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第八話『合流』後半(ストーリーパート)




「……魔王様、この村より東に五キロ、小ボス殿はそこにある谷へと向かったようです」

「そうか、リーリ道案内を頼む」

「はい」


  

 体格の小さなリーリに後ろから抱きかかえられるように、空を飛ぶ魔王。

 

 速度は飛龍(ドラゴン)などには劣るが、それでも時速は四十キロを超えていた。


 眼下には未だ森ばかりだが、数キロ先には、土色の大地と高さの異なる、槍上の岩山が広がっていた。


 縫うようにそれを抜け、険しさを増す渓谷に入ると、リーリは動きを止める。

 魔王はその反応を見て、辺りを見渡すも、枯木や石以外はとくに何も見つける事が出来ない。


「リーリ。この辺にいるのか?」

「はい、…あの洞穴。小ボスの魔力が流れて来てる」

「分かった。降りるぞ」


 高度を少しずつ下げながら、洞窟の前まで降りる。


 荷馬車でも二台並んで通れるほどの横穴がそこには開いており、魔王とリーリは小ボスの魔力を頼りに陽の射さぬ洞窟をゆっくりとした足取りで進む。


 数分も歩くと、奥に小さな光が見え。騒がしい音も耳に入るようになる。

 近づくと共に音も光も大きくなり、そして辺りが開けると小ボスと思しき影を無数に確認できた。

 パッと見では同じような顔つきのものが三十人ばかりで、入り混じるように戦闘をしているように見えないが、狙われているのが明らかに一体である事はすぐに判断ができた。


 それが小ボスであるのは明確で、それ以外のがシゼルである事は間違いなかった。

 リーリも魔王も戦闘をしている小ボスよりも、先にこの場所の状況を見た。


 湿度が異様に高く、鍾乳洞にしては少し広すぎる空間。

 渓谷の地下水路なのだろうか、至る所に大きな水たまりがあり、薄暗くはあるが足場に気を付けなければ泥濘(ぬかるみ)や水に足を取られる。


 とてもではないが人工で作られた場所ではなく、自然の産物。

 天井は高く、十五メートルほどはある。

 広さ自体は暗すぎるのもあり正確には分からないが、それでも三十人が戦うには十分過ぎるほど。

 そしてそんな事よりも、この場所が、魔王達が求めていたような研究施設では無い事は明白。

 罠にしては大雑把で、小ボスを倒すのにも少々戦力不足にも見えた。


「小ボス。ここにはそいつらだけか!?」


 魔王が大声で訊く。

 小ボスもそこで初めて魔王の存在に気がついたのか、視線を声の方に送ると、敵をいなし。魔王の近くへと着地する。


「魔王様! はい、ここにはシゼルが四十体ほど居ただけで、他には何も……」

「主。どうやら敵は罠を張っていたようだ。聞いた話しだとアイツら戦闘した奴の情報を蓄積するんだよな? 数こそ減って判り辛いだろうが、さっきから全然アイツらを倒せてない。後手に回った戦闘ばっかりだ、悪いが助太刀頼む!」


 小ボスの肩に乗っていたネコは助力を求めると、魔王もリーリも頷き、改めて戦闘体勢に移る。


「連携で仕留めては返って手の内を晒す事になる。小ボスは今迄通りできるだけ敵を引きつけろ。リーリと俺がその間に一体ずつ間引く!」


 魔王の命令を聞き、小ボスは返事ではなく行動で答える。

 一直線に敵に突っ込むと、シゼルの視線は全て小ボスの方へと向く。


 リーリは詠唱を開始し、魔王も目を瞑り、頭の中のスイッチを切り替える。



≪レゾンデートル書き換え開始……出力制限カテゴリー4に設定……≫


 魔王が呟くように何かを口にすると、突風が辺りを包み、小さな水たまりの水面が震える。

 禍々しい魔力の嵐が周りに絶対的な存在の力を主張した。

 その気配にシゼル達は、攻撃対象を魔王へと変更するが、既にこの事態に対処すべく傍にいたリーリがそれを許すはずはなく、辺りの水分を集め作り出された高さ三メートル、厚さ二十センチほどの氷塊が彼らの道を塞ぐ。


 しかし敵はそれを容易に突破して見せるが、第2第3と同じような壁が現れ、思うように進めないでいると、背後から小ボスがシゼルに襲い掛かる。


「行かせないよッ!」


 一体のシゼルが氷の壁に叩きつけられ、ダメージに耐え切れなくなったのか、溶けるように消え。

 そんな状況になって初めて、シゼル達は挟み撃ちの状態に追い込まれている事に気がつき、仕方なく、小ボスを迎え撃つ体勢に移る。



≪レゾンデートル書き換え完了……――殲滅開始≫


 魔王が勢いよく目を見開くと、リーリは魔法を解除。

 一瞬で霧散する氷の壁。次の瞬間に魔王ははがら空きのシゼルの背中を捉える。

 ワンツーと拳をボディーに振う。単純な力による攻撃。

 だが、たったそれだけにも関わらずシゼルは簡単に倒れた。

 

