砦攻略
更新遅れてすいません。
それではどうぞ。
ザリア帝国の前線にある城。いや、砦と言ってもいいそれは食糧庫としての役割と重傷した物たちを休ませる一時的な待機場でしかない。堅固な造りをしている訳でも、城塞と呼ばれるような造りをしている訳でもない。城全体の殆んどが木材で造られている。だから、火に弱い。そこが弱点となる。元々、攻め込まれることを想定していない為、造りは簡単だ。攻め込まれれば、瞬く間に占領されるのは目に見えている。それを分かっていながら、アルクスという一人の英雄は城攻めで真正面から攻撃する選択をしなかった。籠城戦で有利なんて言葉はない。特に弓を扱うものが多いザリア帝国側は間違いなく弓を使ってくる。そうすれば、大きな被害が出るのは殆んどの確率で此方なのだ。出来る限り、被害を減らす。それを可能にする為に五年の年月を掛けて、穴を堀続けたのだ。奇襲という戦法を使い、城内で兵を挟み撃ちにする。それが最も安全な戦略だと考えた。アルクスが自分自身に似ていると思う副官の一人 ジンに指揮を任せて。
ジンたちは掘られた穴を進んでいた。穴の内部を木材で覆い、土が落ちてくるのを防いだ。だから、進軍するのに問題はなかった。アルクスがジンに言った通りの予測時間で城の内部に潜入することが出来た。何もかもがお見通しなのかとジンは苦笑する。ジンは長い期間隣で見てきたが、アルクスに勝てると思ったことは一度もない。勝とうとはしている。だけど、勝てない。極め細かく戦況がどう動くかを考え、その時々に応じた戦略を展開する。そんなことは自分には出来ない。そこまで頭が回らない。だからこそ、あの英雄と言われる人は英雄で要られるのかもしれない。
そんなことを考えながら、騎士たちの配置を行う。ジンに着いて来た騎士たちは二組に分かれた。一組はこの砦に火を放つことを主に行う。もう一組は砦内に斬り込んでいく。すると、騎士の一人が寄ってくる。
「配備完了しました。」
「そうですか。じゃあ、行きますよ!行けぇー」
ジンの掛け声と共に騎士たちは砦に侵入していく。それも凄い早さで行動は行われていている。砦の兵は敵兵が入ってきたことによって大混乱に陥っている。元々が戦力として、計算されていない者たちが砦にいるのだ。ジン率いる騎士団に敵う訳がない。応戦してくる者たちを騎士団の騎士たちは次々と斬り倒していく。正に圧倒的な実力の差による怒濤の攻撃。
そして、砦の門が開かれる。砦内は火の渦に包まれ、騎士団の圧倒的な勢力に成す統べなく、降伏していく。
その頃、ジンは一人内部に入り込んでいた。床には死体が沢山倒れ込んでいる。全員が帝国の兵士である。此処に皇国の騎士団が来ていないことを見ると、味方に殺られたのは推測できた。目の前にあるのは一つの部屋だ。だが、唯の部屋ではない。砦の司令官が使う部屋だ。それにしては分かりにくい所にあるが。ジンが部屋を開けるとそこには死体があった。すぐにこの砦の司令官であることは分かった。だから解せなかった。これを殺ったのは、帝国の人間であることは分かった。殺し方が帝国流であったことが一番の決め手である。仲間を簡単に殺すことが出来る帝国の人間に理解が出来なかった。彼は死体に頭を下げると、騎士団の元に戻り砦から撤収した。
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ジンたち、騎士団が砦攻略を開始する少し前。
砦の司令官であるディールは砦に運ばれてくる兵士の手当てをしていた。まだ戦闘は開始されてないが、森を抜けるところで帝国の部隊から怪我人が少々出たらしい。その者たちの手当てを彼の部下がしている。軽傷であるが、数日は動かない方が良い。動くと傷に障る。食糧も1ヶ月は戦える量を蓄えてある。更に、帝国からも食料が次々と運ばれている。心配はない。自分達はこの砦で食糧と怪我人のことを考えていれば良いのだ。
だが、帝国からの使者が現れた。黒い服を着た男。そいつは帝国からの文書を読み上げていく。
「ディール司令官。今回もご苦労である。司令官としての仕事を確りやって貰えて嬉しく思う。何時も何時も、苦労を掛けている。だから、家族からの伝言を預かった。早く帰ってきてねとのことだ。だから、ディール司令官。君には家族に会って貰おうと思う。では。」
ディールは沈黙する。何も言えないといった表情をしていた。それは分からなくもないことだ。こんな戦時中に家族に会うために砦から去ることは出来ない。そう彼は思った。
「有り難い申し出ですが、その話は断らして頂きます。」
「そうか。でも、これは命令でね。君には帰って貰うよ。」
その言葉と共に剣を抜いた。
「な、何を…」
「君の変える場所は帝国ではない。地獄だ。家族も待っているだろう。」
「な…何を言って…」
ディールの心臓に剣が貫いた。彼は死んだ。帝国の裏切りに合い、暗殺された。
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勇者たちにとって人を殺すのには凄い抵抗があった。自分達が生きていた世界では人を殺すことは普通の人間であれば、行うことがない行為であるから。それに人を殺すことがどう言うことなのかを知り得ていなかったのもまた、事実だった。だから甘く見ていた。人を殺すことについて。
戦場とは常に死と隣り合わせで戦わなくてはならない場所だ。だから、凄く神経を使う。精神的に疲れてくる。体が動こうが、精神面が参っていたら、それは話にならない。死ぬ可能性が更に上がる。それが戦場なのだ。敵兵を一人殺したことで怯えてて良い時間なんてないのだ。その時間が命取りになる。
―余計なことを考えている余裕があるのなら、自分が生き延びることを考えろ―
剣の扱い方を教えてくれたポルトが模擬戦の時に何時も言っていた言葉だ。最初、それを聞いたときは良く意味が分からなかった。だけど、戦場にいる今だから何となく分かる。ポルトが言った言葉の意味。それが本当はどう意味を持っていたのか、勇者たちには分からない。だけど、その言葉で助けられた。
戦場は一人で孤独だ。だけど、仲間がいると安心出来る。人を殺すことは苦しい。罪悪感が頭をよぎる。でも、殺らないと自分が殺られる。どちらを選択するかだ。
雅文も、沙耶香も、実紗も人殺しの経験はない。秀もそうだ。だけど、3人は甘い考えをしていた。秀は人を殺すことにそれほど抵抗があったように見えなかったが、3人は違った。剣で斬り裂いた所から血が大量に吹き出てくる。映画だったり、ゲームとかでの光景はまるで別物だった。それが現実に起きているか否かの違いではあったが、自分達が思っていたよりもその光景は恐怖を感じさせる物だった。恐怖で脚が震え、体は硬直状態になる。自分が何をしたのか理解できず、立ち止まる。秀や他の騎士たちが守ってくれなければ、今頃3人は死んでいただろう。何も出来ない3人に秀は声を掛けることは出来ない。自分の戦っている相手に手一杯で声を掛けられない。
そして、3人が立ち竦んでいる間に砦攻略は終わったのである。
如何でしたでしょうか?
それではまた。