62話 セピア色が俺らの周りをすっかり覆ってしまうと、辺りは暗転した。
「久しぶり……。何で勝手に高校やめちゃったんだよ?」
セピア色の空間の中で、実家の建物の2階から顔を出している男の人の話し声。
ああ……、あれ俺だ……。
19才とか、そのくらいだったと思う。
地元の看護専門学校に入った頃に、当時疎遠になっていた隣の家の幼馴染と会話した。
ベランダに出てたのが見えて、やっと声を掛けて見る気になった覚えがある。
「そうな、随分会ってないよなあ~。高校以来か」
ベランダから、若き頃の俺に向かって話し返す男の人。
顔は面長で、ちょっと目つきは悪い。
「留年しても、高校は卒業すると思ったのに……」
ちょっと、苛立ってるっぽい昔の俺。
「俺もそうしようと思ったんだけどさ。色々あったんだよ……」
一緒の高校に行ったのに、ちょっと休みすぎて一年生の出席日数が足らなくなった幼馴染。
朝、迎えに行ってたのに結局足らなくなっちゃうとか、バカみたいな話だ。
まさか、辞めるとは思わなかった。
そのことがショックで、庭に居るのを見かけても声を掛けられなかった。
県立のそこまで頭のいい高校じゃなかったけれど、成績は普通くらいだった俺は推薦で入った。
幼馴染は勉強は全然ダメだったけど、定員割れが起こっていたので一般入試から奇跡的に入れた。
折角同じクラスだったのに……頑張って欲しかった……。
「あれ、誰? 片方はお兄ちゃんに似てるけど、もうひとりは?」
ゴブリンが俺に聞いてくる。
「俺に似ている方は俺の若い頃で、もう片方は俺の幼馴染だよ」
もう10年位昔の自分だから、病気になっている今の自分とは全然別人な気がする。
「ここにお兄ちゃんがいるのに、あっちにもお兄ちゃん? 何か、気持ち悪くて怖っ!」
確かに、ゴブリンからしてみれば同じ人間が二人存在するのは気持ち悪い気がする。
けれど……このセピア色の世界は、俺の中の過去の記憶が映像化されているんじゃないかと思う。
「俺の夢だから……しょうがないじゃん」
そんなことをゴブリンとやり取りしている間にも、二人は会話している。
「ここで話ししていてもアレだから、久しぶりにウチくる?」
「うん、そうだね。今から行くよ……」
幼馴染が俺を自分の家に呼んだ。
間もなく、ドアのバタンッていう音がしてセピア色の『俺』がこっちに向かってくる。
隣の家に向かうのに自分達の立っている道を通らなくてはならない。
砂利道は足が痛かったので、徐々に移動して今は舗装されたところに立っている。
なんて若い。
糖尿病になる前は、筋肉もある程度あったし、脂肪もあって健康的に見える。
寝癖が常に立ってるのは、今でもそうだけど……若いって素晴らしいなって思う。
その『俺』が傍に近づくにつれて、セピア色のしている範囲が大きくなっていく。
『俺』が正常な色部分の空間を侵食して行っているようにも見える。
セピア色が俺らの周りをすっかり覆ってしまうと、辺りは暗転した。
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