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6 お断りします


 「春祭りへ一緒に行かないか?」彼のその一言からそれは始まった。


 現在は、いつも通りに王子が押し掛けてきて、その対応をちょいちょいとすまそうと軽くあしらっていたのだけど、まぁ、面倒なことに、誘われてしまった。だいたい一々言葉が格好いいから腹が立つ。

 冷たい視線を王子に向けながら、私は腕を組んだ。


「本気で言ってるの?」


「ああ、アリシアも春祭りがあるって知ってるだろ」


「ええ、もう三日後なんだけど……」


 こんなに急に誘ってくるとは思わなかったわ。

 というか、誘ってほしいとも思っていなかったし、それ以前に家に来て欲しく無かった。やだ、謀反の疑いあり。そのまま処刑ルートまっしぐらじゃないですかぁ!

 ……いや、笑えないわよ?

 脳内茶番劇に幕を下ろして、私は再度王子に視線を向ける。彼は若干申し訳ないというような顔をしているものの、穏やかな笑顔を決して絶やさない。


「いや、それについてはすまないと思ってる。もっと早くに誘ってればと自分でも思ってるよ」


「誘って、なんて一言も、言ってないのだけど……」


 呆れながら声にも分かるように王子に伝えるが、それも王子は気にしないようだ。サラリと私の言葉をスルーした後、王子は食い入るように私に詰め寄ってきた。


「それで? 来てくれるか!?」


 私の答えは決まっていた。


「い・き・ま・せ・ん!!」



◆◆◆



「お嬢様、良かったのですか?」


 場面は変わって王子が帰った後の自室である。

 クリアと私の二人きりで魔法書を読みながらまったりタイムを満喫しているところである。

 私はお茶を啜りつつ、ホッと息を吐いてティーカップをテーブルに静かに置いた。


「いいのよ。そもそもこっちの予定も確認せずに急に誘ってくるなんて、あまりにも勝手です」


「僭越ながらお嬢様。その日は何も予定がなかったと思われますが……」


「そうだったかしら? まあ、そもそも受ける気なんて無かったからどうでもいいことね」


 前提として、王子の頼みをなんでも聞き入れてあげる、なんて甘いことを考えることこそ間違っている。

 人は甘やかすと後々どうしようもなく我儘で、碌でもない人間に成り下がる。時には我慢させるということも必要なのだ。加えて、単純に王子と関わりたくない。

 私がそんなことを考えているのを全く分かっていないクリアは「お嬢様は恥ずかしいのですね」なんて見当違いのことを言っているが、敢えてその言葉をスルーすることにした。変に否定すれば、増長することが目に見えているからだ。


「そんなことより、この部分が分からないんだけど……」


「ああ、そこは少し覚えるのにコツがいるんですよ。いいですか──」


 クリアは魔法についてのことを尋ねると、途端に目を輝かせて教えてくれる。

 続けたくない話を終わらせる時にこの技を使うと高い確率で魔法の勉強に話題がシフトするのだ。我ながらよくできたと思う。


「ああ、そういうことか……」


 しかも、話題を変えるのに本当に分からないところを質問すれば、クリアが丁寧に教えてくれてその部分についての教養も高まる。一石二鳥とはこのことなのね。

 

 それから暫く、魔法について軽めに教えてもらっていると扉をノックする音が聞こえて来る。


「どうぞ」


「失礼します。あの、少しよろしいですか?」


 扉を僅かに開けて、顔を覗かせるように出てくるのは、我らがコルトちゃんである。相変わらずの可愛らしい見た目はやはり甘やかしてあげたくなるような気持ちをくすぐってくる。


「どうしたの?」


 聞くとコルトちゃんは少し戸惑ったような顔で言う。


「その……春祭りのことなんですけど」


 さて、残念ながらこの話題から逃れることはできないらしい。掘り下げられることほど嫌なことはない。しかし、コルトちゃんに対して声を荒げるというのも筋違いという訳であって、つまり……。


