第46話・1 王が娶るダキエの姫(4)
ラーファとビェスの食事時の会話です。
迎えに来たタイミングで私がドアから出て来たので、ビェスが駆け足でやって来て抱きしめた。
「待たせたかい?」
「いいえ、迎えに来てくれてありがとう、ちょうど着替えが終わって部屋を出た処だったわ」
「そうか、それならば食事に行こう、用意は出来ている。」
「所で、ラーファは私と初めて一緒に食事した時の料理を覚えているかい?」
「えーと、カカリ村のレストランで食べたのよね、確か赤い料理だった気がするわ」
「あはは、ビートの料理だよ。」
「オウミの代表的な料理で鹿肉までビートを使ったソースが出たから驚いた事を覚えているよ。」
「今日のお昼に食べる料理はね、同じ赤色で、此処パストでよく食べられてる料理なんだ。」
「まぁ、どんな料理なのかしら」
「ラーファは知ってるかな? トマトを使った料理だよ。」
「あら、トマトですか? ダキエで食べた事が在りますけど、西の大陸が原産の野菜ですよね」
「そうらしいね、わが国ではトマトが大量に栽培されててね、色んな料理があるんだよ。」
「今日は、パストで考案された、小麦を紐状にして湯がいた物とトマトを組み合わせた料理がメインなんだ。」
「あ、その料理しってます、確かパストかパスタとか呼ばれている美味しい料理ですよね」
「あれれ、知ってたんだ。」
「はい、オウミ国で食べた事が在ります、本場パスト市で食べれるのなら、とても期待できますね」
「ならば、今日の料理は全てパストで考案された料理だから期待してほしい。」
話している内に食堂へ着いた様だ。中へ入ると、二人用の丸テーブルに向かい合わせに椅子が2つ置いてあった。
席に着くと、ビェスが飲み物を聞いて来た。
「ラーファはお酒を飲まないと聞いたけど、ジュースにするかい?」
「いいえ、あの時はマーヤにお乳を上げていたからお酒は飲まない様にしてたのよ」
「今日は、ワインをもらうわ」
「では、二人の再開と婚約を祝って、乾杯しよう。」
赤いワインが注がれたガラス製のゴブレットを手に、手でゴブレットを捧げ。
ビェスが「今日と言う日に乾杯。」と言って、「乾杯」と私だけだけど唱和した。
心の中で、ビェスと出会えた事に聖樹と彼の方に感謝した。
食事は、最初は食前酒的なワインと前菜でラガーナと言う、生のパスタ生地を四角くした物を焼いてカナッペの土台にしたものの上にオリーブの酢漬やボッタルガ(ボラのカラスミ)を乗せた物が出た。
意外とオリーブが美味しくて、ラガーナはワインに好く合うと思った。
「このカナッペ風のラガーナ? とっても美味しいし、お酒ともよく合うわね」と言うと。
「うん、イタロ・カカリ村で食前に出たカナッペが忘れられなくてね。」
「作らせてみたら意外とみんなの受けが良かったんだ。」
「この前菜だと、次のお皿が楽しみになるわ」
「僕もそう思うよ。」
「ほら、ラーファの希望がかなったよ。」とビェスが言ったら、大皿に乗った料理が出て来た。
「今日の第一の皿は、お待ちかねのパストだね。」
「トマトを使ったソースと聞いているけど、楽しみだわ」
侍従が大皿に山盛りに盛り付けた、トマトの良い香りのする、麺料理を持って来て、テーブルの中央へ置いた。
別の配膳係の侍従が大皿から木のスプーンとフォークで麺を挟むようにして私とビェスの皿に小分けに盛り付ける。
おいしそうな湯がいた麺にトマトのソースが絡まって、更にチーズの匂いもしている。ビェスがパストを見ていた私に言って来た。
「そうだ! 食事の時使うスプーンとフォークの使い方を説明するね。」とビェスはテーブルに用意されていたスプーンを左手に、4本爪のフォークを右手に持った。
フォークで食べる分を掬うと、スプーンの曲面を使って麺をフォークに巻き付けて食べた。意外と面白い食べ方をするんだと思った。
私も同じ事をしてみると、なかなか巻き付けるのが難しいけど纏まれば一口サイズなので食べやすかった。
「慣れれば、スプーンは使わないでフォークだけで食べれるようになるよ。」
食べ始めると、パストの中にキノコも入っている事が分かった。香りの良い白いキノコだけど私の知らない種類だった。
「ああ、それはトリュフだよ、香りが良いんだよ。」
「トマトソースとは合わないと言う人も居るけど、私は好きなので料理人が入れたんだろうね。」
「トマトソースの中に細切れにしたお肉も入ってるのね、野菜も色々入ってるみたい」
ソースを作っている材料が細切れになっても分かるぐらいの大きさでトマトソースに入っていた。
メインである、第二の皿はシーバスをメインにエビや貝が入った海鮮鍋が出た。
これはこれで美味しかったけど、パストだけでお腹が一杯になってしまい、あまり食べれなかった。
ビェスが食べ終わるまで先に、ハーブ茶を頼んで待つ事にした。ビェスは結構食べるし、良くしゃべる。食事中喋り通しで、私を楽しませてくれた。
食後は又着替えだ。ビェスには先にくぎを刺して置いた。
「着替えますので、後でお会いしましょうね」
「ラーファは、私と居るのは嫌なのかい?」などと聞いてくるので、イラっとして「おとなしく待ってて下さい、女性の着替えを覗くのは、ストーカーと言って嫌われる行為の最たるものですよ」
ここまで言ってやっと諦めた。
次回は、教会で入籍するための儀式です。




