状況を知って
すいません。更新が遅れました。
それではどうぞ。
個人の望まない事柄はその者の知らぬ間に起きていることが多い。それが嫌な予感だと尚更。
今、この戦場にいる彼もまた、その者たちと同じくその事に気付くことはない。気付くことが出来ないほど、一つのことに集中しているのだ。悪く言えば、その事にしか目が行っていない。視野が狭くなっている。それを指摘する者は居ない。分かっていても、言いにくい。階級が地位の高さ、偉さを示すものであるこの世界は意見を述べることも勇気がいることである。それこそ、一介の兵士が四天王と言われる最上級の将軍職に就いている存在に意見を述べるのはより難しい。
「森の進軍はやはり面倒だな。」
グレン率いる兵団は今、正に森の中を進軍している。兵団は一つに纏まった形で進むことが出来ている。その進軍速度は速くもなく遅くもない至って、平均的な早さで動いている。
帝国軍はそれほど早い進軍はしないのだ。それに馬も特に早いわけでもないため、速度を上げることが出来ないというのも背景にはあるが。
それに今回の作戦では迅速な行動を取るという手段を選んでいないため、速度を気にする必要はない。逆にバレないように速度を落としている。ブライスが敵を引き付けているお陰で敵の攻撃はなく、今のところ被害はない。
「伝令ーー!グレン将軍は居られますか?」
一人の兵士の声だった。彼を見ると、防具はボロボロで傷だらけの状態になっている。それに良く見ると、今回の作戦に同行した兵士ではないことは一目瞭然だった。体が鍛えられていない。それを理解した時点で彼には予想がついていた。何処から来たのかは。でも、彼がどのような知らせを持ってきたかは分からなかった。
「俺なら此処にいる。どうした、砦からの兵であろう?」
「はい、その通りです。」
「それで君は何の報告に来たのかな?」
「報告します。先程、皇国との国境にある砦が皇国騎士団と思われる者たちの襲撃を受けました。」
「な、なんだと…」
グレンは言葉が出なかった。そして、慌てて後ろを振り返る。後方には砦がある。だからこそ、彼は後ろを向いたのだ。
後ろを振り向くと黒い煙が立ち上っていた。それを見た瞬間、一瞬で理解した。"砦から火の手が上がっているのだと"そして砦は落ちたと彼は断定付ける。だが納得がいかなかった。
グレンたちは皇国騎士団など見ていない。近くに居た気配も、通り過ぎた気配も感じなかった。それなのにどのような策を用いて砦まで行ったのか。全く検討もつかない。
それが掘り起こした通路を通ったとはグレンでも分からないだろう。分かる奴なんて居ない。普通に考えて出てくる策ではないからだ。それが軍師騎士と言われるアルクスの強味だったりするが。
そんなことは置いといて、グレンはもう一つの疑問にぶつかる。どうやって砦を攻略したのかだ。
砦の兵は少ない。だが、それをあっという間に攻略できるかと自分に問い掛けても帰ってくる答えは"出来ない"という言葉のみ。それをやってのける軍師騎士に恐怖すら感じてくる。
グレンは全ての思考を捨てて、最後は頷いた。
「分かった。報告に感謝する。」
「増援はして頂けるのでしょうか?」
「もう砦は落ちた。君は帝国領に帰ると言い。」
「分かりました。それでは失礼します。」
兵士が去っていくとグレンは空を見上げて、天に仰いだ。
"何故、彼の者はあれほどまでに優れているのか"と。
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アルクスとボルドは砦から上がる煙を見つめていた。黒い煙が空へと上がる。それをまじまじと見ている。
「砦は落ちたか。」
「ああ。でも、それは策が当たったからだ。この戦は早く終わらせないといかんしな。」
「そうだな。こんな無用な争いをしている場合ではない。」
皇国連合騎士団本陣にアルクスとボルドは居た。戦場が良く見るには最適な場所にその本陣はある。ジュナンの戦いも此処から見守っている。本陣を配置する場所に此処を選んだのには先程の理由とは違う意味があった。此処はどの戦場とも距離が同じくらい離れている。逆に言えば、何処にも増援を送ることが出来るのだ。この利点もこの場所には存在する。
会話に一度区切りをつけたつもりでいたがボルドが問い掛けてくる。
「で、どうするんだ?」
「どうするって、作戦通りだ。今更、作戦を変更することは出来ないしな。」
「違う。砦は落ちたが、ジュナンは戦闘中。イノアは森に進軍している。作戦は順調だが、ここまで上手く行くと逆に疑いたくなるだけだ。」
ボルドはこう言いたいのだろう。
"これは全て敵の思惑通りに進んでいるだけじゃないのかと"
だが、アルクスは逆に尋ねた。
「お前は俺を信用していないのか?」
「いや、そういう訳じゃない。だが、ここまで事がすんなり運ぶと気になるだけだ。」
「考えてみろ。砦を簡単に落とす男が戦況を全て予想把握して、その上で砦を棄てる決断をしたのなら、俺に相手出来る代物でないな。だが、今回はブライスとグレンだ。ブライスは戦闘狂で知られている。グレンは頭は良いが、戦略を立てる程の技量はない。彼らの知恵は死んだ。だから、ここまで上手くいく。分かった?」
「分かってる。坊っちゃんには期待しとる。」
ボルドは納得したのか、何も言わなくなる。それもそうだ。此処は戦争を行っている戦域だ。そこで無駄口を叩いている暇はない。そんな気が楽になる場所ではないのだ。戦場というのは。戦いを見ているだけで虚しくなってくる。
「イノアの方の対策はしてあるのか?」
ボルドは黙っていたが、また尋ねてきた。今度はイノアの話かとアルクスは溜め息を吐く。
「勿論、用意周到だ。」
「それなら良い。」
2人は戦場に目線を向けた。無駄な争いが今も続いている。それを止めることは出来ない。自分達が戦う側の人間であるからと2人は理解している。その方法を探すよりは戦争を早く終わらせることを先にした方が早く終わる。
2人は戦場を見守り続ける。この虚しい気持ちを抱きながら。
アルクスはボルドに一言言ってから本陣から少し離れた場所に向かった。そこには黒服一人の男が立っていた。アルクスはその男に気軽に話し掛ける。
「準備はどうだ?」
「はい、全て順調に事は運ばれています。」
「それなら後を頼んだぞと伝えてくれ。」
「分かりました。」
男は一瞬で姿を消した。アルクスは空を見上げて思う。
"この世界は無意味なことしかしない。それが正しいかのように動く。この世界が不条理だ。全くめんどくさい"
彼は唯、溜め息を吐くことしか出来なかった。
如何でしたでしょうか?
それではまた。




