プロローグ【事の発端】
少しでも続きを読みたいという方がいらっしゃれば、遅筆ながら更新していきたいと思います。
何処から説明すべきか。
さすがに目の前の状況から説明すべきなのだろう。
一言で言えば、玄関のチャイムが鳴っている状況で、目の前に女の子がいる。更に詳しく言えば、裸の女の子だ。歳はおそらく二十手前、黒髪ロングでかなりの美人だ。太り過ぎず細過ぎず、しなやかに見える肢体。そして、程好く育った胸の膨らみ・・・CかDか・・・。そんな女の子が一糸纏わず自分を見上げているのだ。
それはもう、全く状況を知らない人が見たら、どう考えても即通報ものだろう。実際、自分がこの状況を他人の目で見たら間違いなく通報する。確実にする。
ーピーンポーンー
状況は玄関のチャイムは鳴っているが、中に他人はいない。それはそれで気不味い。そもそも、玄関に鍵は掛かっていない。
「あの・・・」
どうしたものか。数秒悩んでいる間に彼女から声をかけられた。
「あなたは変態性欲者ですか?」
ガチャ
玄関の開いた音と彼女の声と共に、自分の人生に終わりが告げられた気がした。
そもそも、何故この様なことになったのか・・・。
とある日常の中、大学二年生である俺は、普段通りの生活をしていた。それこそ、コンビニでご飯を買ったり、友達とゲーセンに行ったり、講義を受けたり、バイトしたり。
その惰性の中でも楽しく生きていたのだけども、変なものを拾ったのが運の尽きだった。
とある平日のバイト帰りの途中。変なものというより、怪しい携帯電話。形も普通のスマホ、色もノーマルな黒、ただそれだけ。なのだが、そんなものが路上のど真ん中に落ちていたのだ、当然怪しい。怪しいのだけども、
「これは誰のだろう?今日はもう暗いし明日にでも交番に届けるか」
と、持ち帰ってしまったのが失敗だった。
家に帰り着き、念のためと携帯の中身の確認をしようと電源をつけた。だが、反応しない。おそらくバッテリーが切れているのだろうと思い、充電ケーブルにつなげる。
ここまでは良かった。
そして、ここからが事の始まりだった。
携帯の画面が明るくなり、画面にスタート画面が表示され、され、され、されない。
「これ・・・壊れてんのかな?」
と明るくなった画面を覗きこむと、不意に額へ謎の物理攻撃を受けた。もちろん、痛くない。痛くないが驚いた。声を上げこそしなかったが驚いた。
何せ、手が生えているのだから。
そう、携帯の画面から。しかも、少しうねうねして、ぬめってる。しかし、人の腕のように見える。
手を開いたり閉じたりしている・・・掴む物を探しているのだろうか?しかも、携帯を基点にジタバタしている。
これは、このまま放置・・・というか、何処かに捨てるべきか?
だが、これを引き上げたら何か出てくるのか、興味はある、怖いけど。
・・・引き上げてみるか?
興味が恐怖に勝った瞬間だった。いや、実際に迷った時間も一瞬過ぎて、迷ったかどうかも怪しいレベルだ。
それはさておき。
生えている腕と思われる物を掴んでみる。
―ネチャァ―
「・・・うわぁ」
すごく、気持ち悪い。
本当にヌルヌルしていて、滑って掴みにくい。しかも、暴れてる。
だが、向こうも掴まれたことに気付いたのか、こちらの手首を掴み返してくる。
何となく、心が一つになった感じだ、もちろん気のせいだし、気のせいであってほしい。
倒錯しながらも、しっかりと確実に引き上げていく。そして、気付いてしまった。肩まで引っ張り上げて、漸くこの個体がオンナであることに。もちろん、もちろんだ。人間の形をしていない可能性が高い、高いと思いたいが、仮に女であった場合は間違いなく通報案件である。それはよろしくない。
女性を部屋に連れ込み猥褻なことをした疑い
間違いなくアウトである。
「ちょっと待て、出てくるな!」
焦るように叫ぶが、相手はこちらの気持ちなど与せず、腕を更に強く握りしめ、力強く出てこようとしている。物理などまるで介せぬ、小さな画面から肩から先、頭が生えてきている。髪型はまだ判然としないが、なかなか長い黒髪のようだ。ほっそりとした腕に長い黒髪、まず間違いなく女だ。人型の女だ。これで男なら、逆に俺が怒っていいレベルで女だ。
ずる、ずる、ぬる
ぺちゃ
若干間違った効果音が聞こえてるが、もう上半身が出てきてる。
「ヤバい、ヤバい、ヤバい」
このまま出てきて裸の女性だったら、誰かに見られた時点でアウト、冷静に考えるんだ。
アパートの一部屋、玄関の鍵は・・・
「まずい、掛けてない」
まずはそこか。その後は、この女性と思われる生物の服だ、セルフで何とかしてくれるならいいが、そんな希望は持たない。
ずる、ぬる、にゅる
「く、もう腰まで抜けてやがる」
ここまで来たら一瞬だろう。ならば急いで玄関の鍵を掛ける。これしかない。手を離して玄関へ駆け・・・れない。
がっしりと、女と思われる物体が俺を掴んで離さない。
「は・・・なせ・・・」
意外に力が強く、振りほどけない。
「・・・も・・・すこ・・・」
相手も何か呟いているが、聞き取れないし、離すつもりもないらしい。
ーピーンポーンー
「ヤバい‼」
誰だ、こんな時間に。もう20時だぞ?
