第2話 橋本部長の秘密のコバコ3
「やーまーもーとー」
「ひっ、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
何故か安全カミソリを手にした部長にバックを取られ、僕は引きつった。
(―――何故ここへ部長が、何故ここに部長が、何で保健室の壁が開いて部長が?)
「そういえば、何で壁が開いたのかしら?」
「観察が甘いな大咲。このポスターの裏にある、秘密の押しボタンを見たまえ」
部長は高笑いしながら、虫歯の出来るわけのポスターを剥がして、保健室の壁を軽く押した。
すると、ギュウイイインという機械音と共に、壁が回転して鉄製のものと交代する。
『―――ドアが開きます、ご注意願います』
「……はっ? え っ? いや、な、なんで保健室にエレベーターが平然と設置されているんですか!?」
「あら、エレベータなんかあったんだ」
お茶を飲みながら、のん気に言う大咲先生。
「あったんだ。じゃないでしょ! どうして、公立中学にこんなものがあるんですか? というか、ボタンが下表示のみって事は、まさかとは思うけど科学部直送エレベーター……」
「うむ、察しが良いな。昔作った」
「作ったって部長!」
なんだか、海が見たくなってきた。
このまま海に部長を沈められたら、どんなに素敵だろう?
「見ての通り、理科室と保健室は昔からエレベータで繋がっている。
少し前までは他にも色々な機械もあったのだが、残念ながら教育委員会に見つかってしまってな。残念な事に、ちょっとした問題になって全部撤去されてしまったんだ。ま、私としては師匠が残した超時空アンドロイドさゆりがまだ残っていることだし、安心して学生を続けられるものだがな」
「じゃあ、これからは、階段使わなくても楽ちんね……」
(―――そ、そーゆう問題じゃない)
おかしいだろ、何で公立の学校にエレベータが備え付けてあるんだよ?
何で、理科室と保健室を繋ぐ必要があるんだよ?
「何を言っているのだ山本。校長も承知の話だぞ。その昔、科学部と保健室との深い抗争があって……」
「そうそう、爆破の跡があったのよねこの保健室」
「うむ、保健室に爆破は付き物だからな! しかし、さゆりが残っていたのは素晴らしいことだ。
彼女は人類初の分子破壊砲を備えたスーパーアンドロイドだからな。行くぞ山本っ!」
そしていつものように、僕は部長に引きずられながら理科室へと連れて行かれた。
降りていくエレベータが、地獄への直行便のように思える。
「やだーーっ! 僕はイヤだーーっ!
こんな学校転校してやる、こんな学校廃校されればいいんだ!」
――――――
それから僕は、理科室に無関係の生徒を大咲先生が呼んでいると伝えて二十人ほど集めた。
集まった方が悪いのだ、僕は悪くないんだと心の中で訴えながら、必死の叫びは「大咲先生に言われてやりました」とすっとボケて告げる。
お前ら教師がもうちょっとまともな学校を作っていたら、僕はこんなに苦労しなかったんだぞ!!
「さて……ようこそ、純粋なる一般生徒の諸君!」
更にガシャンと入り口に集中ロックがかかり、どよめく生徒達の叫び声が鳴り響く。
生徒達は理科室中央のテーブルに立つ部長の姿に怯えている。そして、背後にそびえる巨大な秘密のコバコを見て、崩れ落ちていく。
脱出方法はなく、目の前には黒い人間外の物体と化した触覚を生やした部長。当然のように僕をにらみ付ける生徒達。どうすることも出来ず、そ知らぬそぶりで僕は口笛を吹いた。
「はーっはっはっはっはっはっはっは! ! よくぞ集まったか弱き生徒達よ。別に、この間の選挙で私に投票しなかったのを恨んでいるわけではない。たしかに、ちょっと腹駄々しいものもあったが、寛大な私は許そう! 」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!」
「この間の変質者よ、どうしよう殺される、助けてお母さんお父さん、ポチ!」
そして再び、闇夜の黒きコバコが理科室に落ちてきた。部長が謎のコバコをちょんと叩くと外箱がはずれ、中から赤い屋根の家のようなものが現れ、生徒達は悲鳴を上げた。
「うむ、いいか、これは思春期を迎えた男女が闇に紛れて粘着テープに絡まるというナイスなひと時を送るための装置だ。この黒いゲージの中に入って粘着テープに絡まると、どうやっても専用の薬剤を使わなくては脱出できない構造になっていて、思春期の、性なる日々を体感できるという画期的な発明!
ドアを閉じてしまえば完全に密封され、中に入った人間は永遠に出る事は出来ない! 大丈夫だ、表札の上の空気穴から酸素は行きわたるし、性の日々が体感できればコバコは解放される。素晴らしい技術ではないか、この科学技術は是非とも世の中の役に立てなくてはなるまい! 科学部最後の砦とも言えるこの装置を味わう事が出来た事を、心から感謝するといい! 君達は私の思春期の欲望を満たすための実験台として選ばれた貴重なサンプルだ! さあ、私とともに、このコバコに入って、粘着テープに絡まりながら思春期の欲望を満たそうではないか! 」
「ごめんなさい、ごめんなさい……。僕にはこうするしか…………」
「―――さあ! 私 と一緒にゴキプレイを楽しみたい者! 手を上げろ! ! 」
長い長い静寂が、理科室に包まれる。
「……ぶ、部長! まずはお手本を見せてください!」
「なんだ山本、実験をするにはまずサンプルからだろうが」
「よ、よく分かりません。見本をお願いします」
「いや、だからだな。扉を開けたら粘着テープに絡まって……」
「よくわかりません、見本をお願いします」
「……………っ! よ く見ておけよお前ら! ! こうやって粘着テープに絡まって! 」
ガチャ
「今だ! 出入り口をふさいで、二度と出てこられないようにしてやる! 」
部長が粘着シートにからまったのを見計らって、僕は走り出した。理科室の怪しげな装置や薬品をコバコにぶち込んで、準備室からガムテープを探し出し入口を塞ぐ。
「き、き、き、貴様― ― ― ! ! 山本の分際で裏切る気か!」
空気が一切漏れない事を確認してから、ゴキブリホイホイの窓に貼り付けたテープをずらし、部長が用意しておいたゴキコロリを噴射。
「ま、待てぇぇぇぇぇぇ! それは、その薬品は! 」
辺りには異臭が漂い、部長の叫び声も段々と小さくなっていく。とどめとばかりに、隠し持っていた薬品棚のカギを使って濃硫酸の瓶を取り出し、空気穴から三本ほど垂れ流す。
何故か、コバコは硫酸に溶けなかった。
うわあぁぁぁという部長の声を確認してから、今度は前より強くコバコにガムテープとビニールを巻きつけた。そして、生徒達をエレベータで保健室へと移動させ、残りは部長だけになったのを確認すると、とどめとして密閉された理科室に二酸化炭素の瓶を注入。最後に何故か置いてあった爆薬をコバコ目掛けて投げつけて僕も脱出を果たした。
「勝ったんだ! 僕 はついにあの男の呪縛から逃れたんだ! ! やっほーーーい! ! ! これで明るい学生生活をおくれるぞ! ! 」
保健室へと行ってみれば、先ほどの生徒達が涙を流しながらに感謝の言葉を伝えてくれる。
窓から見える空が広く、どこまでも青かった。そうか、殺人者はこんな衝動でやってしまうんだ。
―――長い月日を経て悪は滅びた。
翌日、部長は何事もなかったかのように登校していた。




