92話 「どんまい」俺は優しくトオルを勇気づけた。
「さて、この上級神となったワタクシが蛇なんてやっつけてしまいますね」
改めて、自信を見せるダレンさん。
ダレンさんが蛇を片付けてしまうと、俺達の苦悩は何だったんだって思う。
「小林さん、こんなものを用意してみました」
ダレンさんが取り出したのは畳3枚くらいの大きな黒い板。
黒々としたそれは、怪しくその場に浮いている。
「これは映像を映しだすモニタです」
ダレンさんが指をパチンと鳴らすと、モニタの周りに出現するスピーカーのような四角いもの。
「ワタクシ、こう見えてもAVには詳しいのです」
「エーブイ!」
俺はそんなものを上映していいのかと、興奮してしまう。
「ダレンさんっ。何て良い神様だ!」
身体がだるいはずのトオルはダレンさんを絶賛した。
「変態……」
ゴブリンは俺へ冷たい視線を投げかける。
「ああ、なるほど……。AVってオーディオヴィジュアルのことです。音響と映像。外の様子を映そうと思いまして」
ダレンさんはこう言って指を鳴らした。
黒い板に映し出される外の風景。
「「「……」」」
俺とトオルとゴブリンは下を向いて沈黙する。
何て恥ずかしいやり取りをしてしまったんだろう。
でも、AVと言ったらアレ以外を誰が想像するのだろうか。
なんだか重苦しい空気が流れた。
ベルさん達医療機器は不思議そうに俺らを眺めている。
そんな空気をよそにモニタの映像は蛇達を発見。
「ああ……すごい大きな蛇。これは強そうで……気持ち悪い」
ベルさんは蛇を見て嫌そうな顔をしている。
画面には赤、緑、黄色の大きな蛇が三つ巴になって戦っている状況が映し出されていた。
「みんな敵同士なのか」
俺は呟く。
「これ……、放っておいたらみんな傷つけ合って勝手に死んじゃわないのかな」
ゴブリンは俺が思っていたことを口に出した。
蛇達の身体にどんどん増えていく傷。
初めに弱っていったのは黄色い蛇だった。
残りの2匹は集中的に黄色い蛇を攻撃し始める。
「うわ……、何か気持ち悪いな」
トオルはそう言いながら、見るに耐えられずに目をそらした。
蛇達はもう……血まみれでひどい有様だ。
「グギャー! グギャー! グギャーーーーーー!」
流石、超高音質のスピーカー。
ダレンさんのオーディオヴィジュアルへのこだわりは素晴らしく蛇のリアルな悲鳴を伝えてきた。
「蛇って鳴くんだなあ……」
俺が呟くと、ダレンさんが反応する。
「姿は蛇ですけど、あれはモンスターですから……。小林さんが知っている生き物とは違うのですよ」
高音質大迫力の音響なのに、こちらの会話に支障が出ないと言う不思議な仕組み。
すっかり黄色の蛇が動かなくなると、赤と緑色が戦い始める。
それでも、互いに疲弊している身体。
勝負はあっという間に緑色の蛇が赤い蛇を下した。
今が弱っている、チャンスな気がした。
「ダレンさん。これ、今倒しちゃった方が楽なんじゃないの?」
俺はダレンさんにトドメをの一撃を促す。
「そうですね……、じゃあ、ちょっと行ってきます」
ダレンさんはゆっくりと、優雅で上品に透析室の出口へ向かって行った。
すっかりダレンさんの後ろ姿が消えた後、モニタの映像を目にした俺は思わず声をあげる。
「え……何だあれ? 蛇が蛇を……」
緑色の蛇の顎は外れ、大きく開かれた口は自分と同じ大きさの蛇を呑みこんでいく。
それは、ホントにあっという間の出来事だった。
一瞬、膨れ上がった身体は次の瞬間には元の大きさになる……。
2匹目の蛇を呑みこんでしまうと、蛇の身体はどんどん小さくなっていく。
……やがて人型になった。
「あれは……蛇神」
ベルさんが知らない言葉を呟く。
「蛇が神様に?」
俺は疑問の声をあげる。
モンスターが神様になるなんておかしな話だ。
「呼び方の問題で……、力が強くなって細胞が高い次元のものにつくりかえられると、神の名前で呼ばれることもあるんです」
神様は細胞が違うと言うのは、モルフェウス界での体験で分かってしまった。
敵が神様レベルの強さでも、ダレンさんは上級神。
きっと軽く倒してくれるに違いない。
今の俺には少しでも多くの透析療法を受けて強くなることが先決だ。
「蛇の姿でなければ、私も戦えそう……。それに、変身したことを伝えなくちゃ」
ベルさんはそう言うと、見えない速さでダレンさんの後を追いかけていく。
トオルとゴブリンはただモニターを眺めている。
そんな俺らを眺め続けるエディとモニカ。
蛇のことは強い二人に任せる以外、俺等にはどうしようもない。
「このモニターの映像。……もう少し近くに寄れないのかな」
定点カメラみたいに撮影しているのでわかりにくい蛇神の姿。
俺は動けないので、他の人が何とかしてくれないかと呟いてみた。
「ああ~、ん~、うーーん? ……何にもスイッチないし、良くわからないな……」
トオルがモニタの周りをぐるりと回って調べてくれたがどうにも分からないっぽい。
髪が長いのは分かるが男か女か微妙なライン。
「上半身裸に見えるんだけど……。細いから女だったりしないかな」
トオルが俺に高度な推理をぶつけてきた。
「どうなんだろ……、やっぱもう少し近づかないと……」
俺とトオルの探究心は高まるばかり。
「……」
そんな俺とトオルの知的なやりとりをゴブリンは冷たい眼差しで見つめている。
その時、遠くから一筋の光線が蛇神に向かって飛んできた。
その光線を片手で弾き返す蛇神。
「何だ……キサマらは……」
太く恐ろしい声がモニターから聞こえてきた。
「男か……」
トオルはがっくりと肩を落とす。
「どんまい」
俺は優しくトオルを勇気づけた。
ゴブリンはそんなトオルを見て嬉しそうだ。
「何か、ちょっと強そうですね……」
ダレンさんの声がモニタから聞こえてきた。
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