第三話『私だって夢見たっていいじゃない!?』(コメディーパート)
第三話『私だって夢見たっていいじゃない!?』
「私だって憧れるシチュエーションくらいあるわよ!!」
そう言い王室へと入ってきたのは姫だった。
俺様の登場方法を丸パクリしやがって!
姫は魔王しか王室に居ない事を確認し、ソファーへと腰掛け目の前に居る魔王を改めて見つめた。
「それで、何がどうした? お前がそんな事をいいながら入ってくるとは珍しい」
自分で用意してお茶を啜りながら魔王は言う。
姫は自分の分はないのかとテーブルへ見渡すが、魔王も自分の分しか用意していない。
「私の分のお茶は?」
「無い。中ボスに連絡するか?」
「そこまでじゃないわ」
「それで、まだ俺様の質問には答えて貰ってないが?」
ああその事? と姫は改めて魔王の方を見て、今日思った事を口にした。
「私が日課の乙女ゲーをしていたら」
「“日課”と呼べるまでの頻度で依存しているのか……」
「茶化さないでよ、続けるわよ。ゴホン――私の人生にはこう……胸がきゅんきゅんするような事が起きるべきよ!」
「俺様はお前に睨まれる度に、心臓がきゅんきゅんと悲鳴を上げるぞ……」
「私はね、例えばこういうシチュエーションに憧れるわけよ――『委員会とかの仕事で遅くまで学校に残り、帰ろうとして昇降口へ行くと、外は土砂降りの雨。傘を忘れて困っている私に彼は――』」
「『これ俺の傘なんっスよ(ドヤァ)』って去っていく訳だな」
「ド外道じゃないソイツ!!!??? 違うわよ『そっと私に傘を差しだすと、これ使えよ――といい自分は雨の中を走って行くの』」
「『そして傘を開こうと開閉ボタンを押すと、OO7みたいに傘に模した銃がぶっ放される』と?」
「どうしてアンタは、私の理想のシチュエーションを壊そうとするのよ!」
席を立ち、魔王に怒りを散らす姫。それとは対照的に魔王は足をバタバタと動かし、腹を抱えるように笑っていた。
「がははは、良いぞもっと語るがいい!」
「アンタ次、茶化したら殺すわよ。『愛しの彼の為に作った手作りクッキー、だけど失敗してしまったこのクッキーを彼に渡すかどうかを迷っていると、そんな不自然な私に気がついた彼は、私の手にある綺麗にラッピングされたクッキーを乱暴に取り上げて言うの――』」
「『クッキーか~、俺今ダイエット中なんだよ。だから今は食べられないわ。というかこんな黒焦げのクッキーだったら元より無理だわ~ははははは』」
「それ先月。妹ちゃんが作ったクッキーを断ったアンタのセリフじゃない!!」
あっなんかいい覚えのある言葉だと思ったが、なるほど先月のあれか……。
「というか、アンタ。茶化したら殺すって私、言ったわよね? はぁ~……まあいいわ。アンタも憧れのシチュエーションの一つや二つないの?」
「うーんそうだなぁ。現代から剣と魔法のへと飛ばされ、人間の使い魔として使役され、ピンク色の美少女やそれ以外にも様々な美少女に囲まれて生きるとかは憧れるな」
「何処から持ってきた設定かは知らないけど、私の髪をピンク色にしたら大体一緒じゃない?」
「貴様、アレほどの大作に出てくるメインヒロインと自分を比べるとは何とも愚かしい! ルイズたんに謝れ!」
「はいはい、謝りますよ。それで他には無いの?」
「お前こそ他には無いのか? 聞くだけなら聞くぞ」
「アンタが真面目に聞いてくれないから喋る気も無くすんでしょうが……いいわ、私が憧れるのはね」
「おう、言うてみ」
ほうほうそれでそれで――と言いたげなポーズで姫の話しを聞く。
「沢山の荷物を抱えていると、口少なく『貸せよ』とだけ言って、少し不器用かつ強引に荷物を持ってくれる男の子とか?」
「おう! 姫! 財布重いだろ? 持ってやるよ?」
「どんなデカい財布持ってのよ……」
「だって俺様、最近小ボスに『財布』って呼ばれたぞ……」
「あははは、それは面白いわね!!」
腹を抱えて笑う姫を不機嫌そうに見つめる魔王。
