第46話・2 王が娶るダキエの姫(5)
ラーファとビェスが教会で入籍の儀式に参加します。
中央大陸の国々は全て多神教です。
神々の名と役割は地域で多少は違うけど基本的に最高神は太陽神で、鍛冶や戦に縁結びなどの神々が鎮座されるなど共通する特色を持っている。
私はそう言った中央大陸の風土や習慣に詳しくないけど、言葉がダキエで使われているシリル語が共通語になった頃(3万年前)、宗教も似たような内容になって行ったとエルフの長老に聞いた記憶がある。
太陽神が身体的特徴が女性エルフにそっくりな神様だとか、鍛冶の神様がどう見てもドワーフに似ているとか、他にも色々樹人を擬神化した様な部分が共通に見られます。
人族からの疑神化も、旅人を助ける神様が道祖神として祭られていたり、戦の神が人族の男性(女性の場合も在る)だとかに見られます。
地域毎に神様の名前や役割に違いがあったりして、地域独特の宗教感が見られます。
中海に面した地方では、契約の神様が縁結びの神様と同じだったり、商業の神様と同じと言う所もあります。
ここビチェンパスト国では、縁結びも契約の神が司るそうで、とても敬われているとビェスが教えてくれた。
今日入籍のために行く教会は契約神の教会だそうで、商人だけで無く貴族の間の様々な契約や取り決めのため教会に訪れるそうだ。
籍を入れるのは契約の特殊なケースになる様で、披露宴の意味が強い結婚式とは別に、入籍のため二人だけで教会を訪れるそうだ。
今回は、二人だけで行くのは無理なので、警備の衛兵50人が馬車と共に教会へ向かいます。
一度部屋に戻り、イガジャ男爵家から私への贈り物として貰った、スクマーン衣装に着替えた。着替えている間に、ビェスが先に着替えて部屋の前まで来て待っている。
彼の方も着替えは時間が掛かった様だけど、女性の着替え程では無かった。
私の一言が効いたのか、部屋の中へ入って来る事は無くて、「外であなたが出て来る迄待って居る。」と伝言してきただけだった。
ビェスは、王の正式な衣装姿で立っていた。頭には重そうな王冠(大小の宝石と金銀の象嵌が施された物)、マントにブリガンダインの鎧姿だった。更に帯剣して式に臨むようだ。
私はスクマーン衣装それも魔女様式の方です。
私が着ている衣装は、下に着るスモックと上に着るスクマーンです。
スクマーンが魔女が着る様な黒系になっています。さらに襟や袖を飾る縁取りの刺繍とレースの飾りに金糸銀糸が使われています。
この縁飾りは聖樹を象ったスペードの様な文様に成っていて、私の紋章(聖樹)に合わせています。
最後に付ける帯とエプロンも赤い帯と真っ白いエプロンの取り合わせで黒いスクマーンの生地に赤い帯と白いエプロンの取り合わせは晴れ着にとても会うと思います。
白いエプロンには魔女の薬を5つ種類ごとに楕円の縁取りで青く刺繍で埋められ中心から放射状に金糸で表現された光が刺繍されている。
これに白いフード付きのマントを羽織れば、端から見れば正装した魔女です。(ビチェンパスト国には魔女はいません byラーファ)
マーヤと私と、イタロ・カカリ村の前男爵夫人ボーデン奥様と男爵夫人のエイシャ奥様、侍女の方々が不眠不休で刺繍を完成させた思い出の品です。
ビェスが私の衣装を見て目を丸くしている。
「ラーファ、その衣装は魔女の正装なの?」
「ええ、そうよ」
「とても素敵だよ、君がとても美しい魔女だと、改めて気が付いたのは嬉しい驚きだ。」
「結婚式にもその衣装で出てほしいな。」
「それは大丈夫だと思うけど、何時位になるか決まったの?」
「まだはっきりした日時は決まっていないけど、半年以上先で無いと人が集まらない。」
「恐らくだけど、1年ぐらい先に成ると覚悟していてくれ。」
「了解、私の方は娘だけだから、何時でも良いわよ」
「マーヤちゃんだけど、今どこに居るの?」
「えっとね、オースネコン国に着いた頃よ」
「それは、神聖同盟の国の一つじゃないか!」
「捕まったりしないのか?」
「大丈夫だって言ってたわ、神聖同盟の王族たちで作る闇魔術師討伐隊と一緒にダンジョンに潜るらしいわ」
「なんだって! 神聖同盟の王族とダンジョンに潜る?」
「闇魔術師討伐隊ってどうなっているんだ?」
「私も詳しくは知らないのよ、マーヤが忙しいようで、連絡をあまりしてくれないの」
「そうか、連絡が在ったら私にも教えてくれないか?」
「ええ、もちろんよ」
出発する前に色々有ったけど、中庭の反対側に在る車寄せから馬車に乗り込んだ。
教会は近くだったので、直ぐに馬車は着いた。教会も連絡が行っているので、準備は終わっているようです。
私たちが馬車から降りると、教会の司祭だと名乗る人が教会の前で出迎えてくれた。
そのまま、司祭さまの先導で中へ入ると、正面の祭壇へと中央の通路を歩くだけで着いた。
ビェスが何やら書類を司祭様へ渡している。どうやらグレバートさんが言っていた新しい家名を知らせる書類の様だ。私がビェスを部屋から追い出した後書いたのだろう。
あのままビェスが私の部屋に居座って居たら、この書類の事はどうする積りだったのかな?