「我は魔王。解放と終焉。暴力と安寧を与える者。世界と言う名の群像劇に現れた破滅の象徴。今宵貴様らの身に降り注ぐ殺戮(不条理)を否定したくば、……足掻け! 命を賭(と)して運命に抗(あらが)って見せよ!!」


 シゼル達の中心に立つ魔王。圧倒的な存在とそして言葉による主張。

 魔族、人族問わず。今の魔王を前に“抵抗”なんて考える者はごく少数だろう。

 戦いに必要な物以外の意志が無いシゼルでも、魔王の言葉に足が竦んでいた。


 囲んでいるのは自分達のはずなのに、逃げる事も抵抗する事も許されぬような絶対的な言葉による呪縛。

 

 一体のシゼルが魔王に向かって疾走する。

 魔王は背後から接敵するシゼルに視線を流す事無く、まるで闘牛士のように軽く横へと半身を逸らす。

 小柄なシゼルが振るった拳は、ちょうど魔王の脇を通り抜け、魔王はそんながら空きの手を片手で掴むと、そのまま壁に向かって投げ飛ばした。

 受け身をまともに取る事無く、シゼルは壁に激突。一瞬で絶命する。

 感情の無いシゼル達はここに来て初めて、生物の中で最も強く誰もが持っている“感情”を手に入れた。


 “恐怖”だ。

 より多くの敵と交戦し、戦闘データを蓄積する為のシゼル達が、恐怖の為に撤退に転じようとしていたのだ。


 本能的にシゼルは――勝てない。そう考えた。

 しかし彼らはやはり戦闘用であるが故に、恐怖を手に入れながらも交戦という道を選ぶ。


 一体、また一体と魔王に殺到するが、まるで虫でも相手をするように軽く魔王は打ち払って見せた。


 接近特化である小ボスと比べても、その魔王の剛力は桁違い。

 シゼルにとって今の魔王の力は、津波に対して小枝一つで抵抗しているような物。

 戦闘の癖や技能を学習する騒ぎではない。相手の技量を推し量れるほどの資格(力)すらないのだ。

 単純な拳や力による攻撃なので、回避や防御する事も出来たが、回避しようとも生き残れる時間が数秒伸びるだけ、早すぎる攻撃は次第に反応する事も叶わなくなり、すぐに直撃を貰う結果になる。

 防御なんて最悪だ。防ごうにも紙切れで隕石を防ぐようなほど無意味。既に彼らはより長く生き残り、多くの情報を手に入れる事しか考えにない。


 この時点で勝敗は決していた。彼らは狩られる側であり、もう狩る側では無いのだ。

 小ボスとリーリの参戦が更に殲滅の拍車をかけ、5分後には全てが片付いていた。



 シゼルとの一戦を終えた魔王とリーリ、そして小ボスとネコであったが、洞窟から出ようと出口の方へと身体を向け、走り出そうとするが敵の気配を感じ皆の動きが停まる。


「魔王様……この数は」

 先行していた小ボスは、敵の数を見て後ずさる。

 出口から光が差しており、目の前に居る敵数は八。

 しかし、それらの奥に控えている気配の数が問題であった。


「百……いえ、二百程度は居ますね。魔王様ここは私が」


 リーリが一歩前に出ようとするが、魔王は待て――と一言。

 小ボスに目配せをし、魔王の目を見て全てを理解した小ボスは、自分の肩に乗っているネコをリーリへと手渡す。


「お、おう――俺はどうすれば!?」

「ネコ。君はリーリと一緒に魔王城に、あとは頼むよリーリ」

「魔王様、この数のシゼルとの戦闘は無茶です!」

「飛行魔法が使えるのは今ここにはリーリしか居ない、シゼル相手なら、地上を離れれば逃げ切る事は容易だ。更に言えばこの状況を乗り切る為に小ボスの力を“解放”させる。力の解放が行われた小ボスは、無差別に近くの者を襲う。その例外は俺様だけだ、あとは分かるなリーリ?」


 魔王の言葉にリーリは頷き、それを確認した魔王は第一射を前方のシゼル達に加えた。


 天井が崩れんばかりの攻撃に合わせて、リーリは天井の低い洞窟内を飛ぶ。

 それを追わんとシゼル達は頭上を飛ぶリーリを討つべく、足に力を入れ跳躍しようとするも、魔王の第二射がその間を抜け、回避するか、直撃かの二択しかないシゼル達は、その殆どが回避を選択。