しかし、姫が上げた『憧れのシチュエーション』は両者共に気がつく事は無かったが。後日、少し違った形で叶った。
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「ぜえはあ……ぜえはあ」
魔王は重い荷物を両手に抱え、廊下を歩く。
その姿を見つけた姫は後ろから駆け寄り、話し掛ける。
「重そうね魔王。一つ持ちましょうか?」
「うーん……」
甲斐甲斐しい姫の態度に、一瞬何か裏があるのか? と邪推する魔王だったが、本当に善意からの行動だと思うと、次にどっちの荷物を渡すかを考える。
素直に一つ渡せばいいのにもかかわらず魔王は何かを考えていた。
「(見た目は重そうなこのカバン。実は中身はスカスカなのであまり重くは無い。しかしもう一つは見た目は軽そうだが、書類の束が入った紙袋なのでかなり重い。さてどちらを渡したものか……)」
一、見た目は重そうなカバンを渡した場合。
「あれ? 全然軽いじゃない、こんな物で弱音吐かないでよね」
二、書類入りの紙袋を渡した場合。
「結構重いわね、これを持っていくとなると大変なはずね」
以上の結果が脳裏に思い浮かび、魔王は……。
「おっと、靴紐か……姫ちょっとこれ持っててくれ」
姫は言われたとおりに魔王から、二つの荷物を受け取り。
「よし、これで大丈夫だ。では行こうか」
両方姫に持たせる事に決めた。
「どこへ行くの?」
「中ボスの部屋だ。書類と資料を届ける予定なんだ。(お、上手くいったな)」
ちょろいちょろい――と悪戯な好きな子供のように、無邪気な笑みを浮かべる魔王。
姫も姫で、騙された事に気がつく様子はなく、黙って魔王の後ろを歩く。
中ボスの部屋の前まで行くと、魔王が扉をノックし、中から返事があるのを確認すると、両手が塞がっている姫に代わり、魔王が扉を開ける。
扉を開け、先に中へ入るように促す魔王。「ありがと」と姫にお礼を言われた時、腹が引き攣りそうになるほどの、笑いが込み上げるが、必死にそれを耐える魔王。
その様子を傍目で見ていた中ボスは、流石は魔王と過ごした歴が違うのか、大体の状況を掴み、脳裏に浮かんだ言葉は「外道」の二文字。
目を瞑り、頭を横に振りながら、やれやれと思う一方で、荷物を何処におけばいいか姫に訊かれ、中ボスは机の上に置いて貰うように指示を出す。
姫はそれに従い、行動に移し、机の上に荷物を置いた所で、ようやく自分が置かれていた状況に気がつく。
「……ちょっと待って。何で私が全部持ってるのよ!!」
「くそっ、バレたか!?!」
この後、魔王がどうなったかは言うまでも無い。
しかし、魔王は懲りなかった。次の日も――
「姫、これ持つ手伝ってくれ」
木製の人間大ほどのクローゼットを指を指し、魔王は言った。
魔王の部屋に呼ばれ、また荷物運びである事に気がつき、昨日の今日でまた騙すつもりかと、魔王を睨む姫。
「全部持たせたら殺すわよ?」
「ああ分かってる。俺様は後ろから支える。姫は前を頼む」
やはり面倒見がいいのか、姫は仕方ないと、腰を屈め、後ろ手で荷物を抱え、魔王も後ろから支える。
「しょうがないわね」
力強く持ち上がる“クローゼット”
一人ではやはり大変だと判断し、姫を呼んで正解だったと、魔王は思う。そしてその一方で、魔王の仲の悪戯心がまたしても騒ぎ出した。
「…………(これ、こっそり手を放してもバレないんじゃ? ――ほらバレて無い!!!)」
まさか、クローゼットを後ろ手に持ち、ほぼ指の力だけで支えるとは。
化け物だな~と姫が後ろを振り向かない事を良い事に、両手で口を押え笑う魔王。
だが流石に持ち方の都合上。階段を上がろうとして、クローゼットが手から零れ落ちると、姫もようやく騙された事に気がつく。
「ガッデム!」
「昨日と言いい、今日といい。最近物を運んでばかりね。今だって――……魔王、アンタ死に覚悟できてるわよね?」
「ナンノコトデショウカ」
昨日に続き、今日も魔王の断末魔が魔王城に木霊した。
姫だって乙女です!
好きなシチュエーションくらいはあります(笑)