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91話 知らない内にダレンさんは上級神になっていた。

 取り出されたものは重そうな音を立てて、ベッドの上に落とされた。


 一体何だろう。


 空のような青色をした何か。


 1.5m以上はある結構大きなもの……。


「何それ?」


 俺は何のことだかわからなくて、ダレンさんに真っ直ぐ言葉を返してみた。


 真正面のベッドに居るゴブリンには、何なのかよく見えているようで気持ち悪そうに見ている。


 青色をした何かの隣のベッドに居るトオル。


 近くなのでよく見えているハズ。


 それを見た途端に、トオルはギョッとした表情をした。


「え? バアルさんが小林さんに頼まれたって……渡すように言われているのですが」


 ダレンさんは俺の方を振り返ると驚いたような表情で聞き返してくる。


「俺、バアルさんに会ったことないし……話したことないよ」


 神界に住んでいるバアルさん。


 俺には会うことができるはずがない。


「……」


 ダレンさんは沈黙。


 でも、くれるというのに貰わないのは損な気がする。


「わかった、ダレンさん。俺、何か身に覚えあるかも」


 ここはとりあえず、話を繋げてみよう。


 白い世界では会ったことがある。


 その時に何かくれるって言ってたのかもしれない。


 しかし、白い世界で会ったなんて人に言えるような話だろうか。


 実際には一度もあったことないのは紛れもない事実。


 俺が見ていた姿も果たして本当の姿なのかわからない。


「そうだ……。俺はバアル神を昔から崇拝していて、寝る前にお願いしてから寝たからそれかな?」


 口から出任せを言ってみた。


「そうなんですか、バアルさんを崇拝するなんて小林さんはわかってますね」


 バアルさんの教えなんて全く知らないけれど、ダレンさんは納得してくれたようだ。


「ところで、小林さんは何てお願いしたんですか?」


 ダレンさんが興味深々に聞いてくる。


「えっと、……何だっけな。……ハエみたいに手で触っただけで味が分かるようになりたい……」


 ハエの王とか別名があったベルゼバブブ。


 ハエの足の裏には味蕾があって、触るだけで味が分かる。


 ベルゼバブブなら俺にそんなヘンテコな能力を与えてくれそうな気がした。


「美味しい物を食べる時に、手で触りながら食べたら2倍美味しい……みたいな?」


 何となく、それっぽい理由もつけてみる。


「本気ですか?」


 ダレンさんが返してきたのは驚いたような反応。


「え?」


 俺はそんな反応が返ってくるとは思わなかったので、何て返したらいいか分からなかった。


「だって地獄ですよ。粘土工作とか、キムチ作りとか、ドブ掃除とか……想像を絶した苦痛が……」


「……た、確かに……」


 俺は手に味覚があることの不便さを理解する。


「それじゃあ……アレだ……、……健康祈願」


 一番困っているのは病気のことだから、一番自然な気がする。


 けれど、今の状態に陥っているのはベルゼバブブの力が全く俺に効果がない証拠になってしまう。


「う……ん、ちょっと、違うみたいですね」


 ダレンさんは取り出したものをもう一度眺めて見ると、俺の方へ残念そうに視線を返す。


「い……色々お願いしたからなあ、何かな~」


 バアルさんが俺にって言うのだから、何でも俺にくれればいいのに。


「え……あの、これ、俺の身体だけど……」


 急にトオルが不思議なことを口走る。


「え?」


 その言葉にハッとした俺。


 トオルがそう言ったのを聞いて、ようやく思い出した。


「ああ、そういえば今朝……」


 今朝、白い世界に行った時にそういうことを言った気がする。


 そっか「俺の友達の身体……返してくれませんか」って言ったんだ。


「今朝?」


 ゴブリンが聞き返してくる。


 そういえば今朝は、ベルさんもいたけれどゴブリンも一緒にいた。


 変身した直後の白い世界への旅立ち。


「あ、そうそう。起きて朝のお祈りをした時だ」


 何となく、ゴブリンに納得がいくように言い直しておく。


「大丈夫ですよ。小林さん、ワタクシは全てわかってますから」


