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67話 ここにいるピンクの象を倒すとか?

「よし、そういうと思ってたよ。契約書準備するから、ちょっと待ってて」


 モルフェウスはニコって笑うと、自分の白い服の中に手を突っ込んでモゾモゾし始めた。


 どこに手を突っ込んでいるんだ?


 お腹? 腰? どこだそれ?


 よく分からないが契約書らしき白い紙を取り出した。


 最初から準備していたようにも見える。


 そして、モルフェウスが指をパチンと鳴らすと、目の前に木の机と椅子ががボンッと現れた。


 古ぼけているけれど、高級そうな黒い机と椅子。


「ささ、座って座って」


 促されるままに、座る俺。


 机の上に契約書がひらりと置かれる。


「はい、これがペンね。ここに名前を書いてくれれば、完了だから。内容読んでサインして」


 おお、これが契約書か。


 手に取ると……ドキドキして手が震えた。


 まずは、文章に目を通そうとする。


「ん? え? お? う~ん」


 書面を見て困惑する俺。


「文章の意味わからないのか? 可哀想に。頭が悪いのか……」


 モルフェウスが失礼な事を言ってくる。


 でも、これは無理だ。


「読めない……なんて書いてあるか、さっぱりだ。カクカクした絵にしか見えない」


「あ、そっか。この世界は特殊だから、創造神の翻訳システムの範囲外なのか」


 俺の加護が……。


 強くなって、治療の要らない身体になって……幸せを探す旅にでる野望が……。


「モルフェウスさん。なんて書いてあるか教えてもらえれば、その内容でサインします」


 うん、強くなるためには、この機会を逃してはいけない。


 俺は、モルフェウスを信じることにした。


「そうか、そうか。よく言った。説明してあげるよ」


 一言も聞き逃さない、そんな思いで耳に集中した。


「まず、君の夢の中での肖像権を、モルフェウスに提供してもらう。君が登場した夢に発生した感情エネルギーは全て私のものになる」


 感情エネルギーだけ?


「夢の神だからって、夢の内容をいじくったりはしないのか……」


「入ろうと思えば入れるけど、夢の内容は夢を見ている人次第。登場人物にはなれるけど、創るのは本人だからね。夢の内容によっては、結構、危険だし不快だしメンドくさいよ」


 夢のことは何でもできるわけではないらしい。


「見た夢のコピーを管理する。管理する夢が増えるとこのモルフェウスの世界も広くなっていくんだよ」


 夢の複製が、このモルフェウスの世界を作っているのかもしれない。


 この趣味の悪いピンクの夢は誰の夢の複製を使っているのだろうか。


「今いるここら辺の夢は、君が昔見た夢の複製で創ったんだ。気に入ったかい?」


「……」


 何も言えない。


「寝ている間に君の情報を送り込めば……夢のエネルギーだけでも相当なものに……」


 それは、どうなんだろう……俺の身体が穢される気分だ。


 それに……、ここまでメリットを何も感じられない。


「俺にとっていいこと……何もないの?」


 不安がどんどん大きくなってくる……。


 騙されている感じしかしない。


 神という存在を盾にして、俺に加護という名の呪いをかけようとしているのか?


「大丈夫、大丈夫。僕の加護は素晴らしいから、心配することない」


 心配以外の何物でもない。


「いいかい。まず、君の今の身体はエネルギーで僕が創った身体ね」


「……」


 疑わしくて、ただモルフェウスの話を黙って聞く。


「その身体は現実世界では消費が大きすぎて、作ったばかりの不安定な時間だけ現実世界で存在できる」


「ちょっと? なんだそれ? この世界だけ? 意味が、意味がわからない!」


 俺は使えない加護だと思って、抗議の声を上げる。


「待て待て、この世界だけじゃない。夢の世界でも使える」


「同じだ!」


 モルフェウス世界と夢の世界しか使えない身体を貰ったからって、使い道がない。


 俺は聞くだけ無駄だと思い、席を立とうとする。


 けれどモルフェウスは、それを手で制するとニッと笑ってこう続けた。


「ここまで聞くと、そうなるのはわかる。だが、こっからが大事だ。よ~く聞けよ」


 自信満々に、そう言われると聞かなくちゃいけないと思ってしまう。


 俺は立とうとした体勢を再び椅子に座りなおすと、続けられる言葉に耳を澄ませた。


「この世界の強いその身体と、現実世界の弱い身体は連動するんだ」


「……それは、どういうこと?」


 病気が治るとか、そういうことなら大歓迎だが、……説明なしに理解することは難しい。


「この世界でその身体が強くなれば、現実世界の身体も強くなるんだ。夢とモルフェウスの世界で経験値を獲得して、その身体が強くなれば現実世界で最強になれるかもしれないぞ」


「……!」


 やばいぞ、この能力。


 現実の弱っちい身体はなかなか強くなれそうにないけど、この力を使えば強くなれる。


「しかも、現実世界じゃないから死なないし安全。その身体を鍛えて、現実世界を幸せにしよう~」


「お~う!」


 俺はすっかり嬉しくなって、自分の名前を契約書に日本語でスラスラって書いた。


「書けたよ」


 次の瞬間、俺の身体は一瞬ピカって光ったかと思うと、すぐに光が収まった。


 おお、現実世界の自分とのつながりを感じる。


 寝ている俺の身体には、眠りコブシという変わり身が入っているのだっけ。


 確かに、悪い感じはしない。


 効果的な眠りを促すプログラムは本当なのだろう、と思った。


 モルフェウス……信じて良かった。


 今の強さはどんなものなんだろう。


 手のひらをジッと見つめる。



名前 :小林直樹

種族 :人間

ジョブ:夢の旅人


レベル:1

HP  :200

MP  :200

力  :200

敏捷 :200

体力 :200

知力 :30

魔力 :1000

運  :20


 おお、すごいぞ、この身体。


「ありがとうございます、これで俺強くなれます」


「言い忘れてたけど、そのステータスの一部が伝わるのだから、全部じゃないからね」


 全部じゃないのか、少なくても半分とか?


 それでも、十分……ようやく報われたな。


「病気も治るわけじゃないから、ただ強くなるだけだよ。それはわかって」


 病気も治っちゃえば良かったのに。


 透析治療と絆創膏型の人工膵臓は続けないとだなあ。


 そうだ……、どうやって強くなるんだろう。


 ここにいるピンクの象を倒すとか?


「経験値……どうやれば、もらえるんですか? 俺、強くなりたいです」

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― 新着の感想 ―
[一言] 小林君も契約書自体を読まず・・・ 説明だけ聞いて、自身で契約書を読まないと、契約における負の側面を知る事が出来ず・・・ とんでもない契約の可能性があるという事も考えられますね。 たとえば…
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