司祭様が「ナムアーラ、新しき家名、拝領しました。新しき家名に子々孫々まで神の御加護のあらんことを、ナムアーラ。」と聖句を唱えた。
入籍の儀式は、二人が交互に台の上に用意された一枚の紙に名前を書き入れるだけです。
教会が用意してくれた入籍用の紙に名前をお互いに書き込んだ。
ビェスは、
”ビェストロ・パスト・エルルゥフ・ダキエは夫としてイスラーファ・パスト・エルルゥフ・ダキエを妻として籍にいれる”
と書いて今日の日付を書き込んだ。
ビチェンパスト国建国50年12月3日がビチェンパスト国の日付です。
私はビェスが書いた下に、
”イスラーファ・イスミナ・エルルゥフ・ダキエは夫 ビェストロ・パスト・エルルゥフ・ダキエの籍にイスラーファ・パスト・エルルゥフ・ダキエとなり妻として入る”
と書いた。
今日のビチェンパスト国の日付と聖樹年53150年12月3日を書き込んだ。
二人が記入を澄ますと最後に司祭様が、”夫 ビェストロ・パスト・エルルゥフ・ダキエと妻 イスラーファ・パスト・エルルゥフ・ダキエの入籍の見届け人として祭祀を執り行った”と書き込み、ビチェンパスト国の日付を書き、下に名前と階級を書いた。
入籍の書類はこれだけだった。
これで晴れて私はビェスの妻となった。
結婚式は未だ決まっていないが、してもしなくても入籍の終わった二人の関係は夫婦となる。
司祭様が寿ぎの言葉を言う前に、私は二人にしてほしい事が在った。
「司祭様、それにビェス、少し待ってほしいの」
と二人に断ると、3枚の紙と魔印象とペンと魔インクを腕輪の空間収納から出した。
そして、まだ空白の3枚の紙をビェスと司祭様に見せた。
不思議そうに3枚の紙を見るビェスと司祭様。
「この紙は魔紙で出来た、魔紋を入れる事が出来る物です」
「そしてこちらが、魔印象と魔インクにペンです」
二人は、魔紋と聞いて驚くと同時に納得もしたようです。
「魔印象は持ったまま魔紙の上に置けば魔紋を魔紙に捺印できます」
「ペンに此の魔インクで、魔紋が出た紙に書けば文字などが書けます」
「ビェスは、この紙、司祭様はこちらです」
「そして私はこの残った紙です」
「最初に一人づつ魔印象を押して行ってください」
三人が魔印象を使うと、それぞれの魔紙に大きく魔紋が浮かび上がった。
「これは凄い、此の文様が私の魔紋なんだね。」
ビェスが好奇心を剥き出しにして紙を見ている。前では司祭様が同じように紙を覗き込んでいる。
「では先ほど各自が入籍で書き込んだのと同じ文言を、このペンと魔インクで書き込んでください」
「ただし私の旧姓の名前に追加して”イスミナ・アリシエン・ジュヲウ”を書き込んでください」
と司祭様に言って、私の魔紋が浮かび上がった魔紙に”イスラーファ・イスミナ・アリシエン・ジュヲウ・エルルゥフ・ダキエ”と私の秘する名を入れた名前を書き込んだ。
「その名はラーファの正式な名前なのか?」とビェス。
「正式と言うより秘する名になります、イスミナは私の母の名で、アリシエンとジュヲウは樹人にとっては意味のある名ですけど、誓約などの名に懸けて誓う時に使う名前です」
「そうか、ではラーファの旧姓を私の方にも書き込んで置こう。」と言って。
”旧姓イスラーファ・イスミナ・アリシエン・ジュヲウ・エルルゥフ・ダキエ”と書き込んだ。
「ありがとう、ビェス」
「それから、ビチェンパスト国の日付の下に、ダキエの聖樹年の日付も書き込んでください」
と私が先に2つの日付を書き込んで見せた。
「この魔紋が浮かぶ紙には真実しか書けないんだよね。」ビェスが嬉しそうです。
ビェスも司祭様もいそいそと私と同じように書き込んでくれた。
「ありがとうございます、ダキエ国は滅びましたが、エルフはまだ残っています」
「この魔紙は数十万年はこのまま残ります」
「私とビェストロの婚姻の証として樹人への証明になるでしょう」
「司祭様は今書かれました、魔紙をどうぞ教会で私たちの婚姻の証の一つとして保管してください」
司祭様は頷いて承諾してくださいました。
司祭様が入籍の終わった私たちに寿ぎの聖句を唱えてくれます。
「喜びも悲しみも、健やかも病めるも、富も貧しさも、共に、分かち合い、慈しみ愛、支え合って過ごすことを誓いますか?」と文言を問いかける。
私とビェスは声を合わせて、「「誓います」。」と宣誓した。
「ナムアーラ、神よ、この二人が死によって、別れる時まで幸有らんことを願い奉ります。ナムアーラ。」
「二人は今を持って夫婦となりました。」
入籍と儀式はこれで全て終わった。
私とビェスは、お互いの魔紋が浮かんだ魔紙を交換した。司祭様は自分の魔紋が浮かんだ魔紙を教会に入籍の紙と共に保管する事になった。
新年明けましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりました。今年もよろしくお願い申し上げます。
お正月らしく神の御前にて入籍の儀と相成りましてそうろう。
次回は、マーヤに結婚の話をします。