目の前に未確認生物かつ裸の女性体で手を離してもらえず、玄関の鍵は開いたままで、来訪者。
まずい、とかいうレベルはもう越えている。
「離してくれ・・・!」
額に汗をかきながら、懸命に腕を引き離しにかかる。だが、結果的に、それが、致命的だった。致命傷だった。
ずべしゃ。
携帯から引抜ききってしまった。
どう見ても、裸の女だった。長い黒髪に程好く成長している胸、華奢な体つき・・・いや、なかなかに艶かしい。
ごくり。
・・・粘液が乾いてないからという可能性もあるが。
顔はまだ見えていないが、ここまで来れば、そこまでの醜女というオチは無いと思うが、画面から抜け出るのに体力のほとんどを使ったのか、まだ膝をついて俯いたままで確認は取れない。
いや、ぴくりと少し動いた。
徐々に顔を上げていく。やはりなかなかにかわいい顔立ちだった。美人というよりかわいい。目は大きめで睫毛も程よく長く、鼻筋も通っており細過ぎず、太過ぎない、バランスの取れた顔立ちだ。黒髪ではあるが日本人形のようにとは言えない。だが、かわいい。
ピーンポーン
再度玄関のチャイムが鳴る。
ヤバい。
チャイムで現実に戻される。
この女の子をどうやって隠す?
いや、まずは服か。
そもそも女物とか持ってねぇよ!
ヤバいヤバい。
「あの・・・あなたは変態性欲者ですか?」
ガチャ。
彼女は声を出した、玄関が開くと同時に。
近くまで来たので、せっかくだから会いに来た。
そう簡単な気持ちで久々に息子の部屋までやって来た訳だけど、何かおかしい。
明かりは点いてるのにチャイムを鳴らしても返事がない。
「おかしいわね?」
普通に考えれば電気を点けたまま外に出るとは、あの子の性格からは考えられない。
・・・女?
いや、じゃなくて彼女?
