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第三話『増援』(ストーリーパート)

第三話『増援』




「どうですか魔王様?」


 中ボスは、各地から集められた資料に、目を通している魔王に向かって話し掛けた。

 しかしその表情は芳しくなく、言葉で返さなくとも十分に理解できる物だった。


 現在、魔王と中ボスは多くの資料や報告書類がある中ボスの部屋へと来ている。


 そして、魔界や人間界に間諜として送り込まれた者達から集まってきた書類に掛かれていた内容はどれも求めていた物に沿っているのだが、肝心な事が分からなかった。


神の器(シゼラ)計画が極秘裏に続けられていたのは分かりましたが、問題はその施設です。この資料を見る限り“魔界”にはありませんね」

「魔界で作り、人間界に活動拠点を置いている可能性を考えていたが、どちらも人族側にあると見ていいだろう」


 二人ともその事が一番気にくわないとばかりに、それを仮説を否定しうる資料を探すが、やはり無い。


「魔族だけではなく、どうやら人族の関与も何らかの形であるな。しかしあちらの敷地で大規模調査なぞできるはずもない……こりゃまずいな……」

「このシゼラ計画に加担している者が魔族と人族。どの程度の立場まで腐食しているかは不明ですが、どちら側の元老院にも“居る”でしょうね」

「内部に入られてるとなると、親父や元・魔王のおっちゃんは間違いなく動かせないな。となると独立した指揮系統を持っている魔王城だけが、あちらの指示を無視できるな」

「人間界に出張っている場所ですからね元老院からの指示が“届かない”なんて事もあり得ますからね」


 魔王は、そうだ――と満足そうに口にし、魔王が席を立つと、中ボスもその動きに合わせ席を立った。


「闇雲に探すとしても、兵が足りぬ。近隣の村にも対シゼラ用の護衛を回したい、魔王城の部下を全員即座に城へと集結させろ。それと、人族の国王にも対シゼラ用の兵を、近隣の村々に置く事を黙認するように言え!」

「既に三千ほどの兵士が魔王城に向かっています、早い者ですと半日もすれば到着するはずです、三日後には一万の兵が魔王城に集まるはずです。それと国王の事ですが、正直、言うのは簡単ですが、そのあとシゼラの被害がその村で起きたら、責任は全てこちらに掛かってきますよ? それに人間界に軍隊を置く事を黙認してくれるとはとても……」


「いや、あちらに居る主戦派の連中は間違いなくこう言うだろう『これでもしその村に人族の被害者が出れば、それは間違いなく魔族の仕業。これを理由に魔界へと攻める口実に』と」

「……間違いなくある話しですね。分かりました、今の国王は話しの分かる方だと元・魔王様には聞いています、上手くいけばそちらとの連携も可能でしょう」


 そしてもう一度席に着くと、中ボスは即座に国王に向けた手紙を用意し、いつものように魔王の筆跡をまねて書く。



「相変わらず、器用だな」

「魔王様がいつも私にばかり面倒を押し付けるからですよ――ん? 早いですね、もう到着した者がいるようです」



 中ボスはまるで耳を澄ませるように目を閉じ、魔王城へと辿り着いた者を確認した。


「俺様が行こう、遠路遥々駆けつけてくれたんだ。労いの言葉一つで苦労が吹き飛ぶ訳では無いが、それでも喜んではくれるだろう」


 魔王は凛とした顔で部屋を後にすると、魔王城のロビーへと歩き、五人の兵を出迎えた。

 主自ら出迎えた事に、驚く五人。その驚きようと言ったら、まるで信仰する神にでもあったかのような驚きようで、嬉し過ぎで感涙する者や、あまりの出来事に放心状態の者もいた。


「よく来たな、おっ、マモットにヴァナ。それにアド。おお~リーリにラゼも居たか! お前達、来てくれたのか!?」


 魔王はその五人の顔に見覚えがあった。

 そのものは皆、魔王と直接の誓いを立てているほどの魔族であり。数少ない魔王直属の部下であった。

 栗色をした短髪の長身美女は、派手な装飾が施された甲冑に身を包んでおり、一歩後ろへと下がると片膝を付き、飾りっ気の無い無骨な両刃の大剣を横へと置くと、頭を垂れ、緊張で震えているのか、少しドモりながら声を上げた。


