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86話 モニカは不思議な提案をしてきた



 寝たかと思うと、もう一度起き上がるベルさん。


「もう一人の人格の方にも、よろしく伝えてください……」


 自分自身によろしく……か、何だかおかしな感じがする。


 何回も起き上がるベルさんを見て、無理をしているようにも見えた。


 やっぱり、もうひとりの人格になるのはあんまり気が進まないのかもしれない。


「ベルさん、大変だったらホントにやめていいよ。蛇はその内にどっか行っちゃうかも知れないし……」


 もう一度だけ止めてみる。


「だ、大丈夫です。大切な人を助けるのが医療機器の役目。私は小林さんのために頑張ります!」


 ベルさんは一生懸命に何だかカッコ良さそうなことを言った。


 実際に蛇と戦うのは別人格でも、人格交代自体が負担になっているのは確か。


「そう……」


 けれど、耳を真っ赤にして言い放ったベルさんの言葉に対して、それしか答えられなかった。


 ベルさんは医療機器としての責任感が強くて、真面目過ぎる。


 人格交代は医療機器としての仕事として考えているのだろう。


 ベルさんの言葉を聞いて、医療機器二人は顔を見合わせて驚いている。


 ゴブリンは俺の様子を暫くジッと見守っていたが、ふーっとため息をつく。


「ベルさんは、お兄ちゃんのことを好きって言ってるのよ」


 ゴブリンが少しの沈黙した空気の中で言い放つ。


 ゴブリンはよくわからないことを言っていると、俺は思った。


 さっきの発言の中のどこにそんな要素があったのか。


 けれど、ベルさんが一生懸命に人格交代という仕事を頑張るのは、俺のことを患者として大事に思ってくれているからだろう。


「え? ああ……。ありがとう。俺も頑張って強くなるから」


 俺はベルさんにお礼を言う。


 患者として、頑張って強くなろう。


 ベルさんは俯いたまま黙っている。


「……」


 ゴブリンも無言。


 だけど、二人共、何か言いたそうな言いたくなさそうな不思議な表情をしていた。


「……それでは、後のことをお願いします……」


 ベルさんが再びお別れの言葉を告げて、パタンとベッドに仰向けに倒れ込んだ。


 それから、しばらくするとベルさんから寝息が聞こえてきた。


 ホントに人格は交代されるのだろうか。


 俺はベッドを精一杯ギャッチアップして身体を起こし、ベルさんの様子を見守った。


 ゴブリンは何だか思いつめた表情で、俺の方を見ている。


 モニカは俺の透析の回路をジッと観察して、エディと小さな声で何か話をしていた。


 そう言えば、二人の格好は医療従事者として現場にふさわしくないような気がする。


「二人共。その……鬼の子供みたいな格好は病院に相応しくないから、何とかならない?」


 エディもモニカも、虎柄は病院にどうかと思うし……エディ何かほぼ裸じゃないか。


 俺は大人として、格好よく二人の格好を指摘した。


「え……。申し訳ございません。小林様。これはベルゼバブブ様の趣向です。すぐ変えさせて頂きます」


 モニカとエディの身体のところでポンってなったかと思うと、途端に服装が変わった。


 マジックショーのような変わり方だ。


 モニカはピンクのナースワンピースで、ヒラヒラしたスカートの丈が短い……。


 エディは白い男性用のナースジャケットとナースパンツの、小さいけれど清潔感溢れる姿になった。


 エディは文句なしの合格。


 この病院にふさわしい……。


 けれど、モニカのピンクのナースワンピースは何か違う気がする。


「エディは合格。モニカは、色がダメ。スカートも短すぎるし……、働くのに良くない」


 転移前の世界でピンクのナースワンピースを採用している病院の経営者もいるが……一体何を考えて採用しているのだろう。


「小林様。これのどこがいけないのですか?」


 モニカが疑問をぶつけてくる。


「何か、男性患者に媚びているようで……」


「……」


 モニカは沈黙した。


「お兄ちゃんの変態……」


 ゴブリンは俺の悪口を呟く。


「分かりました……」


 モニカは途端に服装を変える。


 ポンっと音がしたかと思うと白のナースジャケットとナースパンツ姿になった。


 これなら、動きやすそうだ。


「うんうん、医療従事者っぽい」


 何だか、ちょっと気が済んだ。


「ところで、小林様。透析のことですが……」


「ん? 透析? ……何?」


 モニカから透析のことを言われたので、ちょっと意外だった。


「HDFを行うには、血流が足りてないと思われます。御覧くださいませ、ダイアライザーを通った後の血液が濃縮して黒くなっています」


 確かに、血液流量が少ないとHDFでは血液が濃縮を起こして、回路が詰まってしまうかもしれない。


 しかし、首から入ったカテーテルではあまり多くの血流はとることができない。


「……シャント作ってないんだ。モンスターと戦うのに危ないかなって思って。血流……無理か」


 無理に血流を出そうとすると、血管の壁を吸い込んで先を塞いでしまうだけでなく、綺麗になった血液を再び吸い込んでしまうという再循環を起こす。


 再循環を起こすと、綺麗にしたい血液が綺麗にできなくなるし、透析の意味がない。


 前の世界では、HDFをやっていたのに……患者になって、色々な出来事があって細かいことは吹っ飛んでしまっていた。


「一度、透析を終わりにさせて頂いて……もう一度、始めさせて貰ってもよろしいでしょうか?」


 モニカは不思議な提案をしてきた。  


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― 新着の感想 ―
[一言] ベルさんの恋心も小林君には届かない事になりますね。 ベルさんは告白に近い事を言いました。 『大切な人を助けるのが医療機器の役目。』 とベルさんは言っていますね。 もし恋心がベルさんにないなら…
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