第14話 フライングジェットターボエンジン!
まだ暑いんでクーラーかけてます。
はちみつレモン美味しいなあ
馬車はさらに街道を進む。
御者には山賊の情報は伝わった。このまま突き進んで大丈夫だろうか。
「生体魔力反応が18……殺気と邪気も探知……決定的ですね。山賊なのです!」
キャリーちゃんがレーダーによってキャッチした危険をアナウンスした。
どうやら山賊は本当にこの先に潜んでいるようだ。
どうするか?いざとなれば勇者瑛子が無双できるだろう。
しかし……
モンスターなら昨日相手にしたが人を相手に立ち回るのは初めてだ。
何が起きるのか分からないしできるなら人相手の戦闘は回避したい。
「迂回しないんですか?」
俺はヤヨイさんと御者に尋ねる。
すると御者のおじさんは前を向いたままにっこりと笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。この程度の規模の山賊なんてぶっちぎれますから。どうか天馬にでも乗った気持ちでお任せください」
天馬って乗ったことないですけど。
まあ、そこまでいうなら信用しようか……
やがて馬車はゴツゴツとした岩壁が聳える狭い道に差し掛かる。
なるほど山賊が隠れやすく上から通行者に対して矢を一斉に射かけやすい地形だ。賊にとっては絶好のポイントだろう。
俺たちは彼らを信じ舵取りは任せることにした。
瑛子に至っては眠りかかっている。これは気を抜きすぎではあるが。いざとなったらお前が頼りなんだが……
「よし、じゃあ行きますか。少し飛ばしますよ。皆さん席を立たないでくださいね」
御者が俺たちにそう言い、手綱を引く手が淡く光り始めた。
「ハッ!」
そして御者の魔力のオーラだろうか。それが馬車全体を包み込むと馬車が空をふわりと浮きやがて徐々に加速し上昇を始めた。
「馬は天高く舞い駆け上がる《フライングジェットターボエンジン》!」
−−−その「飛ばす」かよ
この御者もノリノリである。
馬車は岩壁の高さを超え空を駆ける。
しかし車内に揺れは全く感じないし安定感もある。これも魔力だろうか。
やがて件の岩壁の上を通過すると泡を食ったような山賊たちの表情が観測できた。
賊たちは慌てて矢を射かけてくるが馬車までは届かない。
「魔力のバリアも張ってますからご安心ください。もはや奴らには指一本触れられませんよ」
御者が自信たっぷりにそう言い放つ。
彼の宣言通りにその難所を超えると暫く空の遊覧飛行が続いた。
出発前に俺たちは地理についても大まかな説明を受けた。
俺たちが今いるのはトバイケル帝国という大陸の北東から中央までを領有する広大な国だそうだ。ユグドラルでも最大の人口と軍事力を保持すると言われる。
約30年前、エドワード・ルブジネットの暴虐により当時の都ヴェトコンは壊滅寸前だった。
クーデター成功の後に旧王都から数十キロ南の平原を開拓して現在の新王都セタランナに遷都したという。
空からは遠くにポツポツと旅人のための宿場町が見える。
「警備隊には後で山賊の情報を伝えておきましょう。危ないですからね」
ヤヨイさんがちらりと後方を気にしながらそう言った。
◇
−−約30年前 ルルーブ歴751年8の月 アノア川流域
大歓声や怒号が夏空に飛び交う。
川を南北に挟んで大軍勢が睨み合い互いに罵声を飛ばしている。
ブライアン・バーゼルがアンディからの手紙を受け取って一週間。
ストレンジャーの兵とエルフ有志の兵をかき集めバーゼルは狂王を討つべく王都ヴェトコンに向かって進軍を続けた。
エドワードへの憎悪や不満を抱えたトバイケルの民は多く、道すがらバーゼル軍に加わる者は有れど王の為に戦うという民兵は一兵たりともいなかった。
