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18話 王宮からの使者

 戦場で発見した馬車の中にはサイパンの姿は無く、大勢で周囲を捜索してみたが発見する事は出来なかった。サイパンを倒す事に失敗した俺は悔しさを滲ませる 普通の人ならフロアの街まで徒歩で4日程度、馬なら飛ばせば1日で着く事が出来る、何処を探してもサイパンの行方は解らなかった。


 取り合えず俺達はサイパン捜索を残念した後、負傷している領主兵の治療や逃げ出し途中で力尽きた者達の保護を優先させていく。


---------------------------

 

 そして戦闘終了後俺の家にハイブが訪れ、今後の方針を話あった。 


「そう気落ちする必要はありません。もしサイパンが街に逃げ帰ったとしても、戦える兵はいません。それに王宮にも負けた事は伝わっているでしょう、サイパンに残されているのは破滅のみです」


 ハイブはそう説明してくれた。


「王宮は俺達の事をどうすると思う? 反逆罪で攻めて来ないとも限らない……」


「実はその件で私に考えがあるのですが……王宮が動く前に此方から先手を打ちましょう」


「先手だと!? それは一体どんな……」


 ハイブはそう言うと、テーブルの上に1枚の紙を拡げた。その紙には各街と村の代表者のサインが書かれてあった。


「これは?」


 紙をマジマジと見つめて俺がハイブへ視線を移しながら尋ねた。


「これは、サイパンが悪政をしていたと言う事が書いてある連判状です。この地域の全ての村や街の代表者がサインをしています。この連判状と証拠となる。 各村の帳簿を持って、私が直訴に行きましょう。何としてでも航太朗殿を助けて見せます」


 力強いハイブの言葉に、俺の目頭も熱くなる。俺の知らない間にハイブは準備をしてくれていた。そんなハイブの手を取り強く握りお礼を告げた。


-------------


 ハイブが王宮へ直訴に向かっている間、俺はフェリィで待機する事になっている。

 戦争直後はさすがに村人達も気が立っていたが、今は随分と落ち着いて来ていた。ライド村に避難していた者達もフェリィに戻って来ており、フェリィは戦争前の日常を取り戻しつつあった。


 領主兵の怪我人達も村人の手当のお陰で少しづつ動ける者も増えて来ている。 意外だが兵と村人の間で乱闘などは一切発生していない。疑問に思い村人に聞いてみると、兵士達は皆従順だと教えてくれた。あの戦闘でそうとう恐怖心を植え付けられたのだろう、今は兵が村人に対して気を使っているとの事だ。


「今日で30日か……ハイブは大丈夫だろうか?」


 リアが入れた紅茶を飲みながらそう問いかける。


「きっと大丈夫ですよ。航太朗様は悪く在りませんから、悪いのは領主達です」


 リアが領主が村に来た時の事を思い出しながら、腕を組みほっぺたを膨らませながら文句を言っている。


「そうだといいんだが、それにしては連絡が遅すぎる気も……」


 便りのないのはよい便りと言うが、今回に限っては不安だけが募っていた。だが心配しても仕方ない、俺は残りの紅茶を一気に飲み干し部屋の窓から外の景色に目を向けた。


「あれは……馬車か?」


 俺の家は他の家屋より少し高く作られ、窓から外を見渡せば村全体と外の様子が見える様になっていた。そして窓から俺の目に飛び込んできたのは豪華な馬車である。

 すかさず双眼鏡を手に取り観察してみると、馬車には何かマークが刻まれていた。


「何処かで見た事が気もするが……リア、ちょっと来てくれ!」


 リアを呼び寄せると、双眼鏡を手渡し馬車を見るように指示をだした、リアは馬車を見つけるとすぐに解った様で俺に説明してくれた。


「航太郎様、あの紋は王家の物です。あの馬車は王家の使いの者が乗っているかもしれません」

 

「王家の使い……ハイブも乗っていればいいがな」


 一抹の不安を感じたまま、俺は馬車を向い入れる準備に取り掛かかる。

 馬車を出迎える為に村の入口まで急ぐと、丁度村の傍まで馬車が近づいていた。馬車は入口の前で一度停車し、御者が俺達に声を掛けてくる。


「我々は王宮の使いの者だ。航太郎村長と連絡を取って頂きたい」


「航太郎は私です。王家の使者がどの様なご用件で?」


「用件は馬車に乗っているマリア様が告げるだろう」


 御者がそう声を上げた時に、馬車の扉が開き少女と男性が降り立った。

 少女は10歳位だろうか? 大きな目で美しい金髪と愛くるしい顔をしている。男性の方は執事の様な服装で、渋く落ち着きがあった。


「へぇ~。ここがフェリィの村ねぇ……意外と大きくて綺麗な村じゃない」


「左様で御座いますな。マリア様」


「それじゃ、マリアって言うのは……お前なのか?」


 俺は少女に指差し言葉を使者の若さに驚く。俺の仕草にマリアと呼ばれた少女はムッとする。


「ハンス~。初対面の人に対して指を差して、お前ってどう言う事なの? 失礼じゃない」


「左様で御座いますな。マリア様」


「いや……今のは俺が悪かった。使者と聴いていたので、もっと年配の者が現れると思っていて驚いただけだ。早速だが、家へ案内したい、付いて来てくれ」


 俺の家へ二人を案内すると、リアに声を掛け紅茶と茶菓子を用意させた。一応この世界に近いお菓子を日本から持ってきていた。互いにソファーに座ると、俺は早速本題へ移るために声を掛ける。