「あわっ……あわわ、御身自らのお出迎え……うっ感謝致します。ほ、ほら皆もしっかり挨拶……挨拶をして!」


 ヴァナと魔王が呼んだ女性に合わせるように、皆もヴァナと同じように挨拶をした。


 集まった五人の格好はまちまちで、ヴァナやマモット、そしてアドが重厚な甲冑。

 特にヴァナは金色の刺繍なども入っているのでより目立っているが、皆ほぼ同型であり、剣士型の魔族が着る標準的な防具であった。

 それとは対照的にラゼとリーリはフード付きの布製のローブ姿。

 ラゼが枯草色、そしてリーリは真っ白なローブで身を包み、二人とも木の杖を持っていた。

 リーリは腰まである銀髪がローブ内に入れるのは気にくわないのか、フードの後頭部に当たる布地を切り取られているようなデザインの物を着ていた、そこから髪の毛が外部に出ては居たが、それ以外は基本的に同じ。


「そんなに畏まらなくてもいい、お前らは俺様直下の同士、仲間と言えるのだ。ほら顔を上げ、立ち上がってくれ」

 魔王の言葉に皆は立ち上がると、各々の武器を両手で持ち、顔前に立てるように構える。


「我ら魔王親衛隊、魔王様の為、命すら投げ捨てる覚悟です。どうか手足として。武器として、そして盾として我らの命をお使い下さい」

 一際大柄な男であるマモットが口にする。

 口数の少ない男だが、このような場所では率先して話す癖が今になって出て来た。



「俺様はお前らに死んでほしくは無い。それはこれから来る兵たちも同じだ……たが、場合によっては死ぬことが分かっていて、それを命令するかも知れない。故にそうならないように俺様も努力する。そして諸君らにはそうならないように協力してほしい」


 魔王は頭を下げ、頼んだ。

 その様子にオロオロするだけで、誰もが話し掛けるなんてできるはずもなく、顔を上げて下さい――と言ったのは魔王の後ろから現れた中ボスだった。


「中ボス殿!!」

 魔王の隣へと立った、中ボスに細身の男性が近寄る。


「ラゼですか、元気にしていましたか? あれから随分と立ちましたが、魔法の訓練は欠かさずやっていますか?」と中ボス。


「はい、中ボス殿から教わった、魔法の数々、今では“詠み”無しにでも即座に発動できるようになりました。それ以外にも沢山覚えました」

 ラゼと呼ばれた男性は、中ボスから差し出された手を握り、両手で握手をしながら言った。


「ラゼは中ボス様に稽古を付けて貰ったし、マモットとリーリは魔王様に稽古を付けて貰ってるし、本当にうらやましいわ~」


「ヴァナは小ボスに格闘訓練を習ったのですよね? 何か不満が?」と中ボスが言うと、ヴァナも手をブンブンと振り。

「不満は無いですよ、教え方が『背中で語る』と言わんばかりに実戦方式でしか教えて貰えなかったですけど、それでも私には小ボスが一番合っていましたし、ですがね~……」


 明らかに不満な態度であったが、その理由を理解している四人。

 そして魔王に稽古を付けて貰ったリーリは無表情ながらに口を開く。


「ヴァナは呑み込みが悪い……魔王様との訓練は私やマモットが適任」

「何よ! 私じゃ魔王様に教わる資格が無いって言いたいの!!?」

「そういう訳じゃない……ただ魔王様に教わるなら、努力家より、非凡の天才。貴方には格闘訓練の方があってる」

「自分の天才だなんて! ハッ笑わせないでよ!」


 姦しい二人をよそに、マモットとラゼ。そしてアドは魔王と中ボスに対して話しを続けていた。


「アドにはすまない事をしたな、俺様が鍛えてやるって大見得を切ったにも関わらず、結局手が回らず、親父に投げる形になってしまって」

「構いませんよ、確かに魔王様にご指導を賜れるのであれば、私としてもうれしい限りでしたが、それに元祖・魔王様には魔王様に負けぬくらいと、マンツーマンでみっちり指導していただけましたし、結果的にそれが親衛隊に入れるだけの実力を付けるに至った訳で」


「そうですね、あの時私とリーリ以外にも、あと四人も居ましたものね、いくら希望者が多いからと言っても、魔王様自ら稽古を付けられる人数にも限度はありますし、……ですがあの日々は本当に楽しい毎日でした……」とマモットが口にする。