おかげでバーゼル軍の進軍速度は速くカームランドからの500kmの行程を乗り越え今現在、トバイケルの東から西に流れるアノア川を挟んでバーゼル軍はトバイケル軍と向かい合っていた。
この川を越えれば王都までの30km間に大きな障壁はない。つまりここが最終防衛ラインだった。
こんな事態になるまで何の手も打てなかったことはトバイケル帝国の凋落を何より物語っていた。
「どうだ?敵の配置は?」
バーゼルがハリーに尋ねる。
細かい軍略は主に現役のデルタフォース所属であるハリー・スペンサーに一任している。
「アノア川を挟んで前方に構える敵軍は大きく分けて3軍。中央にマックリー伯爵の重騎兵8000。左翼にカリーナ将軍の騎兵・弓兵6000。右翼にサイモンの騎兵5000。我が軍の約4倍ですね。本当なら撤退したいところです」
ハリーが双眼鏡を眺めながら斥候の持ってきた情報と照らし合わせて大まかな敵数を分析する。
自軍約6000に対し敵軍約19000。
ハリーの言う通り本来なら今すぐにでも逃走ルートを考えたほうが現実的な方策であった。
しかしこの世界には魔法があり実際にぶつかってみるまではどう転ぶかはわからない。
それにバーゼル軍には秘策があった。
「この書によれば伯爵と将軍で大揉めしたらしいな。サイモンの差し金だそうだが」
トバイケルの軍議の内容はサイモンにより密かにバーゼルの元に届けられていた。
大まかな陣容に将軍たちの性格、力関係などなど。
まずバーゼル軍の大きなアドバンテージとしては今現在のトバイケル帝国は狂王が各方面に戦争を仕掛けているためこの大一番にたった2万の兵しか割けなかったことがある。
第二にトバイケルの将軍たちの不仲。
この戦にあたってできる限り自分の兵の血を流したくないマックリー伯爵は格下であるカリーナ将軍に先陣を切って突撃することを命令したらしい。
憤ったカリーナは先日の会議でマックリーに食ってかかったとサイモンの使者からの伝言があった。
「まずはカリーナの兵6000が左翼から渋々突っ込んでくるようですね。とりあえず士気の低いこいつらを何とかしましょう」
「そうだな。早速敵左翼に向かって砲を撃ち込んでやれ」
「了解」
バーゼルの指示を受けたハリーが下知をくだす。
バーゼル軍の魔砲兵と弓兵がアノア川の岸辺近くまで移動し一斉に発射の準備を始めた。
「よっしゃ!狂王の手先どもめ!やってやるぜ!」
「くらえ!ファイアボール!」
「サンダーアロー!」
「ウォーターマグナム!死ね!狂王の糞が!」
矢と魔法が一斉に発射されカリーナ軍に向けて襲いかかった。
――――――――――
「ぐあああああ!なんだこの矢は!毒が塗ってやがる!」
「火が!火がぁぁぁぁぁ!」
「くっそぉぉぉぉぉぉ!」
バーゼル軍の砲撃を受けたカリーナ軍は阿鼻叫喚の有り様であった。
特にバーゼル軍のエルフ兵の弓術と魔力は優秀で通常の射程よりも長い距離から届くほどであった。
「ええい!何をしておる!相手はたかが寄せ集めだぞ!さっさと川を渡り反逆者どもをぶちのめせ!」
逆上したカリーナが立ち上がり渡河の命令をくだす。
しかしそれは間違いであった。
折からのマックリーとの仲違いでカリーナは冷静な判断を失っていた。
「うっ、うあぁぁぁぁー⁉︎」
「バカな⁉︎大人しかった川が急に?何という運の悪さだ!」
カリーナ軍の渡河の途中急な鉄砲水が襲いかかりその大半を溺れさせ混乱の渦に叩き落とした。
これはバーゼル軍の罠であり、エルフ達の魔法で引き起こした現象であった。
「くそっ……なんてことだ……!」
「おい、見ろ!バーゼル軍だ‼︎うあああ⁉︎」
更に這々の態で渡河し終えたところをバーゼル軍の騎兵が襲いかかりまるで雑草でも刈るかのようにカリーナ軍を次々と薙いでいった。




