第40話・1(閑話)ゴドウィン
ラーファを攫ったゴドウィン船長の話。
驚いたのなんのって、死ぬほど吃驚するなんざぁ初めてだ。
ワイバーンがいきなり現れて、船の上を飛び回り出した時も驚いたが。そんときゃ驚くより早く隠れなきゃと思う方が先だった。
ワイバーンの前にもこのゴブリンのゴーレム人形がいきなり現れて、死ぬほど脅かしてくれた。不気味なこのゴーレム人形をキクの娘が操っていると聞いた時は殺されると本気で思ったもんだ。
だが、そんな事は全て些細な事だった。関門の塔がバラバラになって海へと崩れ落ちて行く様を見た時、時が止まった。この世の終わりキクの世界が始まったのが分かった。
カクタンの御位様を氷漬けにして殺した女の事は、お使い様から聞いている。
だがこの目で見た、崩れ去る関門の塔の姿はこの世を氷で閉ざす冷たさの極致が顕現した姿としか考えられ無かった。
今日がこの世の最後の日になるのだ!
今日と言う日は凍り付き、永遠に終わらぬキクの日が続くのだ。
信じてはいなかった! ただ生きるための方便とキク・カクタンの2神の教えに帰依した振りを続けていた。
気が付かなかったが、いつの間にか本当の信心へと変わっていたようだ。
心底心が冷えた。只々キクの娘様に祈るしか己を守る術は無かった。
「どうか、関門の塔をバラバラに砕いたキクの娘の騎竜、ワイバーンのブレスを私たちに向けないでください。」そう祈るだけだった。
気が付けば、周りの部下たちも同じ懇願の姿勢をして、キクの娘に祈っていた。
奴隷が主に取る姿だ、人たる男は御位様にしかとらない姿勢なのだ。
・・・・・・・・・・・・・・
今日と言う日は、まだ日も開けぬ昨日の夜から、ゴタゴタだらけの出来事が絶えず続いた。
元凶はキクの娘、名をイスラーファと言うらしいが、女に名前を付けず物扱いするお国柄ゆえ、名前を呼んだことは無い。
夜明け前の暗い内に、お使い様から呼び出された。陸の家でグッスリ寝ていた所をお使い様が差し向けた使いの者にたたき起こされたのだ。
まだ夜も明けていない、夜の10時(午前3時)だと言うのに、王宮は争乱の真っ最中だった。お使い様のハリヤーデ様が居る王宮の執務宮へ行くまでも衛兵の厳重なチェックが何度も在った。
到着が夜の11時を過ぎて夜の12時(午前5時)近くに成ったのも仕方が無い事だ。
そのままハリヤーデ様から話が在った。
「遅かったなゴドウィン、今すぐ船を出せるようにして置け。」
「ええっ! 昨日帰って来たばかりですぜ!」
「野郎どもも陸に上がって船にはほとんどいませんし、出航の仕度も全然できてません。」
「何とか、4,5日お待ち願いませんか?」
「今、王宮は争乱のさなかに在る。」
そう言ってハリヤーデ様は、座った座からこちらを睨んだ。
「御位様が亡くなったのだ! キクの娘が氷漬けにして殺したと聞いた。」
「今王宮は次の御位様を決める神の試練に挑戦する順番で争って居る。」
ハリヤーデ様が俺を睨んでいる。でも、イスラーファを連れてこいと命令したのはハリヤーデ様じゃないですか。
それに、後継者争いが始まったのなら決まるまで時間が掛かるのは知っている。前回も半年以上に渡って争いが続いたと聞いた。
ハリヤーデ様はどうする積りなんだろう?
そう思ってハリヤーデ様を見ると、答えてくれた。
「今、御位の守り人様の一族が動かれている。」
「守り人様? ですか?」初めて聞く名称だが、ハリヤーデ様が恐れている様な感じを受けた。
「次の御位様になるための、神の試練を司る一族だ。」
「私も詳しくは知らない。」
「前回もそうだったように、今回もしばらく争乱は続くだろう。」
「私は混乱を避けるため海に避難する積りだ。」
そのために俺を呼んだんだろうとは思ったが、ハリヤーデ様も血筋は先々代の兄弟の血を引くお方だと聞いている。が、次の御位様になろうとは思っていない様だ。
「ゴドウィンは私の乗る船を護衛をする様に。」
「急いで船に帰り、出航準備をしなさい。」
「準備が出来次第連絡するように!!」
ハリヤーデ様からの有無を言わせぬお達しだった。
王宮を追い出された私は、出航の準備を急がせるため港へと急いだ。
先ほど見た王宮の有様とハリヤーデ様の話を聞いて、次の御位様へとハリヤーデ様を担がれる方が居るのだろう。
次の御位様が決まるまで海の上に逃げ出すのは良い考えだと思った。
御位様が決まれば王宮の争乱は収まる。ハリヤーデ様も纏まった戦力を率いて次の王が決まるまで海の上で見ている積りだろう。
キクの娘イスラーファは捕まえた時はおとなしかったが、一体王宮で何が有ったんだ?
アーノン・ススミの話では、首輪さえつけていれば魔術が使えないはずでは無かったのか?
ひょっとして、首輪が外れたとしたら?
とんでもない化け物がすぐそばに居るのかもしれない。しかもその女は俺を憎んでいるだろう。
女の噂は知っている。
ダキエの次期エルフの女王だったが政変で追われ、オウミ国迄逃げて来た事。
凄腕の魔術師で飛竜と空を飛んで戦い、飛竜を殺したとも聞いた。
伝説のダキエのポーションに匹敵する利目が有る魔女の薬を作って売り出した事。
飛竜を飼いならし、竜騎士を育てオウミ国の戦力を大幅に引き上げ、戦争に勝利させた事。
とんでもない奴だ。そんな奴に目を付けられては敵わない。
俺自身が、イスラーファから逃るためにも、出航準備は一段と早くしなければ。
申し訳ありませんが、「小さなエルフの子マーヤ」との話の流れを合わせるためにしばらくお休みします。12月から再開する予定です。
その間月曜日に閑話を1話づつ載せます。木曜日は12月までお休みします。
次回は、12月4日から第4章(最終章)が始まります。