 基本的に魔王の親衛隊は、魔王に対して忠誠を誓い、それは信仰に近い。

 愛や友情などとは全く異なる次元で、彼らは魔王に対して高い忠誠心を持っているのだ。

 そして神にも似た憧れの人から、直接指導してもらえると言うのは、国中で羨ましがれ、それこそその日々を(つづ)った本を出したら、大ヒット間違いなしになるほど光栄な事。


 魔王、中ボス、小ボス。いずれかの人物に直接指導してもらえる権利を得た親衛隊選抜メンバーも、魔王の枠が一番多かっただけに、それに落ちた時の絶望具合と言ったら、それはもうひどい落ち込みようであった。


「よし、思い出話は今宵の夕食の時にでも、十人以下であればいつもの食堂で席も足りるしな。まだ時間があるので、各々中ボスの指示に従ってくれ。俺様は少し部屋に籠る」

 魔王はそういい、五人にまたあとで――と言い、再び中ボスの部屋へと向かう。


 魔王の姿が見えなくなると、中ボスは手際よく仕事を割り振った。


「マモットとアドは野営の為の準備をして下さい、とてもではありませんが城の部屋数では数万の兵士は入れませんからね、城内の空き地に簡易テントを置きますから、運びだしがいつでもできるようにココに運びます。テントの場所は分かりますね? ではお願いします」


 二人ははっきりとした声で返事をすると、駆け足でその場を後にした。


「リーリとヴァナは……なんですか、そのやる気のなさそうな顔は?」


 女性だけを指名しているので、掃除や炊事洗濯などを頼まれると思ったのか、相変わらずの無表情なリーリはともかく、ヴァナは凄まじく嫌そうな顔を浮かべた。

 実際、中ボスも一人では手が回らなくなった城の清掃を頼もうと思ったが、リーリ一人ならいいが、不器用なヴァナがパートナーでは、仕事が増えそうなので、内容を変更する事に決めた中ボス。


「……分かりました、では二人は洗濯物を取り込んできてください。シーツは食堂のテーブルにでも置いといてください。服はいつも畳んで、各自の部屋に運んでいますが、二人はこの城の内部を殆ど把握してないでしょうから、これも食堂でいいです。分かりましたか?」

「ま、魔王様の服もあるのですか!?」

 ヴァナは興奮気味でそう言うと、リーリもほんの少し期待しているような目で中ボスに詰め寄った。


「……はい、下着から何まで全部ありますよ、くれぐれも“悪戯”しないように……」

 中ボスは目頭を指で摘まみ、ため息を吐きながら二人に言う。

 二人もそれを聞いて全力疾走で物干し場まで走って行った。



「はぁ~……ではラゼ。貴方は私と共に魔王様の元まで行きますよ」

「私も行っていいのですか?」

「貴方は頭が良いですから、この事件について私達と共に考えて貰います」


 なるほど――と納得したように頷き、ラゼは中ボスの後へ続いた。



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「ねえ見てリーリ、あれは桃源郷かしら?」とヴァナ。

 リーリも「天国……」と両ひざを地面に付け、神に祈りをささげるように手を合わせる。


 突き刺すような太陽に照らされた洗濯物を見て、ヴァナは感涙し、リーリも心なしか嬉しそうな顔を浮かべる。


「……嬉し過ぎてうれションしそう」

「……“悪戯”、どの程度まで許容範囲か、それが問題……」


 魔王の物と思しき派手な柄と色のボクサーパンツを見つけ、二人は真剣な表情で悩んでいた。

 魔王がボクサー派と言うのは彼ら魔王ファンクラブメンバーとして常識だった。

 なのでトランクスやブリーフなどの他の男物の下着の中にボクサーパンツがあれば自ずと魔王の所有物であると確証が持てていた。


「食べるとかは流石に駄目よね?」とヴァナ。

「……舐めてみる」


 リーリが魔王のパンツに顔を寄せ、形のいい唇からてらてらと唾液で光る舌が、パンツに向かって伸びるが、それをヴァナは慌てて止める。


「駄目駄目、舐めたら濡れちゃうし。洗い直しなんて事になったら流石に怒られるわよ!」


「匂いを嗅ぐくらいなら?」そう言うと、リーリはパンツに鼻を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぎ始めた。

「……駄目。洗剤の匂いしかしない。……三日間くらい履いたのが欲しい」


 そんな言葉にヴァナは引くどころが、むしろ頷くだけだった。


「一枚だけ拝借して、あとで返せばいんじゃない?」

「ヴァナ……アナタ何に使うつもり?」

「それゃ……ねえ?」


 分かってるでしょ? と言わんばかりにリーリの方を見たヴァナ。

 

