第1話 橋本部長の生徒会選挙1
ここは、都内にある第三中学。
埼玉県と東京都の狭間に彷徨い、草加市なのか都内なのかいまいち微妙な位置にあるかよい町に位置する。この学校の特徴は、とにかくやる気が無い事。校風は、何とも微妙な「地域社会に密着した明るい学生生活」を掲げている。
普段から地域緑化や校外学習に力を入れているが、運動部などの活躍は全くないため知名度は断トツのビリとして、都民には親しまれている。完全にビリの成績かといえばそうでもなく、適度に目立たない程度の活躍ぶりを見せているのが素敵な学校だ。
そんなパッとしない中学に僕が入学した事から、僕と第三中学との長い戦いが始まる。
入学式も終わり、午後のHRの時間。
部活の勧誘に躍起になっている上級生たちは外で準備に追われ、僕たちは部活動一覧のプリントをぼーっと眺めていた。
僕の名前は、山本はじめ。一般的な家庭に育ち、戦争に行ったおじいさんに厳しく育てられた中学一年生の一二歳だ。学校の成績は並み程度で背も高くないし運動も苦手。
将来の夢は公務員になって明るい老後を過ごす事を目指している、いわゆる第三に相応しいやる気のない学生。
「おっす、やまもと君! 部活動は何にするか決めたかね?」
同じ小学校出身の英ちゃんが、軽快な足取りで僕の机にやってくる。
いわゆるキラキラネームを付けられた不幸な男子のため、彼の名前が何なのかはクラス一同誰も知らない。
「何だ、またお前と同じクラスかよ・・・」
入学式のクラス割り当てでもしやとは思ったが、クラス名簿にまで「英ちゃん」と書いてある辺り、この学校のやる気のなさを物語っている。
「まあそう言うなよ、腐れ縁ってやつだろ?」
「しかし、この学校本当にやる気が無いな。過去の中体連全部負けてるし、ビリにすらなってないし」
「噂によると、手芸部だけは全国的に有名らしいぜ」
「手芸部が有名な学校とか、そもそも聞いたことないけど」
やたら重い窓を開けて見てみれば、校庭で勧誘しているのはどう見ても文化部。
運動部は己の練習に勢力を掲げるだけで、部員獲得に動こうともしなかった。
「本当に、やる気が無い学校なんだな」
普通なら運動部系がメジャーに活躍している処だが、目ぼしい部活の案内で出てくるのは演劇部に珠算部。予算の大半を占めているのが園芸部か文芸部。それから、何故か有名らしい手芸部と、女の子が喜びそうな部活しか出てこない。
「オレは帰宅部にするけど、山本はまた理科部にでも入るんだろ?」
部活の一覧には理科部は無かったが、科学部は有った。
しかも部室は、理科室と準備室の2つを占めているし、それなりに部員も多そうな気がする。
「うーん、それにしようと思ってたんだけど・・・てゆか、帰宅部という項目が普通にあるんだな」
「下校時間を守って、それ以降は校舎に立ち入らないというルールを守る三年間だそうだ」
「それって、部活として成立している・・・のか?」
「ま、お前は理科室でべっこう飴作る実験とかバンバンやってくれよ! べっこう飴って旨いよなー、あのパリパリになった所がたまらないぜ」
「また、部活と称したお菓子作りの日々か・・・」
「うん! 楽しみに待ってるからなー!」
英ちゃんは元気よく手を振ると、帰宅部の部活動へと向かった。ようは帰宅したわけである。
「・・・科学部か、本当はラクロス部にしようと思ってたんだけどな」
クラスは離れてしまったが、小学校の卒業式に両想いとなった彼女の舞ちゃんと同じ部活に入れば、それだけ接点は増える。
合宿とかも一緒だし、帰り道も一緒だし、あわよくば手を繋いでの登下校とかもやりたい。
「でも僕は、運動苦手だからな・・・。ま、科学部に入部するのも悪くはないか」
願望には実力が伴わない、だからといって練習して下手な所を毎日見せるのも恥ずかしい。
虚しい欲望を抱えつつ、僕は部活一覧記載の見取り図を頼りに、理科室へと向かう。
「なんだこの、最新設備の整った理科室?」
よほど力を入れているのか、それとも何となく適当に追加されたのか。
他の教室がくたびれているのに、理科室はピカピカの新築状態を保っておりクーラーまで備え付けている。が、たくさん部員がいるのかと思えば室内はガラーンとしていて、誰かがここで部活をしているようには見えなかった。
「―――部員の勧誘でも、外でしているのかな」
「どうした、こんな所で道に迷ったのか新入生らしき少年よ!」
「あ、はい。ちょっと科学部に入部希望できたんですけど・・・」
いきなり背後を取られて、僕は身構えた。
どこから入って来たのか、ぐるぐるの分厚いメガネの上級生らしき人は何故か入り口のドアをロックする。上級生ではなく変質者なのだろうか、制服ではない白衣姿がとてつもなく異質に思える。
「うむ、入部希望とはめでたい! 貴様の名を名乗るがいい!」
「えーっと、一年三組の山本はじめって言いますけど……」
「私の敬愛する山本五十六閣下と同じ苗字ではないか! よし! 入部を許可する。
私は部長の橋本橋蔵、中学三年生で唯一の科学部員だ」
「・・・・・・はっ?」
翌朝、うわさを聞き付けた英ちゃんが僕の席に来て精いっぱいの謝罪をする。
「いやー、山本。超悪かったー。なんか、科学部ってこの学校で最大の悪質な部だってさ」
「・・・あ、あのう。やっぱり、退部するとか出来ないのかマジでww」
「めんどいからヤダってさっき担任の先生が言ってたぞ。何でも、部長とやら脅されたみたいだし、ま、科学の知識が身に付くって素敵だと思って諦めろよ」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕の入部は学校中に知れ渡り、その後彼女の舞ちゃんからLINEをブロックされたのであった。