 ダレンさんはそう言いながら、優しく笑い返してきた。


 今までのダレンさんと何かが違う……そう思った時。


 トオルの入っているベルさんの身体は黄色い光で覆われる。


 その光は人魂みたいなユラユラしたものになって、トオルの横のベッドへ向かって行った。


 あの『空色の何か』も人の身体だって思うと、そう見えてくる。


 死後硬直みたいにカチカチで、空色のジャージや靴下で覆われているから違うものに見えていた。


 そして、ガクガクと力が抜けていくベルさんの身体。


 すっかり支える力を失うと、後ろへパタンと倒れ込んだ。


 途端にモゾモゾと動き始める、空色をした身体。


「今のは何だったんだ」


 その空色の身体はムクリと起き上がり、ボソリと喋り始める。


「ああ、トオル?」


 俺は今まで何だったかわからなかったモノに語りかける。


「これは、元の身体……」


 トオルは急に元の身体に戻って驚いている。


 父親に似て髪も薄くなって、ビールを飲みすぎて太ってしまったおっさんの身体。


 久しぶりに会ったけれど、前よりおっさんになっている。


「んん……」


 ベルさんも目を覚ましたようだ。


「ここは……もう終わったんですか?」


 ベルさんが身体を起こして不思議そうに真正面のベッドの俺に尋ねてくる。


「ええっと……まだなんだけど……。…………なんというか……」


 俺が何て答えていいか分からないでいると、ダレンさんがカッコいいこと言い放つ。


「もう、これからすぐに終わらせますよ。このワタクシが」


 ダレンさんがやっつけてくれるらしい。


 その自信の根拠はどこからくるのだろう。


 ベルさんはダレンさんより蛇が強いかも知れないと言っていたのに。


「実はワタクシ。上級神になりましたから」


 知らない内にダレンさんは上級神になっていた。


「第23世界で感情エネルギーを集めてみたら、ものすごい量のエネルギーが集まったそうで……」


 ダレンさんは嬉しそうに、よくわからないことを言っている。


 第23世界は俺がいた元の世界。


「バアルさんは悪魔なので、神様ポイントが貰えなくなる代わりに感情エネルギーを変換して使うのですけど、第23世界で感染症が流行ったみたいで臨時報酬があったみたいです」


 ベルゼバブブも自分の息子には甘いものだ。


 お小遣いをあげるつもりで、上級神になれるようなポイントを与えたのか。


「色々、無駄遣いを考え直したらポイントがたくさん残るようになったそうで……」


 あっちこっちで、無駄なことをしてそうなベルゼバブブ。


 浪費だらけだったことだろう。


 実は最初からポイントを与えたかったのかもしれない。


「ところで、感染症って……?」


 俺は上級神になるのは大量なポイントが必要だと最初に聞いていたので、思わず聞き返した。


 ちょっとした感染症で、臨時報酬が出るとか考えられない。


「大規模も大規模。世界中に広まったそうです」


 今度はダレンさんは深刻そうな表情で述べる。


 トオルと俺は顔を見合わした。


 トオルは強い身体から一気に弱体化した身体に移ったので、少し辛そうに見える。


「俺の家族や……トオルの家族、職場のみんなは大丈夫かな……」


 俺は咄嗟にボソリと呟いた。


 俺はこっちの世界に来てしまったけれど、元の世界の人達のことが心配だ。


「ええと……、みんな感染症に罹らずに過ごせているから大丈夫ですよ」


 暗くなっていた雰囲気の中、ダレンさんは優しい表情で続ける。


「それにワクチンもできているので、もうじき治まってくると思います」


 良かった、心からそう思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1.5 M 以上あるけど大きな物ってトオル君だったんですよね……。 なんとなく死体ぽっくて、ちょっと怖いですね バアルさんに白い世界でお願いした事をちゃんと聞いてくれるバアルさんは、意外と…
[一言] 小林君の友人のトオル君がバアルさんから小林君宛てに 渡すよう託された物の正体は何でしょうね。 そんな時、バアルさんに会った事がないと言うけど 白い世界……つまり夢の中で会ってますよね。 …
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