まぁ、年頃だし、可能性はある。それこそ、幼少期から女の子と仲良くなるのは上手かったのだ、彼女位いてもおかしくはない。なのだが、気配というか、そんな感触がしないのだ。
空気が重い、しかもこの部屋だけ。
それらしい言い方をすれば、ホラー映画で異変が起きている状況。間違いなく異常事態だ。
開けてみるべきだろうか?いや、開けるべきだろう。
何度もチャイムを鳴らしても返事がない。
理由は十分だ。
まずは鍵が開いているか確認しなければ。
そう思いドアノブをひねる。
ガチャリ
なんということでしょう、ひらくではないですか。
いけない、一瞬ショックで変な思考をしてしまった。
ともかく、開いてるなら入るだけだ。
変態性欲者。
そう言われた瞬間に後方から
「息子ちゃん、何でチャイム鳴らしてるのに出ないの?」
と母親が入ってきた。
何だろう、これ。死にたい。
・・・まずは前を見て、母親へ振り返る。
「母さん、これは違うんだ」
「何が違うの?」
何が違うのかな。
母さんはすごくニコニコしている。いい笑顔だ、こちらは不吉さを感じる位に。
前門の虎、後門の狼。
どうすればいいのか分からない。
・・・いや、まずはこの子に状況を説明を、
「私、この人に無理矢理・・・」
あ。
「もしもし、警察ですか?うちの息子が女の子を誘拐してまして、場所は大学近くの・・・」
あ。
終わった。
気付けば、母さんは警察に連絡を入れていた。
しかも、冗談ではなく、ガチだ。
目が語っている、「テメェはナニさらしとんじゃワレ」と。
自分が硬直していると、すかさず謎の女の子を保護するかのように身体を割り込ませる。
「大丈夫?この子に無理矢理襲われたのね。ごめんね。今からちゃんと法によって処断するからね」
どうやら母親は実の息子を本当に犯罪者だと認識したらしい。
サイレンの音はなっていないが警察が二人ほど上がり込んで来たのは、母さんが電話してから実に30分過ぎた頃だった。そして、彼らが最初に僕を見て、一瞬ぎょっとしたのはすぐに判った。
そりゃ、ぎょっとするよ
僕は今、ロープで縛られている。手は後ろに回され、足に繋がれて海老ぞり状態。その上で猿轡を噛まされ、あちこちに暴行をされた痕。主に打撃痕。蹴られ、踏まれ、嫐られ、ちょっとした尋問痕だ。
そんな僕をお構いなしに、母さんは警察が来たのを確認するや、状況を説明する。勿論、間違った、だ。
ちなみにだが。
母さんは警察に連絡を入れた時に、鍵を開けておくのでそのまま突入してくださいと伝えていたようだ。理由もおそらくは、「拐かされた女の子を、捕縛してるとは言え二人っきりにするのも良くないと思います」等と説明したはずだ。でなければ、こんなにスムーズに部屋へは踏み込んで来ないと思われる。
そう冷静に考えながらも、自分の冤罪を立証する機会をうかがっていた。
というより、立証しなければ人生が終わる。
そんな瀬戸際だ。
とはいえ、猿轡されている現時点では何もすることはできないが。
「えぇ、はい。私が入ってきた時には彼女はもう、裸に・・・そうです。鍵が掛かってなかったのが幸い・・・えぇ、ギリギリの所で息子の凶行を止めれたと・・・」
母さんは入ってきた警察の片方、男の方と話をしている。そしてもう片方、女の方は携帯から湧いた女の子に付いている。警察が男女二人で来た理由・・・被害者(俺が被害者と言いたい)が女性で、まだ本当に犯罪が起きているか分からないため、この男女編成で来たのだろう。
さておき。
俺はもう、現段階での母さんの説得はあきらめた。なので、あと一人のキーマンの女の子の発言を得て無実を立証しなければならない。なのだが、今は女の子は眠りにつき、話を聞けない状態である。それに話が聞けたとしても不安がある。あの第一声。これは危険だ。更なる誤解を周りに振り撒く可能性がある。
などと考えていると、どうやら警察の男と母さんの話が終わったようだ。
「では、このまま署に連行する方向でよろしいですか?」
「はい!」
言いやがった。あの母親はいい笑顔で肯定しやがりましたよ。
しかも、このまま?このままだと?海老反り状態で持っていかれるのか?流石に猿轡位外せ、いやマジで!