「そうでした。お嬢様、マクロ殿下との春祭りの話は……」


 クリアがこの話を思い出してしまうことも仕方のないことなのだ。

 クリアがそんなことを言うので、コルトちゃんもまたその言葉に驚いたように目を大きく見開く。


「えっ、お嬢様! マクロ王子に誘われたんですか!?」


「そうなんです。なのにお嬢様ったら、断ってしまって」


 クリアは嘆くようにそんなことを言うが、私にとっては全然なんとも思っていない。むしろあそこで王子が引いてくれのは嬉しくもある。

 コルトちゃんは、私の顔とクリアの顔を交互に覗くと、少し残念そうな顔になる。


「そうでしたか……では、お嬢様は春祭りに行くのが嫌なんですね。残念です……」


 おっと?

 これはもしかすると、もしかするんですか?


「つまり、コルトちゃんは私を春祭りに誘いに来たんですか?」


 再度確認すると、コクリと頷く。

 なるほど、他の人の誘いを断った私、しかも断った相手はこの国の王子だ。

 萎縮するのも無理はないだろう。でも、コルトちゃんが私を誘ってくれるなんて、中々嬉しいことです。もちろん、私は受ける気満々、なんならこっちから誘っちゃうまであります。しかし、そのいい感じの流れを断ち切るが如く、クリアはポツリと漏らした。


「でも、お嬢様は春祭りに行かないのです。コルト、仕方がないわ」


「はい……もちろん分かっています」


 コルトちゃんもがっかりながらも認めちゃったし。

 クリアの余計な一言に、和やかティータイムはズタズタお葬式モード。この重い空気はどうすれば?


 というかまず、私はコルトちゃんのお誘いを断る気はない。なので、コルトちゃんのそばに寄って、私は耳元で囁く。


「コルトちゃん……春祭り、行きましょうか」


「えっ!」


 コルトちゃんは驚愕に満ちた顔でこちらを見てくるけど、別になんら不思議なことじゃない。


「でも、マクロ王子のお誘いはいいのですか?」


「そうです。お嬢様、では何故殿下のお誘いをお受けしなかったのですか。私には理解できません」


 どうやら二人は、納得がいっていないらしい。

 王子の頼みをキッパリと切り捨てて、逆に召し抱えている侍女のお願いを聞き入れる。普通なら逆の展開になるというのが二人の考えとしてあるのだろう。

 私でも、そう思う。

 何か違うと言えば、私が人生経験二回目というアドバンテージを有している部分かしらね。


「ふふっ、二人は何か勘違いをしているわ」


 得意げに二人に告げると、私はゆっくりと髪に手を掛ける。

 そうして、出来るだけ派手に髪がなびくようにスッと指で払い、ニヤリと口角を緩ませた。当然二人には私の真意は理解できていないだろう。なら、理解してもらう方が話が早い。

 二人の注目を受けているのを確認し、私はドヤ顔で言い放った。


「そもそも、私。王子と馴れ合う気はありませんので!」


 ……決まった。言ってやりました。

 ビシリと叩きつけるようにそう言うと、クリアとコルトちゃんは固まっていた。ホケッと口を大きく開けて、指の先までピクリとも動かさない。

 そんなに驚くことでもないでしょう。

 つまり、私は王子という外からくる存在よりも、身近に接している身内の方を優先しているのだ。信頼関係の面から言っても、私の言っていることは正当であって、そもそも王子から離れるというのが私の目的でもあるのだから、この信念は絶対に揺るがない。


 暫くすると、クリアとコルトちゃんは、ゆっくり二度三度と顔を見合わせて、ようやく口を開いた。


「「お嬢様はマクロ王子(殿下)が好きなのではないのですか!?」」


 いやいや、全然好きじゃないし……。そんなに驚くことでもないでしょう。少し前から雑な扱いをしていたのに、それで好意を持っていると思われるとは、王子補正が入っているとしか思えないわね。


 私は二人の驚き様を楽しそうに眺めてから、再びティーカップに口を付けるのだった。

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