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無事にギルドカードを手にし、必要なものを買い足して門に向かった。
意気揚々と門に辿り着いたユイはまたもや門番の警備兵だろうか、立派な体躯のおじさんに子どもと間違えられガックリとうなだれながらも、ギルドカードという強い味方のおかげでどうにかやっと王都を出発することができたのだ。
少し先にギルドで見かけた犬?狼?のおそらく獣人であろう男の人が歩いているのが見えた。
(おお〜、モフモフさんだあ。
あの毛、硬いのかなぁと柔らかいのかなぁ)
そんな呑気なことを思いながら旅に出たのだった。
ーー現在の時刻、黄の4刻(午後3時)
その頃王宮では、ユイについての話し合いが終わりそれぞれが動き出していた。
ただし、アーサーなどは既に通常の執務にうつっていた。
「ユイは大丈夫だろうか。あんなに小さいのに、一人で旅などに出て。
ユクトは探すのは困難だと言っていたが、やはり探すのは難しいのだろうか」
16になるユイだがアーサーの中では見かけのせいでやはり小さな子のように扱われていたのだった。
「そうですね。
何も知らない場所を一人ですしね。盗賊などもいるでしょうし、あのように小さな体では魔法の訓練を私たちが思っている以上にしていたとはいえ、まだまだ初心者といってもいいユイがうまく立ち回れるとも思えません。
ユクト神官長は大丈夫だと仰っておられましたがやはり心配ですね」
まさかユイが思った以上にのんびりと進んでいるとは思っていない王と宰相。
意外とすぐに捜索に出れば捕まえることができたかも、というのは誰も知らない真実。
とっくに王都を出たあとだと思っている二人は今この瞬間、ユイが門を出たとは微塵も思っていないのだった。
そしてユーカは…
「まぁ、ユイがいなくなったのですか!?
やっぱりね」
アルバートからユイがいなくなったことを告げられていた。
そんなユーカは呑気に今頃昼食を摂っていたのだがアルバートが来ると聞いて大喜び!
一緒にどうかと誘ったものの、既に済ませていると断られ、ユーカの前には朝食、アルバートの前には紅茶、という状況で話を聞いていたのだ。
「やっぱり、とは?」
「あの子は昔から自分勝手なんです。今回のことも困っている人がいるのに助けないなんて!
それに勉強だってあんまり好きじゃなくて、きっとそれにも嫌気がさしていたのかなって思うんです」
それはお前だろう、と呆れて話を聞いていた。
「だからそのうち逃げ出すんじゃないかって思ってたんです。
だからいなくなったって聞いてやっぱりって思っちゃって。
こんなにお世話になったのに黙って出て行くなんて恩知らずだわ。
あの、本当にごめんなさい」
白々しい!と怒りのあまりポーカーフェイスも忘れ冷たい目で見られているが頭を下げているユーカは全く気がつかない。
「まぁいい。
とりあえず召喚の儀で現れたのはあなた一人になったのだからこれまで以上に勉学に励んでほしい。一日も早く浄化に旅に出発したいからね」
「あ、そのことなんですけど。
えっとそろそろ出発したらどうかなって思うんです。
聖魔法も使えるしそれこそ一日でも早く浄化をしたいから」
勉強をさぼり訓練もろくにできていないのにこの言いぐさである。
流石に呆れたアルバートは少し厳しい顔をして告げた。
「しかし勉学の方はあまり進んでいないと報告が来ていますよ?
旅に出る以上ある程度の知識は必要だし、魔物などが出ることからも聖魔法は勿論魔法の訓練もしておかないといざという時身を守れないでは困ります」
「えっ!でも一人で旅に出るわけじゃないですよね?
えっと騎士様とか魔術師様?って言うのかな?魔法が上手な人とか何人かで行くんですよね?」
流石のユーカもアルバートの冷たい声に気付いて慌てて言った。
「勿論一人などではありません。
騎士の中でも腕の立つものが数名と魔術師?ではなく魔導師という魔法の扱いに長けたもの、それから回復師といって回復魔法に特化した者、それとS級冒険者が一緒です。
それでも自衛のための術は必ず必要なんですよ」
「なら!それだけ強い人がいるのならきっと大丈夫ですよ!私だって武器は使えないけど魔法は使えるし。
それに何より困っている人たちを一日も早く助けてあげないと!」
全く理解しようとも努力しようともしないユーカ。
これ以上何を言っても同じことの繰り返しだろう、 と説得は諦め言い切って逃げることにした。
「とりあえずまだ出発できません。
出発までの間兎に角勉強も訓練もしっかり受けて下さい。
それでは私は執務があるのでこれで失礼します」
アルバートが去った後ユーカは茫然としていた。
(な、何あれ?なんかものすごく不機嫌?冷たかったよね?あの人もっと優しい人だったよね?
え?なんで?私何かしたっけ?
ってか、勉強とか面倒くさいしとっとと浄化の旅行きたいんだけど)
まさか自分のせいでユイがいなくなったことがみんなにバレていないと思っているユーカはなぜアルバートが自分に対しあんな態度をとるのかも、ましてや優しくしてくれないのか全くわからないのだった。
そしてその苛立ちは当然部屋にいる唯一の人物に向けられるのだ。
「ちょっと!何ぼさっとしてんのよ!もういらないから下げてちょうだい。
あと甘いものが食べたいから紅茶とケーキ持ってきて」
アルバートやタイラーたち地位のある男性の前では態度を取り繕うのだが使用人にまでその必要はないと思っているのだ。
それを逐一報告されているとは自分のことしか考えていないユーカは全く気づいていないのだった。
しかしイライラしつつもユイが出て言ったことでアルバートもそのうち自分の方がいい女だと気づくだろうと思い直し、旅には誰が一緒に行くのかなぁ、と一人妄想の世界に旅立ったのだ。




