13.ゼル回想④ 第七航海団
前には魔獣を軽くあしらった白い巨人。
後ろには二百人ほどいる海賊の大船団。
そしてこちらは十三人。
あまりにも絶望的すぎる状況の中、船長がにまりと笑って叫ぶ。
「奴らは俺達をここで潰すつもりらしい!ここが山場だ!腹くくれ!!」
「「「はい!!!」」」
船員の皆が返事をし、戦闘が始まる。
「リナ!展開してくれ!巨人の相手は俺がする!それ以外の奴ら全員で海賊を潰せ!」
船長が一人で巨人を相手にするのを皆が許すはずがないと思っていたが、皆船長を置いて後ろに移動していった。
「わかりました。死なないでくださいね船長!氷床展開!!」
リナさんが魔術を放つ。
今回は流氷ではなく海面を全て氷にし、海賊船と巨人の動きを封じる。
それを相手は見越してか遠距離戦を持ちかけ、無数の攻撃魔術や、魔力弾などを飛ばしてくる。
その弾幕を後衛のたった四人の人達が全て捌く。
「お前らいくぞ!!」
弾幕が晴れたと同時にジオンさんを含めた三人が船から飛び降りようとした時、
「円炎展開」
一瞬でリナさんの氷の床が炎に包まれた。
―――
一方、グラジスタは巨人と打ち合っていた。
「オラァ!!」
障壁を使い、空中を駆け回りながら巨人に打ち込む。
が、六本もある腕にことごとく防がれる。
(コイツ…足凍って動けねぇのに真後ろまで防ぎやがるし、一撃一撃が重すぎる!まともに食らったら体が飛ぶな…ならっ)
真上に障壁をつくり、体を回転させ天井を蹴る。
(狙うは足!!!)
急降下し、足の関節部分に剣を振る。
「超衝撃!!!」
ドゴォォンという音を立てて巨人が片膝をつく。
(しっしゃ!!モロ!!)
「おい、デカブツ!お前図体ばっかデカくて動き遅いな。そんなんじゃ俺に攻撃当たらんぞ?えぇ?」
言葉の意味を理解したのかはわからないが、巨人と目が合う。
「来いよ。」
その瞬間、さっきとは比べ物にならない速度の攻撃がグラジスタを襲う。
「なにっ!!」
腕が六本による手数の多さ。
そしてグラジスタとは比べ物にならないぐらいの大きさとパワー。
(唯一勝ってるスピードも上げられちまってちときついな…何とか反撃して腕でも切り落としたいが、どうしたもんか…)
巨人が一撃打つたびに衝撃波が生まれ、氷に亀裂が入る。
(速度が上がったのは氷による束縛が緩まってきてんのか。リナもあっちで手一杯。なら短期決戦しかねぇな)
魔獣と魔人には魔核が存在する。
そして多くの者は魔核が壊されると身体の力を失うか、絶命する。
そしてグラジスタは魔人であるからか長年の経験なのかはわからないが、
この打ち合いの中で感じていた。
この巨人には魔核か、それに相当する何かを持っていると。
「お前、腹に核があるだろ?さっき膝を攻撃した時、六本ある腕を四本も使って腹守ってたもんなぁ?」
グラジスタが巨人の腹めがけて一直線に跳んで行く。
それを拒む六本の腕。
「そんな一点を守っちまったら六本の意味ねぇだろ」
空中を縦横無尽に駆け回ることで全ての腕を回避し、腕と腹の隙間に潜り込む。
「これでどうだ?衝撃衝撃衝撃衝撃!」
四連撃で肉を削る。
そのえぐれた肉の隙間から紫色の核が見える。
「ビンゴ!!」
巨人が悲痛な叫びを上げるがそれを待たずにグラジスタが畳み掛ける。
「じぁなデカブツ。我流超衝撃!!」
剣を投げ捨てめいいっぱいの力を入れ掌底を放つ。
その攻撃で巨人の核が砕け散った。
核が崩れ落ちる瞬間、巨人の身体から四方八方に魔力弾が発射される。
(なにっ!!これは流石に避けられねぇ!!)
