第39話・1 ビチェンパスト国へ(1)
魔晶石の暴発により御位崩壊が起きてしまった。
魔晶石の暴発による崩落は未だに続いている。
岩の破片を伴った噴煙が笑い猫の闇隠をすり抜けていく。笑い猫は上空1ワーク(1.5㎞)の空に留まって下の状況を見ている。
私はコリン君を笑い猫の闇隠へ入れて、中から最悪となった結末を見ているだけだった。
闇隠は既に閉じている。コリン君は御位の崩壊を見てしまい、蹲ったまま動かなくなってしまった。
5階建ての石作りの部分も含めて全て、雷のような閃光の後は噴煙に包まれて何も見えなくなった。噴煙はやがて低くなって周りに広がって行ったが、それに合わせるように御位の在った岩山と建物は崩れ、見る見るうちに低くなって行った。
爆発の威力は衝撃波となって王宮を飲み込んで行った。その衝撃波の後を追って噴煙が襲い掛かり、全てを覆い隠したため、今、粉塵交じりの煙の中がどうなっているのか分からない。
身動き一つ出来ないまま、笑い猫の闇隠の中から、笑い猫の目と耳を通して全てが終わるまで見守るしかなかった。
眩い光と轟音、その後の噴煙の中に崩壊していく御位の建物と岩山を見ているだけだった。
御子が御位に撃ち込んだ魔道具は、火槍を撃ち出す物だったと思うけど、御子の怒りで過剰な魔力を行使した結果、暴発して魔力が過充填されていた。
火槍がその場で爆発してくれた方がまだマシだっただろう。
在ろうことか御位に向けて撃ち込まれてしまった。そして運の悪いことに、御位に直撃した。
当たらなければ今回の悲劇は起こらなかっただろうに。
御位も電撃の魔術陣の追加が無ければ魔晶石の暴発は起きなかったと思う。
もっとも最悪だったのは、電撃の効果が上下方向に働いた事だと思う。風化に耐えて残っていた玄武岩は電撃によって上から下まで貫かれた。内部が一瞬で粉砕された事で岩山の崩壊は起きたのだと思う。
全てが最悪の状態で重なった。
傍観しながら私は愚痴を漏らすしか無かった。
一体何処の誰が、元々無かった電撃の機能を後付けで無理やり付けたのか。
御子は何故に火槍に過剰なほどの魔力を込めたのか。
そして何よりも魔晶石をたかが魔紋一つのために使うと決めたのは誰なんだ。
どれか一つでも欠けていればと思う。
火槍の過剰な魔力が無ければ。
御位の背の部分に有った電撃の接続部分をショートさせなければ。
そして魔晶石を使っていなければ。
こんな栄えている王都を一瞬で瓦礫の山に変える事は無かっただろう。
時間の感覚を失っていたようだ。気が付いた時は炎は収まり、噴煙も薄くなっていた。笑い猫の空中からの視点は、御位の在った場所に、砕かれた巨岩がゴロゴロと転がっているのが見える。
瓦礫と岩以外に見える物は何も無い。王宮の在ったと思える場所は、大小の岩が散らばるだけとなっていた。内門の中の王宮は完全にがれきの中に埋もれてしまっていた。
外門から内門までのエリアは飛来した岩に破壊された建物が多かった様だ。あちらこちらで火災が起きて居た。
王都も酷い有様だった。爆風は王宮を破壊してもその暴力的な力は衰えなかった様だ。低い建物しか無い外門内を素通りした爆風は、王宮に近い建物ほど大きな被害を与えた。
高く作られた建物程、倒壊したり半壊している。屋根が吹き飛んだ建物も在る。
人々が倒壊や半壊した建物に群がり、瓦礫の中から巻き込まれた人を助けようとしている様が見て取れる。
魔晶石の力を一瞬で解放すると、一つの都市を破壊する威力が在る事は知識だけなら知っていた。それが、実際にその威力の発露が目の前で起きてしまうと、只々只々茫然として、為す術も無く見るだけしかできなかった。
つくづく火槍を撃ち込んだ男の考えの無さに呆れかえる。暑さの極みだからと言って燃えないと思い込んだのは愚かだ。
それとも御位の消滅を望んでいたのかな? それでも先ほどの爆発は思ってもいなかったと思う。
御位を破壊したのは御子だけど、その事を知る者は私たちの他は全て死んでしまった。
私が御位に居た事は、あの場に居た者だけが知っているのかな?
4階の屋上まで到着するのも早かったし、スキルと言うより魔術の行使と言った方が良い攻撃力だった。
魔道具や魔術の事を考えると、外部への連絡手段位有りそうだ。
そうなると、この後どうなるのだろう?
罪を擦り付けられる事は、大いに在りそうだ。コリン君も尾ひれに背びれぐらい付けて、勝手に想像した事を喋るだろうし、ゴドウィンも信じるだろう。
そうなると、キク・カクタン国から国賊として追われそうだ。
でも、キク・カクタン国は王族や国の中枢にいた人が大勢居なくなった訳だし、国が滅ぶのかな?
今回の件は発端はラーファだけど、直接の原因は御位を攻撃して死んだ男らだ。巻き込まれた上に、御位の崩壊と言うおまけまで付いた。
後はなる様にしかならない。私はもう知らないよ、疲れてしまったわ。
次回は、第4章に繋がるプロローグ的な話です。




