125話 街灯の漏電不良と、特大雷鰻の蒲焼丼
古代遺跡での極上ステーキと論理パズルを満喫した俺たちは、再び新たな大陸の街道を進み、日暮れ時にルミナという小さな宿場町に到着した。
この街は、夜になると街道沿いに並んだ美しい魔導街灯が灯ることで有名な場所らしいのだが……今日はどうも様子がおかしい。
街灯の光がチカチカと不規則に点滅し、時折バチッ! バチバチッと危険な火花を散らしているのだ。
『ピロロロッ。マスター、街の魔導回路の電圧が極めて不安定です。どこかで異常な負荷がかかっています』
シロが上空から街灯を見下ろしながら報告する。
広場では、街の長老や住民たちが頭を抱えていた。
「おお……なんてことだ。街の動力を生み出す『雷鰻』様がお怒りなんじゃ。このままでは街の灯りが全て消えてしまう……」
「雷鰻? なんだそりゃ」
俺が尋ねると、長老がため息をつきながら答えた。
「この街の地下水路には、雷の魔力を放つ巨大な鰻の魔物が住み着いておりましてな。その鰻が放つ電気を魔導線で集め、街の明かりにしているのです。だが、今日は光がチカチカと……きっと、我々の扱いが悪くて機嫌を損ねたに違いない」
俺は点滅する街灯と、火花が散っている柱の根本の「中継ボックス」を見上げて、ニヤリと笑った。
「長老さん、それは鰻の祟りでもお怒りでもない。漏電によるショートだ」
俺はインベントリから、電気工事用の絶縁手袋とテスター、そして圧着ペンチを取り出した。
「いいか、発電側が元気でも、電気の通り道である配線に問題があればエネルギーはロスする。特にこういう屋外の配線は、雨水や経年劣化で被膜が破れ、電気が外に逃げちまうつまり、漏電することが多いんだよ」
前世で苦労して取得した第2種電気工事士の知識と、現場での実務経験が役に立つ。
俺は街のメインブレーカーの魔力遮断器を落として安全を確保してから、火花を散らしていた中継ボックスの蓋を開けた。
案の定、内部の配線を繋いでいる部分が黒く焦げ、雨水が侵入してショートを引き起こしていた。
「やっぱりな。結線部分の処理が甘くて、接触不良から過熱を起こしてる。これじゃあチカチカ点滅するわけだ」
俺は焦げた配線の先端をワイヤーストリッパーで綺麗に切り落とし、新しい銅線を剥き出した。
そこに、複数の線を束ねて接続するリングスリーブという金属製の筒を被せる。
「手で捻ってテープで巻くだけの素人仕事じゃダメだ。この圧着ペンチで、スリーブごと物理的にガッチリと潰して一体化させる!」
ガチャンッ!!
ペンチの強力なテコの力で、銅線と金属スリーブが完全に圧着され、絶対に抜けない強固な結線が完成した。
その上から防水、絶縁の自己融着テープを隙間なく巻き付け、完璧な絶縁処理を施す。
「よし、ブレーカーを上げるぞ」
カチン。
スイッチを入れた瞬間、チカチカと瞬いていた街灯が、嘘のように安定した温かい光を放ち始めた。
「おおおっ! 直った! 街灯が元通りになったぞ!」
「鰻様のお怒りが鎮まったんじゃ!」
喜ぶ住民たちを前に、俺は「いや、だから配線不良だっての」と苦笑いするしかなかった。
「旅の職人殿、本当に助かりました。これはお礼です。増えすぎて困っていた特大の『雷鰻』を間引いてきましたので、どうかお納めください」
長老がドスンと差し出してきたのは、大人の足ほどの太さがある、丸太のように巨大な鰻だった。
「よし、こいつはいい。極上の『鰻の蒲焼』にしてやるぞ」
『ニャアアアッ! 久々の長細い魚ニャ! 楽しみニャ!』
クロがヨダレを垂らして尻尾を振る。
俺は巨大な雷鰻の頭を、まな板に『目打ち』でガッチリと固定し、専用の小刀で背中から一気に切り開いた。
「腹から裂くのは『切腹』を連想して縁起が悪い。だから背開きにするのが関東流だ。綺麗に骨をすき取り、串を打つ!」
まずは、味付けをせずに炭火でじっくりと白焼きにして、皮目がパリッと香ばしく焼けたところで、俺は蒸し器を取り出した。焼いた鰻を一度蒸すことで、余分な脂を落としつつ、身を極限までフワフワにする。
湯気を上げる蒸し器の中で、雷鰻の極厚の身がふっくらと膨らんでいく。
そして、いよいよ仕上げだ。
前回の泥鰻に使った特製タレの壺に新しく醤油、みりん、酒、そして世界樹シロップを煮詰めて継ぎ足し、蒸し上がった鰻をドップリと潜らせる。
それを再び、ウチワで煽りながら炭火の上へ!
ジューーーーーッ!! ボワァァァッ!
タレと鰻の脂が炭に落ちて焦げた瞬間、醤油とシロップの暴力的なまでに香ばしい匂いが、夜の宿場町に爆発的に広がった。
「完成だ! 炊きたての白飯に乗せて、世界樹のスパイスと山椒を軽く振れば……特製特大雷鰻の蒲焼丼だ!」
『ニャアアアッ! 匂いだけで気絶しそうニャ!』
クロが、丼に顔を突っ込んで大口を開けた。
フワッ……トロォォォッ、ジュワァァァァッ!!
『――――ッッ!! ニャ、ニャムゥゥゥゥッ!!』
クロの瞳孔が全開になり、全身の毛がブワッ!と逆立った。
『な、なんだこの柔らかさは!? 蒸したおかげで、分厚い身が噛まなくても舌の上でとろけて消えるニャ! そして皮のパリッとした食感と、香ばしい甘辛いタレが、濃厚な鰻の脂と白飯を、悪魔みたいに完璧に結びつけてるニャァァ!』
シロも嬉しそうに羽をパタパタさせながら啄む。
『ピロロロッ。驚異的な食感のコントラストです。炭火で焼かれた皮の香ばしさと、蒸されてフワフワになった身。そしてタレの浸透圧が、完璧な味の階層を作っています』
俺も、鰻とタレの染みたご飯を一緒にかき込んだ。
「……っっかぁぁぁ!! うんまァァァッ!!」
口に入れた瞬間、炭火の香ばしさが広がり、次いでフワフワの身から濃厚な脂がとろけ出す。それを甘辛いタレと山椒のピリッとした香りが引き締め、白飯を無限に欲する最強のループが完成していた。
「プハァッ……。漏電修理の後の鰻丼。これだから旅はやめられない」
第2種電気工事士の圧着技術が街の明かりを取り戻し、その報酬は甘辛いタレの香りと共に、俺たちの胃袋を極上の幸福で満たしてくれた。
温かい光に包まれたルミナの街で、俺たちは最後の一粒までタレご飯をかき込むのだった。
【第125話:完】
収穫: 街灯の漏電修理、特大雷鰻。
知識更新: 屋外の配線不良の漏電は、リングスリーブと圧着ペンチで確実に結線し、自己融着テープで防水すれば直る。鰻のタレは継ぎ足しをすることでしか育てることはできない。自分だけのタレを目指せ!
現在の気分: 炭火に落ちるタレの匂い。あれだけでご飯が三杯は食える。鰻丼は日本人のDNAに深く刻まれた至高の食い物だ。




