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82話 気が付くと青ジャージに包まれていた

 ベルさんの準備が終わったのなら、俺も2階のプライベートルームに行って支度をしよう。


 昨晩はあの部屋で寝ようと思っていたのに、ずっと透析室に居るから病人気分が染みついてしまいそうだ。


 大浴場まで行ってもいいけど、ちょっと遠い。


「ちょっと、俺も顔を洗ってこようかな」


 二人にさりげなく行き先を告げて、透析室を出ようと思った。


 見ると、ベルさんの表情は何となく悲しそうだ。


「ベルさん……もうひとりの人格になるのって初めて?」


 医療機器から人型になって間もないのだから、初めてに違いない。


 けれど、何か声を掛けなくてはいけない気がして……そんな事を聞いてしまった。


 ベルさんはコクンと頷く。


「これから、男の人を受け入れるかと思うとドキドキしてしまいます」


 最初から彼女の中にいるのだろうけど、感覚としてはそうなのかもしれない。


 何となく、俺は彼女を汚してしまうような気がして罪悪感を覚えた。


 夜になって、変温動物の蛇は弱体化するはずだからゴブリンだけでもなんとかなるかも知れない。


「嫌なら、やっぱ……蛇退治は今度にしようか」


 俺が設定の時に、変な受け答えをしなければ二重人格なんて難しいモノにはならなかったに違いない。


 ダレンさんもいるし、きっと大丈夫。


 そっと内緒で出かけるのもアリだろう。


「小林さん……。私の知識によると蛇のモンスターは夜になると強くなります……」


「え?」


 予想とは正反対な情報。


 ベルゼバブブから与えられた知識なら、きっと間違ってなさそうな気がする。


「それじゃ、夜に行く意味は全くないな……。暗いと俺もよく見えないか」


 蛇の弱体化にばっかり目がいって、暗くて見えないというデメリットがあるのを忘れていた。

  

「小林さんも蛇退治に行く気ですか……?」


 ベルさんの質問には、何で? という意味が含まれているのを感じた。


「うん、毒に罹った時に俺の魔法で治せるから……」


 今回の俺の存在意義はここにあるんじゃないかと思う。


「私、毒消しの薬……たくさん持っているから。小林さんが危険を冒してまで行かなくていいと思います」


「え?」


 毒消しの薬……。


 存在はするとは思っていた。


 それでも全部使い切ってしまったら、何回かは役に立つかも知れない。


「大丈夫です。10万個くらいあるから、いくらでも」


 それはありすぎだ……。


「でも、それが蛇に効くかどうか分からないよ。神経毒かもしれないし、筋肉毒かもしれないし……」


 その毒消しの薬が蛇に効くかどうかは、分からない。


 俺は俺の存在意義を消し去ってしまう存在を否定したかった。


「大丈夫です。どんな毒にも効くようにバアル神様の魔力が入ってます」


「……」


 ベルゼバブブの魔力が入っていたら、効くかもしれない……何も言えなくなる。


「小林さんは透析をしていてください。何かあったら、死んでしまいます」


 ベルさんは俺のことを心配してくれているようだ。


 確かに間違っていないけれど、気持ちが寂しくなる。


「それに……小林さんがいたら倒せる敵も、倒せなくなってしまう可能性もあります」


 足でまといなのは、分かっている。


 けれど……一人だけ仲間ハズレになっているような気がするから一緒に行きたい。


「……蛇、そんなに強くないかも知れないよ」


 ゴブリンが一人だったから苦戦しただけで、3人も戦える人がいれば楽勝な可能性もある。


「私の知識からすると、ゴブリンが負けたのも納得できますし……、小林さんを守れる保障は……ちょっと……」


 ……そんなに危険なのだろうか。


 ベルゼバブブの授けた知識の方がダレンさんの知識より信頼は出来そうだ。


「それでも、ダレンさんがいれば大丈夫なんじゃない?」


 ダレンさんが言っていたステータスは、モルフェウス界での経験上……間違っているかもしれない。


 知識が間違っていても、神様より強いモンスターっていないんじゃないだろうか。


「あのモンスターは地上に居るモンスターではなくて、結界に封じられたモンスターだから……、ちょっと強さがわからないんです」 


「……何それ」


 普通のモンスターじゃないっぽい。


「結界が破壊された時に、そこにモンスターが封印されていると出てきてしまうんです」


 割れた結界に封印されていたのが蛇だったのだろう。


 でも……どうしてモンスターを封印する必要があるのか。


 危ないと思う。


「結界を張るのに、モンスターのエネルギーを利用するんです。……長く持つように。場合によってはダレンさんより強いかもしれませんよ」


 ダレンさんより強かったら……誰にもどうにもできない。


 最悪な展開……俺だけ死んでしまう可能性もあるのか。


「う~ん、そっか……」


 何だか、俺が行っても迷惑にしかならない気がしてきた……。


「大丈夫ですよ。上手く倒して戻ってきますから」


 ベルさんは俺に向かって、ニコって微笑んだ。


 俺に、精一杯元気そうな表情を見せようとしている気がする。


「……うん、わかった」


 そこまでされると、人格交代してくれるベルさんの気持ちを俺は断れなかった。


 ゴブリンは少し離れたところで、黙ってそのやりとりを眺めている。


 ……ゴブリンもベルさんと同じように俺のことを思っているのかな。


 ステータスの低い自分がとても悲しい。


 悲しくて……俺は黙って透析室から出て行った。


 かと言って、何もできることはないのだけど。


 2階のプライベートルームにエレベーターを使って上がる。


 プライベートルームの洗面所で顔を洗って、髭を剃って……身だしなみを整えた。


 ゴブリンが気にしないように、鼻毛と寝癖はよくチェックしておこう。


 服はどうしようか。


 蛇退治には行かないのだし、楽な格好でいいと思う。


 魔法バッグの中をまさぐってみる。


 出てきたのは、青ジャージの上下……。


 俺の持ち物ではないジャージ。


 けれど、このジャージからは花のようないい匂いがする。


 ジャージに顔をうずめる俺。


 思いっきり鼻から息を吸い込んでみる。


 ……ユリの香りが鼻腔の中に広がり、気が付くと青ジャージに包まれていた。


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[一言] 大浴場がある病院はほぼ聞いた事がないけど、 あったらあったで需要がありそうです。 ベルさんが二重人格になったのは小林君のせいでしたっけ 最初から彼女の中にいるのであって別人を 受け入れる…
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