 しかし、二人のシゼルがリーリの目の前に塞ぐが、既に迎撃体勢に入って入るだけに、リーリの対応は早かった。

 リーリの背後から人間大の氷塊が二つ飛来し、二人のシゼルを吹き飛ばす。

 倒す事は出来なかったが、これで出口までの邪魔者は居なくなる。

 勢いよく洞窟を飛び出し、渓谷を上に抜ける為に高度を上げる。

 下へと視線を向けたリーリ。

 眼下には、二方向から魔王達がいる洞窟に向かって進軍してくるシゼル達で見えた。

 一方向につき、数は百ほど。

 もう少し洞窟から出るのが遅ければ、あの数が丸々出口付近へと辿り着いていただろう。

 リーリはそんな事を考えつつ、急ぎ魔王城を目指した。


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 「行ったか……。小ボス見せてやれ、今こそお前の枷(かせ)を解く。存分にその力を振うが良い!」


 魔王の言葉に、小ボスの気配が変化する。

 シゼル達の目の色が緑色である事に対し、小ボスの目の色は薄い青色であるのだが、今現在の小ボスの目の色は赤色。

 まるでそこだけ光っているかのように赤色の双眸(そうぼう)が薄暗い洞窟内で一段と存在感を主張していた。

 両手をだらりと力なく下げ、顔だけは目の前の敵であるシゼル達に向ける小ボス。

 

「小ボス、外での戦闘は不利だ。洞窟内で、敵を引きつけつつ戦え」


 魔王は静かに後ろに下がりつつ小ボスに言った。

 小ボスゆっくりと頷くと、魔王の動きに合わせて後退する。

 シゼル達も雰囲気の変化した小ボスを警戒しつつも、誘われるように魔王達につられるように移動を開始。

 しかし突如洞窟内に響いたその声で、両者の動きは止まった。



「久しぶりだなプロトシゼル」


 小ボスとシゼル達によく似た黒マントを羽織った少年が魔王達の前に現れる。

 シゼル達は声の主に合わせて道を開け、小ボスの数メートル先にまで来ると歩みを止めた。


「……ビムだな」


 既に戦闘用シゼルの頃と全力を出す為に戦闘に不要な感情などを切っている小ボスも、多少の言葉は理解できるためか、魔王の言葉に反応し、頷く。


 魔王達の前に現れたのは、シゼル達の親玉であり、最も倒すべき相手である“女王個体(ビム)”

 シゼル達の戦闘データを集積、管理する為に、戦闘能力は皆無であるので前線に現れるはずもないにも関わらず、彼は無謀にも魔王達に姿を晒す。


 チャンスであるはずの魔王。しかし魔王は嫌な予感がしてならなかった。

 だが、そんな魔王の考えを知ってか知らずが、ビムは小さく笑うと「もう遅いよ」と一言。


 魔王はその瞬間、全てを悟り動くが。


「小ボス……おいで」


 ビムの目が赤く光ると、小ボスはビムの言葉に従うように動きだす。

 敵であるビムの横まで来ると、ビムは再び口を開いた。


「魔王。君は小ボスが僕とは異なる系統の『シゼル計画』で生み出された物だと考えていたようだが、実は違う。僕と元は異なる計画で生み出された実験体。僕が生まれた理由は魔王、君の知っての通りで間違っては居ない。しかし小ボス、このプロトシゼルだけは違う」


「どういうことだ?」

「ふふ、プロトシゼルである小ボスは、単体で情報を収集し、成長する事が出来る。僕たちの原型であり母のような存在なのさ。しかし当然単体でできる事は限られる上に、もしやられてしまえばそれだけで終わりだからね、だからプロトシゼルに代わり、僕が生まれ、シゼル達が生まれたのさ」


「それは知っている。しかし貴様がシゼルだけではなく、小ボスすらも管理下における理由は何だ?」

「元々僕……ビムはプロトシゼルともリンクできるようになっているのだよ。だからプロトシゼルが管理下に置かれた今。シゼルの戦闘力は飛躍的に向上している」

「だが貴様がここで俺様に討たれれば、それも関係あるまい」

「はは、君は頭が切れると思って警戒していたけど、案外そうでもないようだね」


 馬鹿にするように魔王を見下すビム。

 舐めたような態度で、魔王の近くまでビムは歩み寄る、あろう事か魔王の手の届く場所まで。


 そこまで接近しているにも関わらず、ビムも魔王も攻撃には転じず。

 いや魔王は既に攻撃体勢に入っていたのだが、“出来なかった”のだ。


「クッ――最悪だなこれは……」


 言う事を聞かない身体を必死に動かそうともがくが、身体は一向に動かず、動くのは首から上だけ。

 それを分かっているビムは魔王の額に人差し指を当てる。


「魔王、君は小ボスは“血肉の契約”をしているそうだね。なら小ボスが僕の管理下に置かれたって事は君に対して精神干渉も容易。……リンク開始」


 その声を最後に魔王の精神は、ゆっくりと暗闇へと落ちていった。


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