カモミール
ボクの本当のおかあさん、
殺されちゃってるんだってさ。
おとうさんは知らない。
おばあちゃんが言うには、ある日とつぜん
おかあさんはいなくなってしまった。
人さらいなのか、物好きだったのかは
分からないけど……一年くらい経ってから、
死体になって戻ってきたらしいんだ。
村の入り口に、服を着てない状態で
転がされてたんだって。
からだには、殴られたりしたあとが
たくさん残ってたらしいよ。
犯人はおかあさんを殺した後に
わざわざ村に持って来て捨てていったんだ。
それで、お葬式をやる為におうちに
持って帰ったらボクが産まれたんだってさ。
おかあさんはぐちゃぐちゃだったのに、
ボクはケガ一つ無かったんだって。
……おばあちゃんはボクを見捨てたりは
しなかったけど、寄り添ってはくれなかった。
だってボクは見た目が“きぞく”なんだもん。
おかあさんが誰にさらわれて、
どんな目にあったのか何となくだけど
分かっちゃったんだと思うよ。
しばらくはおばあちゃんと暮らしてたけど、
“ききん”が起きたんだ。
植えていたおイモに害虫がたくさんついて、
量が全然取れなくなっちゃったみたい。
領主サマの使いが来てちょっとは
良くなるかなって思ってたら、
村のおねえちゃん達がどっかに行っちゃった。
時々泣きながら帰ってくる人もいたけど、
そのおねえちゃんはおとうさんに殴られて
馬車に乗せられて、またどこかに
行っちゃったんだ。
もう二度と見なかった。
生えてる草を煮たお湯とか、
木の幹を削って粉にしたのを
水でこねこねして丸めたのを食べてた。
でもおばあちゃんは病気になったのか
死んじゃった。
朝起きたら、床で死んでたんだ。
ここには頼れる人もいないから、
隣の領にいく人達に混ざって移動した。
ずっと歩いたせいで足の裏からは
血が出てたし、お腹も空いて死んじゃいそうで。
でも、ボクは生きてる。
お母さんが、美味しいスープをくれたから。
飲んだら身体があったかくて、
すっごいふわふわして。
きっと、ボクのおかあさんが生きていたなら
こんな美味しいご飯を作ってくれていたのかな。
つい、「おかあさん」って呼んじゃった。
お母さんはびっくりして、それから笑って。
ボクの頭を撫でてくれたんだ。
それからボクは、拾ってくれた
お母さんとお婆ちゃんの為に頼れる男に
なりたいって思った。
頑張って仕事も覚えたし、
休みの日には街の図書室に行って
本をたくさん読んで、勉強も始めたんだ。
守れるように強くなりたくて、
すっごい嫌だったけど包帯グルグル男に
稽古のお願いをしたら……。
「そりゃやめときな。
お前、センスゼロどころかマイナスだぜ。」
く、悔しい……!
じゃあ本をもっと読んで賢くなってやる!
そう思って、あのリコリスとかいうやつが
読んでそうな難しい本を読み始めた。
でもその時、偶然目に入ったのは、
ボクより小さい子向けのお伽噺の絵本。
〖魔女に育てられた王子様が、
大きくなって魔女と結婚する〗ってお話。
その王子様は親に捨てられちゃったから
魔女に拾われたんだけど、頑張って
勉強して賢くなって、悪い両親を倒して
新しい王様になったんだ。
そして魔女にプロポーズをしたんだって。
……すごいな、ボクもこうなりたい。
早く大きくなって、お母さんを幸せにしたい。
ボクはお母さんが大好き!
十歳くらいしか歳も離れてないし……
結婚して、ずっと一緒にいたいな。
この絵本の魔女みたいに、
お母さんをとびっきりの笑顔にするんだ!
だからボクは絵本を戻して、
また難しい本を手に取る。
目指すのはあの王子様!
背が高くて、格好よくて、賢い。
そんな素敵な王子様なんだ!
お母さんを狙う悪いやつはとにかく多くって、
いっこくのゆうよ、も無いんだから!
(包帯男とか髪ボサボサ女とか!)