「んー、んー、むぐー」
頑張って外せアピールをしてみるが、
「このまま猿轡もしたまま連行した方が、周りには迷惑かけないと思いますので、そのままお持ち帰りください」
ごりっ。
「グフゥ・・・!」
思いっきり背中を踏みしめられた。
ぐりぐり。
更に踏みにじられる。
しかも、警察には見えない角度で。
無理な体勢で僅かでも抵抗しようとするが、いかんせん体勢が悪すぎてすぐに力尽きてしまう。
そのタイミングで
「そろそろ、この不愉快な性犯罪者を連行してもらってよろしいですか?」
・・・
「一応、再度確認ですが・・・この青年のお母様・・・ですよね?」
「えぇ、その通りです。私の息子がこんな犯罪に手を染めるなんて・・・今すぐ勘当したいですわ」
「・・・そうですか、分かりました」
男の方がそう応え、母親と協力して僕を無理矢理乗ってきた覆面パトカーへと運びこもうとする。全力で逃れようとしても、母親が掴んでいる両足から強烈な痛みが走り、すぐに鎮圧されてしまう。
これはもう取調室で警察に説明するのが正解なのかもしれないな。
そう諦め、ふと彼女に眼を向けると、いつ気が付いたのか分からないが、あと一人の女警官に付き添われ同じくパトカーへと歩を進めていた。その顔はそれなりに回復しているようで、元凶ではあっても、ちょっとだけ安心してしまった。
取調室
「で、何か言いたいことはあるかね?」
取調室にいるのは僕と先程の男とは違う警官である。
この部屋に入れられてやっと猿轡が外された。その前までは、鬼の母親の意見で覆面パトカーのトランクに放り込まれていた。なかなかに悲しい体験である。
例の彼女は別室であの鬼畜母親と一緒に話をしているらしい。
「犯罪者でも言うかもしれませんが、僕は無実です」
とりあえず主張しておく。
僕は携帯を拾って電源付けたら女の子が湧いてきた・・・とは流石に言えない。言った瞬間、黄色の救急車に載せられるかもしれない。そいつは自分のプライドが許さない。
なので、とりあえず無罪だけを主張しておき、彼女と話をできるタイミングを作る。彼女の方が変な事を言わなければ、それでいくしかない。
「ふーん、無罪ねぇ・・・犯罪者の大半はそんなこと言ってくるからねぇ」
何となく、この警官にイラつきを感じる。ヤル気が見えないというか、テキトーにあしらって、さくっと収監してしまえという顔をしている。こんなのがいるから冤罪が多く、そして無くならないのだろうと。
「あくまでも無罪主張・・・と」
「えぇ。それ以外は話すことがありません」
「あっそ。んじゃ、ちょっと向こうにもこの内容伝えてくるから、少し待ってな」
そうテキトーに切り上げ、この中年でやや脂ぎった薄毛の、結婚してもうだつが上がらす、仕事から帰れないせいで嫁からも愛想尽かされて離婚されて、子供の養育費と慰謝料で給料が逼迫されてるけど、つい遊びたくて風俗とかに通って豪遊して、結局火の車になったから冤罪でも逮捕率上げて出世しようとしてそうな警官は出ていった。
程なくして。
「おい、ちょっとこっち来い」
と、先程の脂ぎった・・・(以下略)が不景気そうな顔で部屋から出るように促してきた。表情を見る限り、向こうでは面白く無いことが起きたのだろう。
取調室から出ると、脂(以下略)は身振りで付いてくるように指示して歩きだした。向かう先は、おそらく母さんとあの娘がいる部屋だろう。母さんがいなければまともに話ができるだろうけど、いるだろうなぁ。
そして、とある部屋の中に案内された。
そこには案の定、件の娘と母さんがいた、母さんは早くどっか行けばいいのに。
その娘は母さんと一緒にソファーに座っており、その対面には僕を連行した二人が座っている。その間に僕と先程から人に冤罪を吹っ掛けてきている馬鹿野郎が突っ立っている。
「さて、揃いましたね」
僕を連行した片割れ、男の方が話を始める。
「まず、君には改めて自己紹介を。僕は村石、役職は省くけど見ての通り警察だよ。で、こちらの女性が相方の・・・」
「速水です、よろしくね」
と、簡単な自己紹介を受けた。
