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最終話 努力でも才能でもなくて

「ハナー! 遊びに来ましたヨー!!」

 後日談。

 ハーフ&ハーフを倒して数日が過ぎた。

 ようやく平和を取り戻した私は、しかし妖精を倒して魔法力を手に入れることに躍起になったりすることはなく、部屋でゴロゴロしていた。

 なにせ私が苦労して妖精を探して、退治する必要がなくなったからである。

 ハーフ&ハーフの魔法は『分配』だ。

 それを利用して、あいつは妖精に自分の意識を『分配』して操ることができたし、私が妖精を真っ二つにした時は、妖精から得る魔法力を『分配』して、半分を自分のものにしていた。

 そんなことが出来るのなら――自分が手にした魔法力を他人に『分配』することだって、簡単なはずだ。

 私はハーフ&ハーフが現在所有していた魔法力の半分を『分配』して貰い(正確に言うと、二分の一貰ったあと、そのまた二分の一を貰って、そのまた二分の一も貰ってそのまた二分の一も貰ってそのまた二分の一も貰った。三十二分の三十一ぐらい貰ったことになるのか?)、その後、ハーフ&ハーフが魔法力を手に入れるたびに、その半分が私に『分配』されるようにさせた。

 これで私は、今までのようにあくせく働く必要がなくなったのである。

 ああ、楽して手に入れる魔法力は美味しいなぁ。

 と。

 まあ、そんな感じにふざけながらコンビニでお菓子を吟味しているときだった。

 コスプレィヤが私の前に現れたのは。

 ……どうしてここが分かったのだろう。

「魔法少女同士の強い結束感のおかげですネ!」

「本当は?」

「家から出たときからずっと追いかけてましタ」

「普通に恐いわ」

 いつの間にストーカーになっていたんだ。

 ああ、いや。

 こいつが私の家を突き止めたのも、私をストーキングした成果だったはずだ。彼女にストーカーとしての一面があることは、前から分かっていたことだ。私はため息をついて、妖精を真っ二つに切ったばかりの安全カミソリをくるりと回して、ポケットの中にしまうと、魔法少女の変身ドレスアップを解いた。魔法は衣装を着なくても発動するけれども、どれだけ小さくて弱い妖精も、人間と比べれば普通に強いのだという事実を忘れてはいけない。

 そんな私を見て――いつも魔法少女の姿のままで、本来の姿に戻ろうとしない魔法少女、コスプレィヤは「はて」と首を傾げた。


「ハナ、この前、『これで私は働かなくても済む。不労所得万歳!』ってはしゃいでませんでしタ?」

「はしゃいでない。私はクールビューティーだから」

「嘘はいけませんヨ。ハナがはしゃいでいたところは動画で撮りましたし、クールではありませんし、ビューティーでもありませんヨ?」

「やかましい美人ビューティー。撮った動画をよこせ」

「私が綺麗であることに、なんの意味があるんですか?」

「うわ、腹立つ。そのセリフいつも腹立ってたけど、いつも以上に過去最大級に腹立つ」

「ハナはクールじゃなくてキュートです」

「…………」

 返事に困る。

 ゴホゴホとせき込んで、私はコスプレィヤの顔を見やる。

「不労所得は確かに嬉しいけど、でも、手に入る魔法力はあくまでも半分じゃん。楽な分、動きが遅い。私はすぐ、お姉ちゃんを越えたい。だから、妖精退治を続けているの」

「ワオ、ハナは努力家さんデス!」

「これぐらい、努力じゃあないよ」

「じゃあ、どれが努力なんですか?」

「分かったら楽だけど、定義するべきじゃあないとは思うよ」

 もしも『努力の定義』が出来てしまえば。

 全てが『努力』だと認定されるための行動になってしまう。

 学校の成績を上げる方法と、賢くなる方法が違うように。

 定義はきっと、正しいものを間違いに変えてしまう。

 同じ理由で、『才能の定義』も作ってはいけないだろう。

 努力も才能も、結局は、感覚に過ぎない。


「で」

「デ?」

 私はコスプレィヤを睨む。彼女はオウム返ししてきた。

「なんの用?」

「用がないと会いに来ては行けませんカ?」

「『会いたかった』という用があるから、それも用があるになるでしょ」

 どんなものにも理由はある。

 だから、理由ない行動というものは、気持ち悪く感じれるのだ。


「なるほど。相変わらずハナは面倒ですネ」

 コスプレィヤはケラケラと笑ってから。

「ハナに――友達と遊びたくて来ただけデス」

「……だから、べつにあんたとは友達じゃあないって」

「まぁだ言ってるんですカ」

 もはや呆れを通り越して尊敬すらできますヨ。いやはや愚かしい。愚かしい。愚かオリンピック銅メダリストですヨ。

 コスプレィヤは肩を竦めて、やれやれ。とため息をついた。

 せめて金メダリストにしてほしい。いや、欲しくないけど。

 というか、あんたのキャラ設定的に、そんなすらすらと話せていいの?


