93話 俺は自分でも信じられない速さで外に飛び出していた。
光線が蛇神に弾き返されると、次から次に色々なものが飛んできた。
炎の球に、氷の刃っぽいもの、激しい流水、岩の塊。
次々とダレンさんが魔法で攻撃をしているのだろう。
いずれも巨大なので、モニタからも十分確認できた。
蛇神は難なくその攻撃を捌いている。
「やっぱ……遠くて見にくい……。もっと、映画みたいに見れないかな」
俺は再び、不満を漏らす。
すると、エディがモニタの傍に近づいて行き、手をかざして魔力を流し込んだ。
途端に切り替わるモニタの角度。
ダレンさんとベルさんが立っているのが見える。
「ふふん。こういうモノは魔力を流し込むって、相場が決まってるのさ」
エディが偉そうにトオルに向かって言った。
「じゃあ、最初からやれよ」
トオルがエディに突っ込んだ。
「私も加勢しますね」
ベルさんの声だ。
一体どういうシステムなのか、モニタの画面はさっきとは違い次々と切り替わる。
稲妻のようなものが蛇神に向かってバチバチと向かって行った。
「フンッ」
それを蛇神は手を軽くかざすだけで掻き消す。
「私の攻撃が効いてない……。ダレンさん、魔法に耐性があるのかもしれません」
再びベルさんの声が聞こえたかと思うと、何かが一直線に画面を横切る。
次の瞬間にはベルさんが槍を蛇神に向かって突き出していた。
それを素早くかわす蛇神。
そして、繰り出される蛇神の鉄拳。
「うっ……」
腹部に激しく当たり、地面をえぐりながら吹き飛ばされるベルさん。
「ベルさんっ」
ダレンさんは叫ぶが、ベルさんは立ち上がれない。
ベルさん……。
モニタの映像は辛そうな表情でハアハアと肩で息をしている様子を映し出した。
「こうなったら、ワタクシの本気を!」
ダレンさんの身体が青白く光りはじめた。
「マジックアーマーチェーンジ!」
大声で恥ずかしそうなことを叫ぶダレンさん。
ダレンさんの身体が勇者っぽい青い鎧で覆われた。
「出でよ、マジックソード!」
光り輝く剣がダレンさんの手に。
強くてカッコ良さそうなダレンさんは、勇ましく敵に突っ込んでいく。
「うおおおおおおおおおお!」
流石に 蛇神は槍状の武器を創り出してその剣を受け止めた。
カキン、カキンと槍と剣のせめぎあい。
それでも、次第にダレンさんは追い詰められていく。
「これ、やばいんじゃないか……」
トオルが俺の方に向かって話しかけた。
「……うん」
さっきまではダレンさんがいれば平気だと思っていたのに、このままではやられてしまう。
俺に……力があればいいのに……。
徐々に強くなったのでは、間に合わない。
今やらないと、大切な存在が失われていってしまう気がした。
「ハッ!」
蛇神が力を込めて槍で攻撃すると、ダレンさんは防ぎきれずに数メートル吹き飛ぶ。
もう、ダレンさんは今にも負けそうだ。
「ダレンさん。大丈夫ですか?」
ダレンさんに話しかける聞き覚えのある声がモニタの向こう側から聞こえた。
「え……、どうしてここに? ここは危ないですよ」
ダレンさんは驚いて、避難を促す。
「ゴ、ゴブリン! いつの間にそっちへ……」
俺は思わず声を上げてしまった。
ゴブリンでは足でまといもいいところ、死にに行くようなものだ。
ゴブリンはスッとダレンさんの傍に行くとポンッと背中に触れてパッと離れた。
「こ、これは……力が溢れてくる……」
何をしたのかわからないが、ダレンさんは驚きの声を上げる。
蛇神はそんな二人の方向へ槍を構えて突っ込んできた。
そんな攻撃をいとも容易く弾き返すダレンさん。
そばにあった岩山へ、激しく激突する蛇神。
「ゴブリン。ワタクシに何をしたのですか?」
ダレンさんはゴブリンに背中を向けて話しかける。
「強化魔法……。私……色々思い出してきたんです。捕まる前のこと……」
「なるほど……強化魔法を教えてくれた方がいらっしゃったのですね」
ダレンさんはそう答えると、岩山から起き上がった蛇神に思いっきり剣で斬りかかった。
とっさのことに対応が間に合わず、右肩から左脇腹にかけて大きな傷を受ける蛇神。
緑色の血が周りに飛び散る。
「何とか、勝てそうだな……」
トオルは俺の方を向くと、ホッとしたように話しかけてきた。
「う……ん」
けれど、俺は不安で仕方がない。
横を見ると、モニカは立ったまま寝ていた。
「あれ……、寝てる?」
「……」
モニカは沈黙。
「節電モードに入ったのです。異常なバイタルサインを検知すると知らせるようになってます」
エディが節電モードについて説明してくれた。
居眠りしてるだけじゃないのか……。
ふと見ると、透析装置に見慣れない設定項目があるのに気がついた。
魔力含有量か……。
現実世界では絶対にありえない、その存在。
俺はモニカが寝ている間にそいつを最大に上げる。
これで少しは早く強くなれるだろうか。
「くそおおおおお! 俺が何をしたって言うんだ。勝手に襲ってきやがってええええええええ!」
蛇神は恐ろしい声で叫んだ。
その顔には涙さえ浮かんでいる。
声は恐ろしいが、整った顔に美しい黒髪。
何だか、可哀想な気さえした。
「俺らって悪者だったのかな……」
トオルに向かって、呟くように話しかける俺。
「う……」
言葉に詰まるトオル。
「これから、全世界を呑み込んでやろうとしているのに。邪魔をするんじゃねええええええ!」
前言撤回、コイツは放っておくと世界を滅ぼしそうだ。
すると、怒りのせいか蛇神の頭から、角が生えてきた。
何だか存在自体がヤバそうな雰囲気だ。
そして、全身から湯気のようなものが上ったかと思うと、凄まじい速さでダレンさんを殴りつける。
「ぐはッ」
その場に倒れこむダレンさん。
苦しそうに転げまわっている。
「これは……やばい」
もう、居てもたってもいられない俺。
俺は立ち上がると透析液装置の返血ボタンを押す。
透析液で押し返されて、見る見る内に血液が身体に戻っていく。
「え? 直樹お兄様? どちらへ?」
モニカが目をパチリと開いて、俺に話しかける。
「ダレンさんを助けに行くんだ!」
「そんな……無謀です……。直樹お兄様が勝てるわけないじゃないですか……」
それでも、行かなくちゃいけないという不思議な気持ち。
血液回路を取り外すと、俺は自分でも信じられない速さで外に飛び出していた。
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