そうして放たれた魔力弾により、グラジスタの下半身が吹き飛ばされた。
―――
敵の炎によりリナさんの氷が凄まじい速度で溶け、水蒸気が一帯を包む。
「これではなんも見えんな」
ジオンさんが船長の加勢に行くか迷う。
しかし、霧の中から正確にこの船を捉えた攻撃が飛んでくる。
こちらは相手の位置がわからず防戦一方となった時、水蒸気の中から突如海賊船が現れ、船と船が激突する。
「なにっっ!」
船が揺れ、振り落とされまいとしがみつく。
が、その時にはジオンさんは海賊船に乗り込まんとする勢いで走り出していた。
「海賊船に乗り込め!この船での戦闘は避けるんだ!」
「どこに乗り込むって?」
ダンッと海賊船から船長の様な黒い服を着た男が現れる。
「一応名乗らせて頂こう。東西南北含めたエスニア海賊団の副団長、アザー・シークだ。まぁ今回は西の拠点の報復というわけだ。あんたらとは戦いたくはなかったがな」
「なら俺も名乗らせて頂こう。第七航海団、副船長のジオンだ。さっきの円炎展開はお前の仕業か?」
「そうだが?それがなに―――」
その言葉言い終える前にジオンさんはアザー・シークという男の後ろに突如転移し、攻撃を放つ。
アザーは攻撃にかろうじて反応したが、衝撃により海の方へ吹き飛ばされた。
この攻撃が先頭の皮切りとなり、乱戦へと発展した。
乱戦になったにも関わらず、航海団の船員はとても強く、
魔術師の人達も海賊の剣士を圧倒するほど近接戦闘が強かった。
しかし数の力と、途中から戦闘に戻ってきたアザーが想像以上に強くジオンさんが食い止めることになり、船長と副船長が不在の為どんどん劣勢になって行った。
皆が放った魔術の後ろにへばりつき、相手が魔術を防御してる隙をついて一撃入れてまた戻るというヒットアンドアウェイを繰り返す。
ただ、そんな力は戦況を覆すには途方もなく足りない。
そんな時、後ろから凄まじい衝撃とともに、何かがが飛んできた。
「船、ちょう……?」
それは船長の上半身だった。
海賊側からは大きな歓声が上がる。
「第七航海団討ち取ったりー!!!」
「おおおおおおお!!!」
船員の皆も、船長の上半身を見て驚く。
しかし、次の瞬間。
「あ??誰が死んだって??」
そう言って目の前にいた海賊を軽く十人吹き飛ばす。
伸びている海賊からズボンを剥き、履く。
ノマド・グラジスタは、第七航海団の船長で、人類最強の男である。
何故そう呼ばれているのか、彼は治癒の天啓持ちで、魔術の枠組みを超えた回復量と魔力効率で治癒を行うことができる。
そうしてさらに彼は吸魔核を持っているため、周りの魔力を取り込み、魔力が枯渇することなく治癒することが可能となっている。
つまり、身体にある魔核が壊れない限りノマド・グラジスタは不死身なのだ。
「船長!よかった!巨人を倒したんですか!?」
「あぁ。倒しはした。だが、状況は最悪だ。右左からさっきと同じ巨人が来ている」
「!?そんな…これからどうするんですか?」
「流石に撤退だ。いくらなんでも二体は無理だ。船を守りきれない。おいジオン!撤退の準備だ!」
そうジオンさんに声をかける。
「ちょっと待て!まだ戦闘中だ!」
「あ?そんなやる奴がいるのか。まぁいい適当に切り上げろよ」
そう言っている間にも船長は次々に敵を倒していく。
弾丸が命中しても、腕が切断されても即時回復するため、疲れている様子は全く無い。
―――いける、生きて帰れる。そう思った矢先、
「そう簡単に逃げられてたまるかよ。お前ら、やれ!」
アザーが海賊達に指示を出す。
船長が海賊達に攻撃をした瞬間、海賊達が爆発して死んだ。
船長は吸魔核を持っているため、船長の周りで発動する魔術は全て不発に終わる。
なのに爆発したということはあらかじめ体内に爆発する魔術を放ち、自爆したということだ。
狂っている。
そう判断する前に第七航海団の一角が落ちる。
「ダグスさん!!」
十人程の海賊達が一斉に爆発し、ダグスさんが致命傷を負う。
それにより、陣形が崩れ、ドミノ倒しの様に第七航海団の船員が死んでゆく。
「皆ぁぁぁぁぁ!!」
さらに爆発により船が燃え始め、新たにやってきた二体の巨人がそれを加速させる様に船を壊す。
船長が船員を助けようと頑張っているが、数の力によりねじ伏せられる。
このたった数十秒、たった一つの想定外。
それにより皆が死んでいく。
誰か…誰か生きている人を探さねば。
そう思い、藁にもすがる思いで周りを見渡す。
ネルネスは、俺の真後ろにいる。
船長は上空を駆け巡っている。
ジオンさんは海賊船の後方でアザーと戦っている。
………リナさんは?
