71話 神のエネルギーからつくっていると言っても、構造は人体と変わらないのだろうか
とりあえず、試しにエネルギーボールに触れてみる。
右手の人差し指で軽く触れると、途端に指先に吸い込まれていく。
親指の先に豆電球のような小さな光が灯る。
6段階だから、指1本ずつが光っていくのかも。
最後は手の甲だったり?
1つ取っただけで使うと、スピードアップだったな……。
エネルギーボールの使用を念じてみたら、親指の先で火花がポッとはじけて灯りが消えた。
これで使えたのだとは思った。
試しに周りをクルクルと動いてみると、飛行速度が若干上がっている。
めちゃくちゃ上がるものではないらしい。
けれど、急に速度が上がったので、感覚が少し追いつかない。
これはあまり急激にスピードアップを使うと、乗り物酔いを起こしそうな気もする。
そんなことをやっている内に、ナイトバットの編隊がいくつも近づいて来るのを感じた。
どんなにナイトバットが来ようが、今の俺には敵ではない……。
そう思っていた。
ナイトバットが少し先に見えた時点で、俺はウォーターの魔法弾を次々と撃ち放っていく。
しかし、ナイトバットは俺の放った魔法弾をヒラリと躱しながら俺の方に近づいてくる。
その数、30匹。
2列15匹ずつのナイトバットの編隊が、俺の直線的な軌道の魔法弾を避けながら向かってくる。
連射、連射、連射、連射、連射、連射連射連射連射。
……効果はイマイチだ。
一生懸命に魔法弾を撃ったにも拘わらず、ほんの数匹当たっただけ。
このままでは、俺のところまで来てしまう。
コウモリなんか現実世界でも触ったことない。
ナイトバットは気持ちが悪いばかりか、どんな攻撃をするか未知数だ。
近くに来る前に、倒してしまいたかった。
どんなに身体が強くなろうが、攻撃なんか受けたくない。
その思いは恐怖心となり、俺の頭を混乱させていく。
俺はサンダーを撃ってみた。
現実世界で撃った感じとは違い、またもやエネルギー弾。
バシュンッと音を立てて、サンダーの魔法弾は左カーブを描いて飛んでいく。
ウィンドも撃ってみる。
ウィンドの魔法弾はピシュッと音を立てて右カーブ。
軌道が違うだけで、大した違いはなさそう……。
俺は軌道のバリエーションが増えれば、よけられないのではと思った。
3種類の弾をを織り混ぜて撃つ。
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ撃つ撃つ撃つ。
途端に弾が当たり始める。
それでも、相手も学ぶのか次第に躱され始める。
魔法弾の音や雰囲気で、軌道を読んで避けているのだろうか……。
最初は遠くに居る内に倒してしまったから分からなかったが、ナイトバットは思ったより大きい。
大きな大人用の黒い傘が丸々コウモリになったような……そんな大きさ。
最初のやつらより、明らかに大きいみたいだ。
元いた現実世界でいうフィリピンオオコウモリと同じくらいかな?
段々と近づくにつれて、ナイトバットのブサイクな顔が見えてきた。
顔は吸血コウモリのそれにそっくりで、豚みたいな鼻に大きな耳。
目は小さいけれど、つぶらな瞳……。
そして、口元に白く光って見えるのは小さな牙。
あれで、噛み付いて血を吸うのだろうか。
「キー、キー」
ナイトバットの鳴き声も聞こえた。
鳴き声はなんの変哲もないコウモリの鳴き声。
それでも今は、聴きたくない効果音だ。
もう、モンスターの強さとか関係なく……近くに来て欲しくない。
気持ち悪いし、怖いし、汚そうだし、臭そうだ。
それでも、これ以上何も思いつかないので魔法弾をさっき以上に連射する。
連射、連射連射連射連射連射連射連射……。
さっき以上に、色々撃つ順序もめちゃくちゃにして撃ちまくる。
近くに来て欲しくない一心で……魔力を込める。
球の速さも、初めとは比べモノにならないくらいに速い。
魔力を込めると、魔法弾は速く打てることがわかった。
もう、それは頑張って、撃って撃って撃ちまくった。
「ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー……」
普通に撃っている時は何でもなかったのに、連射し終わった頃には息切れをしていた。
これ、結構キツイ。
咄嗟に、ステータスを確認……。
