第2話〜最終話
いつもお読みいただきありがとうございます。
日常のすぐ隣にある狂気と、静かに侵食されていく意識——。
静まり返った改札口で目を覚ました主人公を待ち受けていたのは、安堵ではなく絶望的な「違和感」でした。
乗っ取られた身体と、届かない叫び。
幕切れの静寂の中に潜む恐怖を、どうぞお楽しみください。
ハッと目を覚ますと、そこは静まり返ったいつもの改札口だった。
身体の不自然な硬直は消え、荒れていた息もいつの間にか整っている。
「……夢、だったの……?」
呟いた自分の声は妙に軽やかで、どこか他人事のように響いた。
手のひらを見つめると、スマートフォンがじっとりと嫌な汗を吸っている。
スピーカーからは、通話が切れたことを知らせる無機質なビープ音だけが流れていた。
ふと、胸の奥に致命的な違和感を覚える。
感情の波が一切立たない。ついさっきまで全身を支配していた凄まじい恐怖すら、冷めた紅茶のように乾ききっていた。
視線を上げると、黒い霧も不気味なガラス窓も綺麗に消え去っている。
代わりに映っていたのは、蛍光灯の明かりの下で佇む、いつもの自分の姿だ。
「……ふふ」
漏れ出た嘲笑に、自分で自分に驚く。
なぜ笑ったのだろう。恐怖の余韻などどこにもない。
いや、違う。自分が笑ったのではない。
内側に居座った「誰か」が、新しい身体で見る世界に満足して微笑んだのだ。
意識の遥か奥底で、閉じ込められた「本来の自分」が助けを求めて叫んでいる気がした。
だがその声も、分厚い氷の底へ沈むようにして、二度とこちらへは届かなくなった。
【了】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
「もしも日常のふとした瞬間に、自分の身体が自分のものでなくなってしまったら……」という恐怖から始まった物語でした。静かな改札口や静寂の不気味さを感じていただけたなら幸いです。
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また次の物語でお会いしましょう。




