第2章 プロローグ
暗く重い空気が立ち込めた部屋にコツコツと2人分の足音が響く。
部屋には窓もなく沈んだような空気が充満する。
暗闇でよく見えないが足音が向かう先には大きな椅子がありそこに腰掛けている人物が1人確認できる。
やがて足音は椅子の前で息を合わせたように止まると同時に膝をついて片割れの1人が第一声を発した。
「……様、捕捉していた勇者と思しき者の気配が消えました。原因は現在調査中です」
足音の主の1人は黒い法衣を纏い顔には白い仮面をつけその容貌を隠していた。
もう1人の足音の主も黒い法衣を纏い白い包帯でその顔を覆い容貌は把握できない。
報告を聞いた椅子の上に座る男は静かな沈むような声で答えた。
「消えたのは王都だな?」
「はっ。その通りです。聖域に入った、もしくは勇者に選ばれた者がそうと知らず元の世界に帰った可能性もあります。以前調査中ですが」
この男たちは勇者がこの世界に現れたことを察知していた。
しかしサイモンたちとは違いその魔力を察知しているだけで誰が勇者であるのか、氏名やその姿までは確認できていなかった。
椅子に座った男は続ける。
「そうか。女神め、間抜けな話だな。ならばそれでよい。さほどのことではあるまい。いずれにせよ、勇者など我が敵とはなりえぬ」
男はバキバキと指の骨を鳴らす。
「我が選りすぐりの精鋭たちの前ではどのような手練れであろうと紙クズ同然だ……そうだな?ゲドー!ザンゲーザ!」
「御意に」
「まったく仰る通りでございます」
ゲドーと呼ばれた白い仮面の男とザンゲーザと呼ばれた白い包帯の男が同時に跪いたまま応える。
「グレイズはもはや我が手中に収まった……次はここサィリス大陸の番だ……」
ここユグドラルの二大大陸の1つ、グレイズ大陸の諸国家はすでに数年前からこの椅子に佇む男の傀儡政権となっていた。
その過程で数多の血を流し多くの命を奪った。
それはこの男が長年抱えた怨讐がさせたことであった。
椅子から立ち上がり男は鋭く叫び、怒りで震える拳を掲げた。
「今こそ我が宿命を果たす時だ……!ガイアスに伝えよ!セタランナの首脳どもを皆殺しにし、ブライアン・バーゼルの身柄を我が前に持ってこい、とな」
男はサィリス大陸最大の国家トバイケルの首都への攻撃命令を静かに下す。
……もはや待ちきれぬ
「御意に!」
「了解しました。我が偉大なる王、デクスター様……」
ゲドーとザンゲーザは外套を翻し早足でその場を去っていく。
その狂気を、怒りを、憎悪をこの国にばら撒く為に。
1人残された男は手にしたグラスの液体を飲み干し息を吐いた。
その顔には歪な笑みが張り付く。
「サイモン……!ブライアン・バーゼル……!そして勇者の末裔どもよ……!最大の苦しみを与えてから殺してくれる‼︎我が怒りを思い知るがいい‼︎」
男は空のグラスを床に投げつけ、そして狂気の嗤い声が暗い部屋に木霊した。