後ろにいるネルネスにリナさんがいないことを伝えようと振り向いた時、視界の端でリナさんを捉えた。
「リナさん!!」
全速力でリナさんの元に走る。
視界全体でリナさんを捉えた時には、
海賊達に囲まれ爆発寸前の状況だった。
リナさんは俺のことに気づき、
泣きながら静かに微笑んだ。
「生きて」
大きな爆発音の中、俺の耳は確かにその言葉を聞き取った。
「リナさああああああん!!」
そうして第七航海団の人達の中でも一番俺たちのことを気にかけてくれた人を失った。
リナさんを失った悲しみにより立ち崩れる。
(俺たちのせいだ、俺たちのせいだ。俺たちがこの船に乗り込んでしまったからこんな事になってしまったんだ。もう、何も考えたくない………)
「おい!!ゼル後ろ!!」
俺のことを追ってきたネルネスが叫ぶ。
真後ろには俺にしがみつこうとしてくる海賊がいた。
(もうこの距離では避けられない。ごめんな、ネルネス。お前も巻き込んでしまって)
半ば自分の死を受け入れ、目を瞑る。
ドカン!!
海賊が爆発する。
が、いつになっても痛みと衝撃がこない。
「大丈夫か?」
恐る恐る目を開けると、そこには転移してきたジオンさんがいた。
「え??じ、ジオン、さん??」
「もうこの船は駄目だな。巨人の攻撃で原型も無くなってしまっている。悔しいがここまでだ」
「ジオンさん何言ってるんですか…」
「見ればわかるだろう?リナも死んだ。船も燃え、原型も無い。しまいには俺もこのザマだ」
ジオンさんの体を見ると木片が背中から貫通していたり背中がズタボロだったり即死でもおかしく無い状態だった。
「お、俺を庇ったから…?」
「気にするな。どのみち俺は死んでいただろう。まぁいい。これからのことを話す。今、俺はダグスの流魔核によって船員の魔力を全て俺に注いでもらった。この魔力を使い、お前達を全力で陸の方へ転移させる。転移したら全力で陸を目指せ、そして生きろ」
「ちょっと待って下さい!何で俺たちなんですか!?船長!それか他の人の方がいいですよ!」
「俺は魔人じゃ無いからな。魔力を溜めているだけでも体が持たなくて崩れ始めている。だから飛ばせるのは近くにいるお前達だけだ。それに、この船に乗せた責任は俺にある。グラジスタの反対を押し切りお前達を乗せた。なら大人として責任は取らなくてはいけない。そういうことだ」
「そんな…」
話している間にも俺たちの体は透けていく。
転移が発動するのだ。
「あぁ、そうだ。最後に言わなくてはいけないことがあった。今こんな状況にあるのは決してお前達のせいではない。そんなんで崩れるほど俺達は弱くはなかった。それに、俺達の船長はここで死ぬ様なタマじゃない。グラジスタが生きて帰った時にあいつの居場所を用意しておいてくれ。じゃあお前達、強く生きろよ」
その言葉を最後に、俺たちは地獄から生還した。
―――――――――
その後は、転移した場所は海で漁師の人に引き上げてもらい、無事貧民街に戻ることが出来た。
一ヶ月後、赤旗が港に流れ着いた。
本当にあの後ソテリアを見つけたのかはわからないが、旗と一緒に木片なども流れ着いたため、少なくとも船はもう沈んでしまったのだろう。
そこから俺たちはひたすら強くなるよう努力した。
しかし、俺にはネルネスのように天恵もない為、死ぬ気で努力をした。
孤児院のお金を俺たちが稼ぐ。
そう心に決め、色々な依頼などを受けた。
賞金首を狩ったりなど必要とあらば殺しもした。
王族に近づき、孤児院の資金を増やしたり、航海団の設備を整えたり、海賊の取り締まりを厳しくしたりなど出来る権力がある仕事、家庭教師などになれるように学校に通わずとも勉強した。
良いところの教師になる為、一人称を俺から私に変えたりもした。
あの航海から六年後、貧民街の人達の援助もあり、王立学校の教師になった。
私がお金を稼ぎ、ネルネスが現場で働くと分けるようになったのもこの頃だ。
そうして今はキースとソーンというどこか昔の自分達のような子供を育てている。
―――――――――
と、そのようなことを思い出し、ほっと息をつく。
今日はネルネスによるキースとソーンの初めての特訓だ。
様子を見る為、何度も通った酒場の扉を開ける。
「ネルネス、いるかー?」
どうもこんにちは脱力鍋です。
更新が遅れてしまい申し訳ございません。
これからは五日にいっぺんにぐらいになりそうです。
ということは置いておいて、今回はゼル回想最終回ということもあり、いつもの倍以上の長さになってしまいましたが、サービス的な感じです。(一話で終わると言った矢先二話には出来ないからでは決してありません。決して)
第七航海団のお話は楽しんでいただけたでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
ぜひなにかアドバイスや、質問、修正したほうがいいところなどがあったら是非教えてください。
次回からはヴァンスくんのお話に戻ります。
ではまた。




