・フーリンは痛みで表情を歪めた。脛あて越しでも痛みは伝わったのだろう。
「……っ! 幼名で呼ぶんじゃねえよ、クソ師匠!」
クー・フーリンはそう叫ぶと、朱槍の穂先をスカサハの首に向ける。そして、容赦もなく突きを放とうとして……
バキン!
「んな……?!」
朱槍はネット通販で購入した安物の木刀を貫き、勢いをそがれた穂先はスカサハによって掴まれる。
砕け散った木刀。しかし、クー・フーリンはその木刀が突然現れたように見えていた。動揺して、一瞬スカサハから目を話すクー・フーリン。その瞬間、勝敗は決していた。
「一撃が当たらなかったからと言って油断をするな、愚弟子!!」
スカサハはそう怒鳴ると、左手で握ったゲイ・ボルグをそのままに、物干し竿から手を放すと、右拳でクー・フーリンの脇腹を容赦なく殴る。
ケルト人は戦争時に、鼓舞を用いてトランス状態に陥る。もちろん、武具を使う場合もあったが、多くの場合は鼓舞が続くにつれて正常な判断力を失うために、味方に害を与えないよう最初から素手で戦う者も多かったという。
つまるところ__女武者であるスカサハには、素手での格闘技の心得があった。
「ふぐぅっ?!」
的確に内臓を狙った一撃を無防備に受けたクー・フーリンは、小さくうめいてその場に膝をついた。勝負ありだ。
スカサハは機嫌よさそうに高笑いすると、膝をついたクー・フーリンの頭をワシワシと撫でる。
「どうしたセタンタ、弱くなったか?」
「師匠、アンタが異常なだけだ……」
「ふむ、先ほど生意気な口が聞こえたような気がしたが……?」
「何でもないです師匠。いや、それよりも」
クー・フーリンは眉をしかめながら、砕けた木刀に目を向ける。スカサハが防御のために木刀を使い捨てたわけではない。ならば、誰かが勝負に水を差した?
__いきなり邪魔しやがって……どこのどいつだ
内心舌打ちしながらも、それでも、あの一撃は確実に師匠であるスカサハに届くことはなかっただろうことを理解していた。
だとしてもだ。だとしても、油断すれば死もありうるスカサハとの打ち合いを邪魔されたのは、腹立たしい。なによりも、あの妨害のおかげでスカサハが若干手加減したのも間違いなくクー・フーリンのプライドを傷つけ、怒りの燃料になっていた。
眉をしかめ、折れた木刀を睨むクー・フーリン。そんな彼に気が付いたのか、スカサハは小さく肩をすくめて言う。
「木刀くらいで集中を乱す方もどうかと思うが」
「……そういや、師匠はさりげなく回避していたよな。どっから飛んできたのかわかっていたのか?」
後ろからじゃあなかったと思うのだが、とつぶやくクー・フーリン。そんな彼に、スカサハは茫然と目を丸くした。
「まさか貴様、意図的に無視していたわけではなかったのか……?」
「は?」
きょとんとした表情を浮かべ、首をかしげるクー・フーリン。
そんな彼の真横で、コンラは拳を握り締める。そして、吐き捨てるように言った。
「クソ親父が……!」
しかして、コンラの絞り出すような罵倒も、クー・フーリンには聞こえていないようだ。いや、クー・フーリンは、師匠であるスカサハが自分の隣と己を見比べているのを見て、さらに不可解そうに眉をしかめるのみである。
「どうした師匠。ついに幻覚でも見え始めたのか?」
「……それどころではないから、今はその口のきき方の罰は置いておいてやる。冗談などではない。貴様、いま、隣に誰がいるか、分かっているか?」
スカサハは、表情を引きつらせ、クー・フーリンに尋ねる。
しかし、クー・フーリンはあたりをきょろきょろと見回した後、首をかしげて答えた。
「アンタが目の前にいるだけだが? 後ろにいる連中は隣にいるってわけではないだろう? どういう質問だ、これ」
哲学的なやつか? と間の抜けた返答をする金髪の彼。その瞬間、戦闘に巻き込まれないように離れた位置で待機していたユウキは、思わず叫んでいた。
「だめだコンラ!! 下がって!」
「うるせえ、殺す……!」
奥歯を噛みしめ、怒りのあまりジワリと瞳に涙を浮かべながら、コンラは血の叫びをあげる。口からは、父に対する怨嗟の言葉しか出なかった。
見えないふりではなかった。聞こえないふりではなかった。
離れた位置から彼らの言葉を聞いていたユウキは、現状を完全に理解してしまった。
父クー・フーリンに挨拶をするために、二人の戦いを止めようとしたコンラは、まず話を聞くことはないだろうスカサハを無視して、クー・フーリンに声をかけた。しかし、彼はまるで気が付かない。
戦闘に集中しているからかと思い、確実に二人を同時に停められるだろう場面で……つまり、クー・フーリンがスカサハの首を狙い、スカサハは物干し竿でその一撃に対するカウンターをしようとしたところで……コンラは完璧に戦闘に介入した。
まず、スカサハの物干し竿を右足で踏みつけて振り抜けなくし、クー・フーリンの朱槍を木刀で受け止める。
最低限、突然人が割り込んできたら流石に戦闘行為をやめるだろう。そう思ったコンラだったが、思いもよらぬことが起きた。
なんと、クー・フーリンは木刀を砕き、そのままスカサハの首を狙ったのである。割り込んだコンラはその行為に、流石に対応しきることはできなかった。だからこそ、スカサハは槍を素手で受け止めたのである。
結果としてコンラは負傷することはなかったものの、あのまま槍が振り抜かれていれば、朱槍ゲイ・ボルグはコンラの首あたりをえぐっていたことだろう。
そして、その後のやり取りだ。
クー・フーリンは、すぐ隣にいる己の息子に気が付くことはなかった。
つまるところ、彼は、コンラを知覚できていなかったのだ。
【知覚不可能】
データがありません
データがありません
データがありません
パスコード入力
___権限が不足しています。
パスコード入力
Loading・・・・・・
パスコードが不正です
passコードが不正でs
・・・
・・・・・・
__可能性としては、英雄__が、正規の召喚獣でないことがあげられる。イレギュラーで召喚された__は、往々にして異常がみられることがある。特に、個体名【コンラ】はイレギュラーでの召喚で原作との齟齬が大きく発生してしまっている。
具体的には、コンラのあるべき年齢と姿、そして、何よりも、その力量に異常が発生していると思われる。
クーリーの牛争いの【コンラ】の年齢は、7歳から8歳程度。さらに、その実力は父であるクー・フーリンを上回っていたとされ、半ばだまし討ち気味に【コンラ】は殺害された。再和文学に当たる『クーフーリンの死』もしくは『海と戦うクーフーリン』においても、【コンラ】は父を上回る力を持ったものとして描かれた。
されども、今回召喚された【コンラ】は、クー・フーリンの完全下位互換として実装されている。本来はそのようなことがないはずなのに、である。
であるからして、今回のようなケースでは・・・・・・
これ以上の項目は権限が不足しています
データが ありません