「キャラ設定なんて捨てちまえですヨ」

「キャラ小説の登場キャラにあるまじき台詞」

「キャラ小説ならもう少し可愛げのあるキャラにしません?」

「それは薄々思ってた」

 こんな人気の出なさそうなキャラばかり集めて。

 なにがしたかったのやら。

 まあ、それはともかく。


「ハナが私のことを友達じゃあないって言ったのは、お姉さんが近くにいて恥ずかしかったからですよネ?」

「そんなんじゃあない。もっとカッコいい理由」

 片手を突き出して制する。

「ほう、どんな理由ですカ?」

「友達なんて、今までいなかったからどうも気持ち悪い」

「めちゃくちゃダサいじゃあないですカ。ひたすら恥ずかしいじゃあないですか」

 まあいいです。とコスプレィヤは放り捨てるように言う。

 あるいはそう、攻略が難しいゲームのヒロインを相手取っているみたいな。誰がヒロインだ。


「そこを否定するのはさすがハナと言いますカ。まあ、いいです。ハナが『私たち親友よね!』ってキラキラした目で言ってくれるまで、こうして、遊びに来てあげマス!」

「ありえない」

 特にキラキラした目ってところが。

 想像するだけで吐き気がする。

 おえっ。

 コスプレィヤはとても似合うキラキラした目で私を見ると(こういうところが、やっぱり苦手だ)、スマホを突き出した。

「まずは連絡先を交換しましょう。QRコードで交換します? 私的にはふるふるがおススメなんですけどふるふるしません? ふるふるしましょう。ふるふるですよ。ふるふるをよろしくお願いします」


***


 ふるふるというものをメチャクチャ押してくるコスプレィヤから逃げて、私は家に戻った。申し訳ないけれども、ふるふるというのが一体全体なんなのかさっぱり分からない。そもそも、連絡先の交換だというのなら、メールアドレス交換ではないのだろうか。若いもんの流行というものは、てんで理解できない。


「ねえ、花ちゃん。なにか欲しいものはない?」

「え?」

 家に帰って水を飲んでいると、お姉ちゃんがそう切り出してきた。

 この前倒れてしまったので、お姉ちゃんは現在お休み状態だ。

「ああ。もちろん才能をくれって言われても無理だからね。あれは生まれついてのものだし、なにより、花ちゃんが私の才能を全部手にしたとしても、花ちゃんは私にはなれない」

「……急にどうしたの?」

 プレゼントをくれるのかと思ったら、現実の非情さを教えられた。

 別に、お姉ちゃんの才能が欲しいわけではないし――無論、努力もいらない。努力も才能も使わずに、お姉ちゃんに勝ちたいのが、私だ――お姉ちゃんになりたいわけでもない。

 急なことに困惑していると、お姉ちゃんはにこりと笑う。

「ねえ、花ちゃん。この世で一番大切なことってなんだと思う?」

「個人差によります」

「花ちゃんの考えでいいから」

「答えではなく、考えることが大切?」

「そう。よく覚えてたね」

 この世で一番大切なこと。

 なんだろう。少なくとも、私が一番持っていないモノであるのは確かだ。

「……同調?」

「人類皆兄弟。仲良く同じように、一緒にいる。うん、それも確かに大切だ。花ちゃんも最近出来るようになってきたよね」

「だからコスプレィヤは別に……」

「私は緑野さんのつもりで言ったんだけど?」

「…………」

「冗談だよ。コスプレィヤさんのつもりでも、もちろんある。怒鳴さんのつもりでもね。四二代さんは……どうだろう?」

「それで、どういう意味?」

「私はね、一番大切なことは『成長』だと思ってるんだ」

 と、お姉ちゃんは言った。

「努力を誉める風潮や、才能を讃える社会を、その恩恵を手にしている私が言うのはお門違いであるとは思うんだけど、私は、そんなに好きじゃあないんだ。だって、努力なんて、才能なんて、結局、手段だろう? 『努力』して、『変わった』。『成長した』。そこでようやく、人は褒められるべきなんだと私は思うよ。努力だけで褒められるというのなら、私は喜んで、漢字をひたすら、機械的にノートに書き写し続けるよ」

 少なくとも私は、努力を誉められて、才能を讃えられて、嬉しいと思ったことは一度もない。お姉ちゃんは断言した。

 持っているもののセリフだなあ。と私は思った。

 私は努力で褒められたことはないが、努力で怒られたことはある。

 努力をしなかったから――怒られたことがある。怒られてばかりだ。


「極論、私は『努力』をしなくても、『才能』がなくても、『成長』をしていたら、褒めるべきだと思うんだ。成長。変化。進化。それは、生命にとって、一番重要なものであるはずだろう?」

「だから、どうしたって」

「花ちゃんも、『成長』したよねって」

「…………」

「私が攫われたとき、今までの花ちゃんだったら、一人で私の元に突撃していたと思う。結果は分からないけどね。でも、今回は、まず作戦を考えれそうな友達を頼って、友達と一緒に行動して、私を、助けてくれた」

 成長したね。花ちゃん。

 お姉ちゃんは嬉しいよ。

 優しく、髪が痛まないように、頭を撫でられた。

 それは、ちょっと、嬉しかった。

 努力でも才能でもないことで褒められて――いや、そうじゃあなくて、そうじゃなくて。

 お姉ちゃんに褒められたのが、こんなに嬉しいとは、思わなかった。


「だから、成長した花ちゃんにプレゼントをあげようと思ったんだ。なにがいい? あげれるものだったら、なんでもあげるよ」

 私は少し考えて、答えた。

 次の日、私の手にはスマートフォンがあって、連絡先にはお姉ちゃん以外に、三人の名前が登録されていた。

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