「王宮からの使者と聞いている。貴方は何者で、王宮は何を言っているのかを話して貰えないか?」


 俺がそう声を掛けても、返事が返って来る事はない。なぜなら目の前でマリアと呼ばれる少女は出された茶菓子に夢中で俺の言葉が耳に入っていない。


「これ。凄く美味しい。ハンス、王都でも買えるかしら?」


「調べてみますが、私も見た事がありませんので難しいかと……」


「ちょっと貴方。この茶菓子は何処で手に入れたの? 正直に言いなさい!」


 先程までは見た目通りの愛くるしさで茶菓子に夢中だった少女は、鋭い目つきで迫ってくる。


「ちょっと待ってくれ、アンタ使者だろ? まずは用件が先だろう?」


 少女の勢いに押され気味だったが、このままでは話も進まないので直球を放り込んでみた。

 少女は少し考えていたが、一息付くと話し出してくれた。


「仕方ないわね。 貴方の言う通り、用件を先に伝えるからその後はこの茶菓子について喋って貰うわよ」


 どこまで茶菓子に拘っているのだろうか? 上手く誤魔化せる自信も無いが、とにかく先に用件を聞かない事には動きようも無い、俺は固唾を呑んで彼女の言葉を待っていた。


「最初に私はマリア。 王宮の王女よ。王女と言っても継承権は殆ど無いから、そこまで畏まる必要もないわ。

 今回は私がアメ玉の産地と言われる、フェリィを見たくて志願したのよ。それで今回の反乱に対して、王が貴方の話を聞きたいみたいよ。だからこの後私と一緒に王宮へ来てもらいます」


「王女様なのか……それと俺が王宮へ行くって事は捕まるのか?」


 俺の言葉を近くで聞いていた。 リアがショックで手に持つお盆を床に落とした。


「ハイブ村長だったかしら? ここの領主が不正をしていた証拠を持って来たわ。王宮としても不正を働く者は許さないけど……だからと言って王国に歯向かった者に何も無しでは秩序が保てないわ。だから話を聞いて貴方の処罰を判断するって事よ。その結果牢に入るかもしれないし、無罪になるかもしれない。要するに貴方次第って訳。解ったかしら?」


「もう一ついいか? ハイブは今どうなっている?」


 それは俺がずっと気になっていた事だ。


「村長は、王宮で貴方が来るのを待っているわ。自由にさせて貴方と話を合わせられても嫌だからね。勿論、丁重に扱っていると言っておくわ」


 マリアの言葉に俺は胸を撫で下ろした。ハイブが無事ならそれでいい、俺の為に色々と手を回してくれた者が辛い目に合うなど考えたくは無い。


「俺が王宮へ行けばいいんだな。なら何処へでも行ってやるが、その前に教えて欲しい。もし俺が牢へ入る事になった場合、この村や村人達はどうなるんだ?」


 俺の言葉に、マリアも執事の男も少し感心した顔になった。


「特に何も無いわ。彼達は貴方に先導され戦っただけだし、村長の証拠で領主が悪政を引いていたのも王宮は認めている。だから彼等に罪は無いと王は判断されたわ」


「それを聞いて安心した。それで今から行けばいいのか?」


「ええ、準備が出来次第お願いするわ。その前にこの茶菓子について教えて貰いますけどね」


 俺は茶菓子を俺の国から持ってきた物だと説明して置いた。どこの国だと聞かれたが、誤魔化しながら何とか逃げ切る事が出来た。

 その後、俺はリンドウを呼び俺が居ない間の村運営を頼んだ。 リンドウは不安そうにしていたが、彼なら大丈夫だろう。


------------------------


 俺が少ない荷物を袋に詰め馬車に乗り込もうとした時、リアが俺の胸へ飛び込んできた。


「航太郎様ぁ~」


 リアの顔は涙で溢れている。俺はリアの頭をポンポンと叩き、リアの顔の高さまで腰を下ろした。


「リア。俺は大丈夫だ、お前を残して死んだりしない。俺もお前と離れるのは寂しいが、すぐに帰ってくる。待っていてくれ……」


「グスン……私待っていますから……ずっと待っていますから……」


 俺がリアの涙を指で拭い、リアの顔を見つめた。


「ああ、必ず帰ってくるよ」


 そして俺は馬車へと乗り込んだ。離れて行く村を見つめているとずっと小さな黒い点が見えていた。

 何だろうと思い目を凝らすと、リアが走って追いかけているのが解る。俺はリアの姿が見えなくなるまで窓から首を出し続けていた。


「あの女は航太郎の何?」


 俺がお土産で渡したアメ玉を、口の中でコロコロと転がしながら聞いてくるマリア王女に、俺は答えた。


「この世界で最も大切な人だよ」


 きっとその時の俺は誇らしい顔をしていただろう。

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