男の方、村石さんと言ったか・・・若くとも見れるしそこそこに年齢を重ねてるようにも見える、中々に曲者な感じがする。
女性の方は・・・速水さんか。うん、可愛いというよりは凛凛しいというのがしっくり来る。年齢は、多分20代半ばというところだろう。そして、この人も曲者だろう。
何故、この二人を曲者と思うか?簡単だ。この母の言葉に従って簡単に僕をパトカーのトランクに詰め込んで連行してきたのだ。しかも、現状で悪びれた様子もなく、飄々と自己紹介をしてきたのだ。信用?勿論無理だ、現時点では。
「さて、ここに来てもらった理由を説明しようかな」
こちらの表情を見やりながら村石さんが話を続ける。おそらく、信用してないというのは読み取られているだろうなぁ。
「単刀直入に言えば、君は白、真っ白。釈放だよ」
「「ちっ」」
今、二人位舌打ちしやがった。
そんな空気も気にせず、村石さんは続ける。
「速水がそこの彼女の話を聞いてからの結論ではあるんだがね、とりあえずは無理矢理部屋に連れ込まれた訳ではないのが判明、及び君は釈放というのが確定した訳だ」
「えらくアッサリ釈放しますね?どういう意図ですか?」
僕が疑わしく尋ねるが、村石さんは肩を竦めて、
「この先はそこでダンマリ決めてる彼女に自己紹介してもらってからさ」
と、いつの間にやら白いワンピースを着込んだ女の子に話を促す。
何処から服を調達したのだろう・・・そう一瞬考えると、
「我ながら上出来」と速水さんが呟いていた。思考が読まれたのとこの人の仕事と考えると、中々に複雑な気分だ。いや、かなり上出来なんだけど。
さておき。
その場にいる全員が名前も判らぬ女の子に注目をする。おそらく、母さんでさえまだ詳細は聞かされていないのだろう。ついでに、俺を尋問していた脂ぎった・・・(以下略)、テメェはとっとと何処かに行きやがれ。
「そう邪険にしないでくれ。彼も彼でこの釈放には納得いかないだろうからね、事情は簡単に説明しときたいのさ。ちなみに、彼は島田という」
と、村石から心を読まれたかのような説明を受ける。というより、ナチュラルに思考を読むのは止めてほしい。
「仕事なもんでね」
だから読むなというに。と、脱線してしまった。
とにもかくにも、説明をしてもらわなければならない。その為に視線を彼女に向けると、彼女もこちらに視線を返してきてくれた。
そして
「改めて、今回はご迷惑おかけしてごめんなさい。私は電子タイプ09・・・普通の人間ではありません」
普通の人間ではないと言い切った。
「普通の人間ではない・・・それは解る、解るんだ。ただ、その電子何たらというのはどういうことなんだ?」
俺は目の前で携帯電話から這い出てくるのを手伝った本人だから、普通の人間ではないことは解る。むしろ可愛い貞●じゃなくて安心してさえいる。だが、何かしら知っていそうな村石と速水はともかく、母さんとこの島田という脂ぎった・・・(以下略)は理解ができないだろう。
「電子タイプシリーズ、これについては僕から説明させてもらおうかな」と、村石は彼女の後を引き継ぐように語り出す。
「言ってしまえば、彼女は国家秘密の研究成果。新たな人類を造ってしまおうってプロジェクトの9番目。一応、次も造る予定だけれど予定は未定ってヤツだったんだけど・・・彼女が自意識を持ってここにいる以上は次の研究が始まるのも待った無しかな」
「ぶい」
意味が解らない。
こいつ、何て言った?国家秘密?研究?一介の警察がこんなに詳しい訳ないだろ。
「もちろん、僕はただの警察じゃないよ、所属自体は警察だけどね。警察の上の方から何名か任命されててね、研究の機密漏洩が無いように監視する、ついでに何かしらの問題が起これば今回みたいに対処するのがお仕事さ。あぁ、相方の速水も同じ仕事だよ。彼女と僕たちについては現時点ではこれ以上言えないけど、何か質問はあるかい?」
もちろんある。あるのだけれど・・・
「で、私たちはその秘密を知ってしまってる訳ですけど、今後はどのような対処をされるんですか?」
