106話 絶壁の村の『硬固な石芋』と、トロフワ黄金の特製ジャーマンポテト
ポルトマーレとアカシロで「タコ焼き」と「明石焼き」の無限ループを生み出し、両街に莫大な経済効果をもたらす予定の俺たち。
次なる目的地を目指し、急峻な山々が連なる高原地帯へと足を踏み入れていた。
「ハァ……ハァ……ミツトメ様、山道が急すぎますわ……」
ミーニャ王女が疲れた様子で俺の袖を引っ張る。後ろでは、重い荷物を背負った騎士ガルが膝をガクガクと震わせていた。
「もうすぐ山頂の村だ。そこで少し休もう」
辿り着いたのは、絶壁の縁にへばりつくように建つ小さな開拓村『ラピス』。
だが、村の広場には活気がなく、村人たちが険しい表情で小さな袋を囲んでいた。
『ピロロロッ。マスター、村人たちが集まっています。どうやら食糧問題のようですね』
シロが空から状況を実況する。
「また厄介ごとか?」
俺たちが近づくと、村長らしき老人が深いため息をついた。
「あぁ、旅の方か。恥ずかしいところを見せたな。この村は土地が痩せていてな、育つ作物といえば、この『鉄殻芋』くらいなのだよ」
村長が差し出したのは、黒っぽくてゴツゴツした、拳大の芋だった。
見た目はただのジャガイモに見えるが、地面に落とすと『ゴツン!』とまるで石のような重い金属音が響いた。
「な、なんだこの硬さは!? 石コロじゃないですか!」
ガルが驚いて声を上げる。
「そうなんじゃ。この芋は栄養が豊富なんじゃが、皮が鉄のように硬く、そのまま煮ても焼いても歯が立たん。何時間も薪をくべ続けてようやく柔らかくなるのだが、この高地では貴重な薪をそんなに消費できん……。結局、大半を捨てておるのが現状なんじゃ」
『ニャア……食えるのに薪がないから捨ててるなんて、もったいないニャ!』
クロが不満そうに尾を振る。
「……なるほどな。高地だから気圧が低くて水の沸点が下がり、余計に火が通りにくいってのも理由の一つか」
俺は腕を組み、ニヤリと笑った。
「村長、この鉄殻芋、俺に少し分けてくれないか? 薪をほとんど使わずに、一瞬でホクホク柔らかくする方法を見せてやるよ」
俺は村の広場の中心に、インベントリから前世で重宝していた『プロ用・特大魔導圧力鍋』を取り出した。
「いいか、高地で煮炊きがうまくいかないのは、空気(気圧)が薄いからだ。なら、鍋の内部を力ずくで『超高気圧(正圧)』にしてやればいい」
皮を剥いた鉄殻芋をゴロゴロと圧力鍋に放り込み、少量の水を入れて蓋をガチッとロックする。
カセットコンロの火をつけると、数分で鍋のピンが跳ね上がり、シュシュシュシュッ!と勢いよく高圧蒸気が吹き出し始めた。
【ナビ:鍋内部の気圧が2気圧を突破。水の沸点が約120度に上昇。鉄殻芋の頑丈なデンプン組織が急速に加熱・糊化されています】
「通常なら数時間かかる熱通しが、この圧力鍋ならたったの『7分』だ」
時間を計測し、火を止めて圧力を抜く。
ピンが下がり、蓋をパカッと開けると――立ち昇る湯気と共に、甘い芋の香りが広場中に弾けた。
竹串を刺すと、先ほどまで石のように硬かった芋が、まるで豆腐のようにスッと通る。
「す、凄まじい……! あの鉄殻芋が、たった数分でこんなに柔らかくなるなんて!」
村長たちが目を丸くして震え上がった。
「よし、柔らかくなったこの芋を使って、最高の『現場スタミナ飯』を作ってやる」
熱したフライパンに、厚切りにした『特濃スモーキーベーコン』を投入。
カリッカリになるまで炒めて肉汁と脂を引き出し、そこに大きめの乱切りにしたホクホクの鉄殻芋と、スライスした玉ねぎを加える。
ジュワァァァァァッ!!
ベーコンの薫製香と脂の旨味が、芋の表面にぐんぐんと吸い込まれていく。
塩、大量の黒コショウで味を調え、仕上げにたっぷりのバターとおろしニンニクを投入。
「そして、これが俺流の隠し味だ」
俺が取り出したのは、二日前の温泉郷で手に入れた『特製とろけるシュレッドチーズ』と『粒マスタード』だ。
粒マスタードの酸味がベーコンの重たさを消し、チーズが全体の旨味を完璧にコーティングする。
「完成だ! 特製『鉄殻芋のトロフワ黄金ジャーマンポテト』だ!」
「ミツトメ様! 私が一番にいただきますわ!」
ミーニャ王女がスプーンで、チーズがとろりと伸びる芋とベーコンを掬い、口へと運んだ。
ハフッ、ホクホクッ……!
「――――っっっ!!!! ふぁぁぁぁっ!?」
ミーニャ王女の瞳が大きく見開かれた。
「な、なんて香ばしくて美味しいのですか!! 表面はカリッと香ばしいのに、中は信じられないくらいホックホクでクリーミー! ベーコンの強烈な塩気とニンニクのパンチを、芋の優しい甘みが受け止めていますわ!」
王女が感涙を流しながら大口で頬張る。
「そして、このマスタードのプチプチとした食感と爽やかな酸味! とろけるチーズのコク! 薪の心配をしていた貧しい村の芋が、王宮の宴にも勝る最高のディナーに化けましたわぁぁっ!!」
『ニャアアアッ! 芋が脂とチーズを吸って化け物レベルに美味いニャ! 止まらないニャ!』
クロが耳を倒して夢中で皿を舐めまわす。
騎士ガルも、山登りの疲労を一気に吹き飛ばすように芋を掻き込み、涙を流した。
「う、美味すぎる……! 疲れた身体に、このニンニクとベーコンの脂、そしてホクホクの芋が五臓六腑に染み渡りますぞぉぉっ!」
村人たちも恐る恐る口に運ぶなり、「これが俺たちの芋なのか!?」「美味ぇ! 美味すぎる!」と大歓声を上げ、広場は一瞬にして祭りの様相へと変化した。
「……旅の職人様! いや、師匠!」
村長が俺の前にひれ伏すように手を握りしめた。
「この『圧力をかける鍋』の構造と、このポテト料理の作り方……どうか、村に教えてくだされ! これがあれば、薪の節約どころか、この村の芋が街道の名物料理になる!」
「もちろんそのつもりだ。構造が単純な『簡易式の鋳造圧力鍋』の設計図を書いて置いていく。この『ジャーマンポテト』をラピス村の新たな名物にしてくれ」
「おおお……! ありがとうございます、ありがとうございます!」
高地の貧しい村を救ったのは、前世の圧力技術(正圧)と、熱々のジャーマンポテト。
夜の帳が下りる中、絶壁の村には香ばしいニンニクとバターの香りが漂い、村人たちの幸せそうな笑顔がいつまでも弾けているのだった。
【第106話:完】
収穫: 絶壁の村の食糧問題解決、鉄殻芋の大量確保。
知識更新: 高地での調理は気圧が低いため煮えにくいが、圧力鍋で「正圧」にすれば石のような芋も7分でホクホクになる。ジャーマンポテトにチーズと粒マスタードを足すと最強。
現在の気分: バターとニンニクとベーコンを吸ったジャガイモは、間違いなく人類の至宝。冷えたビールが欲しい




