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59話 俺たちはその光を突き抜けた

 気が付いたら、目の前に星空が広がっていた。


 見渡す限りの星空。


 壁も何も見えない。


 只々、だだっ広いどこまでも続く星空。


 ここは……浴室だったはずだ。


 そして、浴槽に仰向けに寝て、ダレンさんとゴブリンの手を握って寝ていた気がする……。


 どこまでも広がる……輝きの散りばめられた暗黒空間。


 俺の寂しさを刺激する景色だ。


 不安になって、右のダレンさんと左のゴブリンの感触を確認せずにはいられなかった。


 太腿にはゴブリンの潤いのある肌と、ダレンさんの筋肉質な肌の感触が伝わって来る。


 しっかりと二人の手を握れているみたいだ。


 ゴブリンの女性的ですべすべした手は柔らかで、お互いの指が指の間に入り込んでいる。


 ダレンさんの男性的でしっかりした手は厚みがあって、握手をするような感じで握られている。


 孤独感に支配されて、逃げ出したくなるような気持ちは癒されて、またたく間に消え失せた。


 けれども、お湯の匂いもジャバジャバとした音も、お湯に浸かっている感覚もないという違和感。


 そして、身体はホカホカしているのに、顔には冷たい風が当たってくる。


 ダレンさんとゴブリンの様子を知りたくなって、左右の二人の顔を確認する。


 ゴブリンは俺の方を向いていて、ヨダレが垂れているものの、すやすやと可愛らしい寝顔をしている。


 ダレンさんは仰向け。


 俺とはやや逆側を向いて、静かに澄ました横顔で寝息を立てている。


 二人は眠っているようだ。


 けれども、あの魔法で創ったモザイク的な球体に包まれていない。


 二人共、白いヒラヒラとした布のような服を着ている。


 ダレンさんがいつも着ているものと一緒っぽい。


 神様はノーパンとノーブラが一般的なような気がするから、この格好は寝やすいのかもしれない。


 自分の身体は何故か、黒の上下のジャージを着ている。


 これは、自分が元の世界から持ってきたものだと思う。


 いつの間に着たのだろう……。


 よく分からないことがたくさんある。


 訳がわからない。


 目の前に広がる星空は、異世界転移した時のような知らない星空ではなく、懐かしい気がする。


 3個並んだ星はベルトのようで……多分オリオン座。


 あれは一年中見える北斗七星。


 カシオペア座も見えるから、あっちが北の空っぽい。


 オリオン座がある方は南かな。


 そして、この配置は冬の空……。


 これは、俺がいた世界……第23世界の夜空だ。


 混乱しながらも、どういう状況か考えてみた。


 俺たち3人は、何もない真っ黒な地面に寝そべっている。


 そして、見える景色は限りない星空のみ。


 二人を起こさないと……。


 そう思った時だった。


 俺の身体は真下に引っ張られるような強烈な力を感じた。


 地面がスパッと裂けたのだ。


 重力によって俺の足先は水平から真下に勢いよく向きを変えた。


 身体が落ちていく……。


 二人の手を握った両腕に強烈な力と痛みが伝わる。


 Y字のような万歳をしたような体勢になって、辛うじて俺の身体は落ちるのを免れている。


 何故かおかしなことに、二人の身体は俺に引きずられることなく、その場所に留まり続けている。


「ゴブリ~ン! ダレンさーん! 助けてー!」


 今まで出したことがないような声で、助けを求めてみた。


 それでも、二人から反応はない。


「二人共ー! 起きてー!」


 必死に訴えかける。


 それでも、反応がない。


 何度も何度も呼びかけてみるが、反応がない。


 声を出すだけでも、疲れてくる。


 何で、気付いてくれないんだよ。


 このままでは、落ちてしまう……。


 心が乱れている、頭がグルグルする、どうしよう、どうしよう、どうしよう。


「おーい、起きてくれよ……、頼むよ……」


 悔しくて、腹立たしくて、怖くて、不安で仕方がない。


 俺の腕に大した力なんてあるはずもなく、握手のように握っているダレンさんの手はするりと離れた。


 ダレンさんの手は寝ているので、ダランとしていて俺の握力だけでは握っていられなかった。


 すべての体重がもう片方の手に強烈に掛かる。


「あああああああああ」


 痛みで大声を上げる。


 もうだめだと思った。


 俺の中には既に諦めの気持ちしかない。


 最後の力を必死に振り絞って、激痛を我慢しながら、もう片方の手に力を入れ続ける。


 全然力なんか入らない。


 もともと、力なんて全然ない。


 それでも、下に落ちていかなかったのはゴブリンの手がしっかりと握っているからだ。


 眠っているゴブリンの指の間の力がものすごくガッチリと、俺の指や手を固定してくれている。


 固定はいいけど、手が腕が指が……痛くて痛くて、もう……どうにもならない苦しみが続く。 


 いっそ、もう落ちてしまおうと思った。


 足元に広がる世界は底が見えない。


 永遠に落ち続けるかも知れない暗黒世界。


 それでも、今の痛みよりはきっと楽だ。


 しかし、手を離して落ちようにも、ゴブリンの手と俺の手はまるで繋がっているかのようだ。


 こういうのを、俗に恋人つなぎなどというけれど、今は地獄つなぎにしか思えない。


 気を失いたい。


 失いたいのに、失わない……俺の忌まわしい意識。


 その時……、下からとても冷たい風が吹いてきた。


 上からぶら下がってからというもの、風なんて全く吹いていなかったのに。


 そよ風から始まり、だんだんと強くなっていく。


 またたく間に強くなる風。


 一気にものすごい強い風が俺とゴブリンの身体を天井方面に持ち上げた。


 腕への負担が一気になくなる。


 ふたり一緒に人の身長よりちょっと上まで舞上がったかと思うと、再び重力によって落ちていく。


 床の黒よりも、なお黒い床の裂け目。


 今度は頭から裂け目に向かって、落ちていく……。


 ゴブリンはそれでも目が覚めず、俺は反応する力さえ持ち合わせていない。


 加速していく落下スピード。


 ゴブリンより俺のほうが重いのだろう、俺の頭のほうが下になって落ちていく。


 このまま、死んでしまうのか。


 何も聞こえず、何も見えず、只々落ちて行っている感覚だけがある。


 落下スピードは増していくはずだが、真っ暗で感覚がよくわからない。


 本当に落ちているのか、疑問を感じてきた頃、白い光が前方に見えた。


 俺たちはその光を突き抜けた。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 『太ももにゴブリンのうるおいあるお肌& ダレンさんの筋肉質な身体の肌感触が伝わる・・・・』の部分だけを見ると、 どんな事をやっているのかという・・・あらぬ想像をしてしまいます・・・(n*´ω…
2021/02/23 12:08 ウナギ大好きプリンちゃん・ウラジーミル・アスポン
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