母さんが俺の聞きたいことをズバリ聞いてくれた。気になるのはまさにそこなのだ。警察から釈放はされる。ただ、問題がその後だ。いきなり後ろからブッスリとかされたら堪らない。もちろん、ここで村石が無事を口で保証したところで、寝首をかかれる可能性がゼロとは言えない。それどころか、可能性が高い。それ位この二人が信用できない。
「まぁ、君達は信用しないだろうけど、こちらは何もするつもりはないよ」
村石はまたもや肩を竦めながら僕に視線を返す。分かりやすいとは言え、毎回心を読むなよ。
「そうだね。今回は事が事なだけに、彼女次第という感じかな。彼女がこちらの保護を受けるのであれば、研究所に入ってもらい、今後の実験研究のお手伝いをしてもらう」
なるほど、普通はそうなるな。
「次の候補だが・・・これはあまりお勧めしない。というのも、彼女をここで放逐し、彼女がどういう問題を起こすか・・・我々が遠目から観察して、人に危害を加えた時点で回収、というプランだ」
「それは・・・人に危害を加えた時点で殺処分ということですね?」
名前も知らない彼女は自分の境遇に淡々と結論を出す。
「そういうことだね」
村石も否定はしない。
そして続けて言い放つ。
「だから、君がこの娘の保護者にならないかい?そうすれば、余程の事が無い限りは君の事はただの観察対象、箝口令だけ敷かせてもらうけど、悪くない条件だと思うよ?」
「よろしくお願いします」
彼女は村石の提案に合わせて軽くお辞儀をする。
・・・この野郎、これが狙いか。
確かに悪くない。
この娘も実験台になることなく、自分が上手く誘導すれば処分されることもない。しかも、こちらは美少女と同棲もできる。確かにいい事ばかりに聞こえる。
だが、こいつは裏でこうも考えてる。
せっかくだ、モルモットは多い方がいいと。
人間と実験生物がどういう関係になり、どのような影響を与えるのか、要は人間と接触しても大丈夫なのか把握する為の実験にすり替えるつもりなのだろう。
「という事は、私はこの事を口にしなければ自由ってことでいいのかしら?」
「ええ、それで問題ありません」
珍しく速水さんが口を開いた。村石が喋ってばっかなので、速水さんは基本無口なのかと思っていたが。
「島田さんも・・・今の立場が大事でしたら他言無用でお願いしますね」
軽く微笑みながら言っているが、眼は笑っていない。あ、これは逆らったらいけないタイプだ。
「これでも、僕も苦労してるんだよ」
ボソッと、僕にだけ聞こえる声で村石が呟いた。その声には哀愁も漂っている。これは存外に速水さんの横暴に手を焼いて苦労してるのかもしれない。
瞬間。
ニッコリ
僕と村石に向かって速水さんが微笑んだ。
・・・何も知らないという事にしておこう。
それはともかく、島田も自身の保身を第一という事なのだろう、速水さんに対して「分かった、それで問題無い」と渋い顔で了承していた。若干声が上擦っていたので、速水さんの言葉を額面通りに受け取ったのだろう。実際、忠告を破れば額面以上の事が待っているのは確定なのだが、そこまで理解しているかは分からない。
「私としては、これ以上厄介事を増やしたくないし、もちろんこの事は話さないわ。ただ、この流れからすると・・・」
ちらっとこちらを見やり一言。
「この娘の面倒は私の息子が見ることになるのでしょう?逆に何かしらのサポートは欲しいところねぇ」
確信を持って集りに行きやがりました。
「ええ、そうですね。息子さんの方には援助を差し上げますよ、貴女には特にありませんけど」
そして、あっさり断られとる。
(まぁ、いいわ。バレないように息子から集ればいいのだし)
とか考えてそうだな。
「ちなみに、お金の動きは逐一確認しますので、当然彼に集ればその分の請求を貴女に飛ばしますので悪しからず」
あ、釘刺されたな。少しあの馬鹿母が悔しげにしている。
それはさておき、一つ早急に確認しなければならない。
「で、何故自分が面倒を見る事になっているのか、それを教えてほしいんですが」
周囲が「え?」って顔になる。
俺は何かおかしい質問をしたのだろうか?地味に殺処分がかかってる電子なんたらの娘だけでなく、島田でさえ「こいつ、大丈夫か?」みたいな顔をしてるぞ?