マジックポイント(MP)が200あったはずなのに、10しかない。
夢中で撃ちまくった結果か。
それでも、まだ何匹かバサバサと黒いものが見える。
……残りは5匹。
これ以上魔法弾を撃ったら、気を失ってしまう。
ナイトバットは俺から10メートルちょっとしかないところに1匹。
その30メートルくらい後ろに4匹がまばらな距離をとって飛んでいる。
編隊は既に崩れてバラバラだ。
あともう少しで、倒しきれそう。
けれど、もう攻撃手段がない……。
何もないのを分かっているけど、咄嗟に両手で自分の身体をまさぐる。
左手がコツンと、銅の剣の入った鞘に触れた。
……もう、これしかないな。
俺は銅の剣を右手で鞘から抜いて、柄の下側を左手で握る。
高校の時に数ヶ月だけ剣道をやっていたので、握り方は分かっている。
右手は添えるだけ……左手で振り切るんだ。
飛行を加速させて一気に一番近いナイトバットとの距離を詰める。
近くまで来ると、獣クサくなってきたがそんなことは気にしてられない。
3メートル位の距離まで来ると、覚悟を決めて飛びかかる。
空中だけど、足はすり足っぽい動きになってしまった。
きっと、意味はない。
「めーん!」
銅の剣を中段の構えから振り上げて、一気に頭上から振り下ろす。
上から下へ真っ直ぐな剣筋でナイトバットを叩き切った。
完璧な面打ちを打てた時の感じがした。
真っ二つなナイトバットの横を走り抜ける。
残心も忘れない。
俺……、ちょっとカッコいいかも知れない。
初めて剣を使って、モンスターを倒したことに、ちょっと感動。
続いて前方に見えるナイトバット4匹を、見据える。
大勢をいっぺんに相手するのは難しいから、1匹ずつ倒そう。
バラけているナイトバットの内の1匹に、最大出力の飛行速度で近づいて襲いかかる。
「めーん!」
やっぱり、面打ちの切り方で上から下へ銅の剣を振り下ろす。
1匹目同様に、簡単に倒すことができた。
けれど、他の3匹が俺の周りに集まってきている。
声を出して攻撃しているのだし、他の目を引きまくりだ。
剣道に準じた戦闘は、実戦に向いてないのか?
3匹のナイトバットに囲まれた。
そのまま、考える暇もなくナイトバットは3匹同時に飛びかかってきた。
迎撃できたのは、そのうちの1匹のみ。
面打ち切りで1匹は真っ二つに切り裂いた。
直後に、横から来たナイトバッド2匹が両肩に噛み付かれた。
両肩に痺れるような痛みが走る。
「ぐっ、くそ」
ナイトバットの毛むくじゃらの体温がジャージ越しに伝わってくる。
モンスターの鼻からの息遣いが、気持ち悪く生暖かい空気を頬に伝えてくる。
そして、獣クサさが猛烈に嗅覚を刺激する。
あまりの気持ち悪い感覚と痛みが、背筋をゾクゾクとさせる。
あまりの状況で、思わず銅の剣を手放す俺。
幸いにもこの強靭な身体は、俺の命をまだ残してくれている。
咄嗟に俺は両手の掌を外側に向けた。
毛むくじゃらのナイトバットの毛触りが手の内側を伝わってくる。
場所的に、ナイトバットのお腹か。
右手は毛がモジャモジャにカールしていて指に絡みつくような感覚。
左手は毛がストレートでフサフサしていて、サラサラとした指通り。
そこに向けて交互にウォーターの魔法弾を打ち込む。
二つ同時には撃てなかったので、結果的に1テンポずれて、交互になってしまった。
魔法弾がモンスターの身体に当たるやいなや、モンスターの生命活動は終わる。
ボガッ、ボガッ。
花火みたいに……というよりは肉塊が崩れ散る感じ。
コウモリも大きくなると、破裂の仕方が変わるのかもしれない。
血液も固体化しているのか、服に赤い固形物がボロボロとついていた。
手で払えば、払いきれる渇いた質感。
服の破片を痛みのある手で軽く払うと、何も残らなかった。
両肩の傷口からは赤い血が出ていて、ジンジンとした痛みを伝えている。
神のエネルギーからつくっていると言っても、構造は人体と変わらないのだろうか。
構成物質が違うだけで、皮膚も同じだし血液も流れているし、痛み刺激だってある。
ナイトバットが居なくなったあとにはエネルギーボールが2個浮かんでいた。
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フィリピンオオコウモリは実在するとても大きなコウモリです。
調べると、きっとびっくりします。