「…………」

「中ボス様に賄賂でも渡せば一枚くらいなら貰えるんじゃ?」

「アナタも私も、そして中ボス様も魔王様に忠誠を誓ってるの。賄賂なんかで動くはずない……」

「でもどうしても私欲しいわ!! あっそうだ」


 ヴァナはリーリが真剣にパンツを見つめている事を良い事に、自分の鼻を摘まむと、声色を変え話し始める。


「オッス! おらパンツ! おらリーリに新しいご主人様になってもらいてぇーぞ!」

「え!? ……――分かった」


 一瞬驚いたような顔をし、そして洗濯バサミを外し、魔王のパンツをその手に持つリーリ。

 普段のリーリであれば、その声の主がヴァナである事にすぐさま気がつきそうなものだが、自分にとって都合のいい言葉とは、すんなりと受け入れやすいのか、パンツが喋ると言う摩訶不思議な事象もすぐに受け入れた。


「そうそう、リーリ。おらをリーリの頭に被せるんだ。そうすれば契約完了だ!」


 手に持ったパンツに向かってリーリは静かに頷くと、フードを後ろへと流し、銀髪を露出させ、パンツを頭へと浅く被った。

 似合う? と言いたげにヴァナの方を振り向くリーリ。

 無表情なリーリではあるが、心なしか誇らしげな顔をしていた。

 

「うん似合う似合う。なんかこう……貫禄が出て来た感じよ!」

「よかった」

「それより、私にもそのパンツもっとよく見せてくれない」

「嫌。このパンツはもう私の所有物」


 本気でパンツと契約したと思っているのか、リーリは頭にかぶっているパンツを守るように頭を両手で押さえた。

 ヴァナも、独占されると思っていなかったのか、必死にパンツへと手を伸ばすが、リーリが逃げるように駆けると、ヴァナもそれを追いかけた。


「こらリーリ! それは本来魔王様のよ!」

「パンツが私を選んだ……これはもう私の物」

「そんなはずないでしょ! 魔王様に返しなさい!」


 魔王も、自分のパンツで変態トークが繰り広げら。更にはパンツを取り合う鬼ごっこが開始されているとは、想像もしていないだろう。




 だが、そんな様子を窓の内から見ていた簡易テント運搬組のマモットはため息を吐きながら、再び廊下を歩きだした。


 簡易テントをロビーへと置き、もう一度資材置き場の倉庫へと入ったマモット。

 アドは手元にある書類に目を通しながら、テントに不備が無いかチェックを行い、それをマモットへと渡すが、それを受け取ってマモットの顔は、先ほどまでとは明らかに異なる表情になっていて、それに気がついたアドはマモットに話し掛ける。


「どうした、マモット。浮かない顔だな」

「俺たちが必死にテントと格闘している間に、ヴァナとリーリはパンツと会話してやがった。何を言ってるのか分からねーと思うが、俺も何でそうなったか分からない」

「??」


 意味が分からないと言わんばかりに首を傾げるアドではあったが、マモットだって意味が分からないのだ、なのでマモットはアドから受け取ってテントを持って、再びロビーへと向かった。


 城の中にある資材置き場から、廊下を通り、再び物干し場へと視線を向けるマモット。


「アイツら何やってるんだ?」


 マモットの目に映ったのは、先ほどと同じでリーリがパンツを頭に被り、ヴァナと追いかけっこをしている姿。

 少し違うところと言えば、リーリの片手には更にもう一枚パンツが握られていた事くらい。

 どうして増えたのかはしないが、その経緯を考えるだけ無駄だろうと判断し。

 呆れてものも言えなくなったのか、マモットは無言でその場を後にする。

 

 彼女達が一体誰のパンツで遊んでいるかは容易に想像がついたが、忠誠を誓う相手が異性と言うだけで、こうも行動が違ってくるのかと、そんな事を考えながら、マモットは作業へと戻った。

本当はもっと昔から出したかった新キャラ達。しかしながら小ボスや中ボスのような名称が思い浮かばなかっただけにずっと保留していたが、ここに来てようやく参戦。

リーリは昔の設定では魔王の許嫁として出す予定でしたが、話しが落ち着いて書き直す時には、最初から出したいと考えています。

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