「先程の君の反応を見る限り、この申し出のメリットは解っていると思うのだけど、そこで何故バッサリ断れるのか、教えてもらってもいいかい?」
村石が若干混乱しながらも聞いてくる。
そう、自分自身のメリットは理解している。
ある程度の国からのバックアップ付で可愛く見える女の子っぽい娘と同棲だ、充分なメリットだろう。ついでに言えば、自分は男色でもない。だが、だがしかし。
「この子と同棲する限り、あんたらとの付き合いが必須になる。これはかなりのデメリットだろ。好き好んで警察関係、しかも特殊な部署に好感を持てる訳がない。次に言えるのは、俺は学生だ。俺が講義を受けてる時、この子を一人俺の部屋に置いておくとか、何かあったらどうする?どうしようもないだろ?それともあんたらが俺の部屋に来てこの子の面倒を見るのか?そもそも、俺はあんたらを部屋に入れたくねぇよ。何しろ、そこの糞な母親の言う通りに俺をこんなところに招待してくれやがったあんたらだぜ?信用できる訳がない。」
「あー、その何だ。僕達そのものを信用してないのか。それは申し訳ないなぁ」
「むしろ、今までの流れで信用されてると思ってるアンタの脳ミソはお花畑か何かか?」
「確かに、村石さんの頭は少し弛い」
自分の言葉に速水さんが肯定してくれてるが、頭がおかしいのは速水さん、あなたもです。
「んー、でも困ったなぁ。君の所で保護できないのなら、彼女はどうしたらいい?せっかく自我も持てて肉体も持てた。なのに、そのまま研究所送りとか、流石に僕も嫌なんだけどね」
村石が食い下がるが、
「そこの母親もどきに面倒見させればいいんじゃないですか?多分、乗り気で引き受けてくれますよ」
「任せてください」
母さんはにこやかに答えるが、
「いや、どう考えてもこの人はダメだよ」
と、即答で否定される。横にいる島田さえもうなずいている。
「じゃあ、あんたらのどちらかはどうなんだ」
「悪くは無いんだけどね・・・」
と村石。
「立場上、ちょっと厳しいかな」
と速水さん。
「敢えて言うなら、僕らの立場としてどうしても彼女を研究所に送らなければいけないからね・・・仮に匿ってもバレるのは時間の問題で、バレたら自分らのクビどころか命さえ怪しいもんでね」
「で、俺が保護して拾ったという形にして、実験かつ保護を俺に押し付ける・・・という認識でいいのか?」
「言い方は悪いが、そういうことになるね」
村石は悪びれず飄々としている。
「私のこと、嫌い?」
電子タイプ09は若干不安そうな瞳でこちらを見ている。
顔が整っているので、なおのことそんな眼で見られると辛い。だが、ここは可能な限り断りたい。
「確かに、確かにだ。自分がこの中では最も問題は無いよ。だけどだ。俺の立場はどうなる?只でさえ学校生活があるんだ、他の面倒を見る余裕は流石に無いぞ?しかも、実験データも集めるのであれば、間違いなく外に出す必要もある。そうなれば俺も一緒に行かないといけない。そこで俺は知合いと会ったらどう説明すればいいんだ?」
そう、問題はここなのだ。
その話を聞いた村石は「あー」などと暢気に頷いている。
そして、
「いっそのこと、彼女とか宣伝すればいいんじゃないかな?」
とか、言い出した。
ふざけてるのか?あぁ、ふざけてるのか。
確かに今のところ特定の誰かと付き合ってる訳ではない。だからといって、いきなり目の前に現れたUMAみたいな女の子とホイホイ付き合う訳がないだろう。
「よし、今の一言で完全に断ることが確定した。今日はもう帰らせてもらう」
そう言い切り、席を立とうとすると、
「・・・変態性欲者・・・」
彼女はボソリと、だがしっかりと周りに聞こえる声で呟いた。
そこから水を得たように村石が語りかけてくる。
「あぁ、そうか。そういう手もあるね。どうかな、今の一言で僕はこういうことを思い付いたんだ。君が協力しないのなら、君がここに強姦未遂でここに一度収監されたと噂を流せばいいとね。実に良い」
「・・・なぁ、あんた、ちょっとだけ、全力で、顔が変わるまで、泣くまで、殴り続けたいんだけどさぁ、法律で許可してもらうには、どうしたらいいかな?」
「気持ちは分かる。けど、残念ながらそんな法律は無い」
俺が本気で殴りつける数秒前の状態で言葉を区切りながら質問すると、速水さんが否定と同意をしてくれる。ただ、あなたも同罪です。
・・・・・・。
人を殺せそうな眼で村石を睨み付けるが、どこ吹く風とやら・・・といった感じである。
むしろ、「我儘だなぁ・・・」という様に肩を竦めて、ヤレヤレといったジェスチャーまでしている。これに殺意を抱かなければ何に抱けるというのか?
少し深呼吸をする。頭は回転しているか?冷静か?大丈夫だ。
そう思いながらも俺は応えることにする。
「分かった、引き受けるよ」
俺は引き受けた。
ブクマやコメントをしていただければ、嬉しく思います。




