傭兵夫婦
先に外へ出たのは村長だった。その光景に絶句した。
見たことのない大きな銃を持った男達が村の広場を包囲していたのだ。
「あんたが村長さんかね」
太いサバイバルナイフを腰に垂らした男が口を開いた。
「ああ、そうだ」
唾がうまく喉を通らない。うわずった村長の声にナイフの男やその仲間は嘲笑った。
「何か用かの。宿なら貸してやらんでもないが、明朝には出て行ってもらいたい。あまりよそ者に慣れてはおらんのじゃ」
村長はできるだけ慎重に、丁寧に対応する事にした。
変に無下な態度をすれば、村人達に何をするか分かったものじゃない。
すると、ナイフの男が腰から拳銃を抜き、夜空へ向けて撃った。その轟音に、家の窓から覗いていた村人達は思わず耳を塞いだ。
たまらず村長もその場へ蹲った。
「よそ者?」
ナイフの男は苛立っていた。
「お前達はそのよそ者をこの村の何処かへ匿っているんだろう。違うか?」
「こんな砂漠の真ん中へ好き好んで来る人間はおらんが、誰か探しに来たのかね?」
「ああ、そうだ。若い男と女の二人組だ」
あの二人だ。
村長は直感した。同時に、どうやってこの場をやり過ごせばいいのか思考した。厄介な子持ちの夫婦だが、易々とこの武装集団に渡すつもりなどない。
「さて...そういえば、3日前にフードを深々と被った二人組が来おったよ。水をくれ、と言うからその世話をした」
「それで、そいつらはどこへ?」
「東の方へ歩いていったよ」
「嘘はなしだぞ」
「嘘をつく理由が何故ある。それに、お前さん達は一体何者なんじゃ?そっちの方が儂は気になるの」
村長の柔らかな物言いは功を奏した。
しばらくの間、村長を凝視していたナイフの男は、後ろで銃を構える仲間に軽く手を振った。すると、男達は皆銃を下ろした。
村長もようやく胸を撫で下ろした。
「真夜中に来て悪かったよ、村長さん。危害は加えない。安心してくれ」
ナイフの男はゆっくりとその場に座った。
「重ねて悪いが、こいつらに水を飲ませてやってくれ。水筒も干からびすぎでヒビが入っちまってる」
村長は頷くと、家の窓から怯えた目を覗かせる男に目を合わせた。その男も村長に向かってゆっくりと頷き、水桶を持って井戸へと走って行った。
「いい村だね。夜空が綺麗だ」
ガブリと水を飲み干すと、ナイフの男は空を仰いだ。
その顔は柔らかく微笑んでいる。
あの男、ベイクが言う程根っからの悪人ではなさそうだ、と村長は思った。
「さぁ、お前さんの名前を聞かせてはくれんかの」
「あぁ、そうだったな。ハモンと呼んでくれ。第三長距離戦部隊軍曹ハモン・ジュール」
「軍人さんかね」
「聞こえが良いね、それ。悪くすれば人殺し集団だよ」
村長は苦笑した。
「で、ハモンさん。あんたはどうしてその二人を追っているんだね」
ハモンが葉巻に火をつけると独特な香りが村長の鼻をくすぐった。
「おっと、ごめんよ。いつもの癖で。ちょっとだけ吸ってもいいかい?」
「かまわんよ」
ハモンは嬉しそうに葉巻を吸い、勢いよく空へと煙を吐き出した。
「俺達が追っている男、ベイクってやつなんだが」
やはり、と村長の胸は躍動した。
「前線から脱走した。女と一緒にな。捕まえて殺すんだ」




