二刀流令嬢・朝稽古を終える・2
「……急いではいないんだ」
いや、急がねばならないはずだ。
早くどこかで落ち着いて……仕事を……。
「じゃあ今日も雨だし、ローズも紹介したいし、もう昼だし、もう一泊していくのはどうだ?」
「しかし、そんな世話になるわけにはいかないよ……」
座ったまま下を向くヴァレンティーナ。
立ち上がるラファエル。
これは断りの返事だ。
彼はなんて答えるだろう。
いつも可愛げのないことしか言えない自分だとヴァレンティーナは思う。
「だって、また手合わせしたいじゃないか」
「え……」
「まだまだ、君と稽古したいんだよ」
少し照れたように、どこか見ながらラファエルはヴァレンティーナにタオルを渡す。
「あ、あぁ。それは、それは本当に私も……そう思う」
「だよな!? じゃあ、今日も泊まってくれよ。晴れた日で外の稽古もしたい! いいだろう?」
「……迷惑ではないのか」
「逆に迷惑か? アリスの意見も聞いた方が?」
「……そうだな。アリスにも聞いた方がいいだろう」
またアリスの名前。
可愛い妹分のアリスは、可愛らしく誰からもモテる。
素敵なアリスが可愛い妹分。
この事は自分でも誇りに思う事だったのに、この男の口から出ると何か……違う感情が沸き立つ。
「だよな。あとで聞いてみるな! でもヴァレンが此処にいたいと言えばきっといいと言ってくれそうな気がする」
「それは……そうかもしれない。私もアリスの気持ちは尊重するし……」
「じゃあ、ひとっ風呂浴びた方がいいな! 俺の部屋の風呂を使えよ」
まさか、男同士だから一緒に入るつもりでは!? とヴァレンティーナは焦る。
「いや、私は……」
「俺は食堂の方に用事があるし、まぁ汗だくでもそのままでいいさ。俺の服も勝手に着ていいぞ」
『ならば私もこのままで』と言いたいところだが、そこは元令嬢。
男装をしていても、淑女の身だしなみくらいはきちんとしたい。
「借りている部屋で、身支度を整えていく……あと洗濯がしたいのだが」
「そうか? 好きに風呂も洗濯場も使ってくれ。じゃあ行こうか」
寝転んでいたラファエルが先に起き上がる。
座っていたヴァレンに差し出された、大きな手。
「あぁ、ありがとう」
温かい手にグッと握られて、身体が起こされる。
思った以上に強い力で、ラファエルに肩を支えられた。
「はは、どうした? さすがに疲れたか」
「そんなわけないだろう。いや、まぁ久々だったので……疲れたのは疲れたな」
「俺も、ずいぶんと怠けてたのがわかったなぁ」
身長差があるので、はだけたラファエルの胸元が目の前にある。
「だ、だらしがないな」
「あ~悪い悪い」
「まったく」
呆れた声を出すが、胸が変な音を立てる。
一体、さっきからなんなのだ……と初めての異変にヴァレンティーナは戸惑う。
「じゃあ、今日のブランチは会食の間で集まると思うんだが、誰かいるやつに場所を聞いてくれ」
屋敷に戻ってラファエルは言った。
そして走り去って行く。
屋敷内を走る男。
走るのが速い!
何もかもが自由で大胆だ。
「ぷっ……ははは」
なんだかおかしくなって、ヴァレンティーナは笑う。
やっとヴァレンティーナを見つけたアリスが、笑う彼女を見て不思議そうに首をかしげた。




