ゆびきりげんまん
マルがあんなことするなんて、全然思ってなかったな……
ふと、お店の服を畳みながらバレンタイン騒動の件を思い出す。
真悠自体、花束なんて生まれて初めてもらったし、マルは元猫だからチョコなんてもっての外だと思っていた。
約束を破ってまで、喜んでもらおうとしてくれたマルの行動は正直、物凄く嬉しかったし、好きだと言われ不覚にもまたときめいてしまったのである。
それと同時に、マルが居なくなってしまった時の怖さが真悠の心にのしかかっていたのも事実。
いくら、マルは猫だと思っても、目の前に居るのはカッコいい1人の男。
真悠は、邪念を振り払うかのように頭を振った。
「仕事、仕事!」
真悠はつぶやきながら、メンズ物のディスプレイに取り掛かろうと作業書に目を通す。
あぁ、今度はホワイトデーか……
この服、マルに似合いそう!ホワイトデー返さなきゃないし、これにしようかな
「真悠さん、なんかご機嫌ですね?なんか良いことありました?」
気づかないうちに鼻歌を歌っていたらしい、真悠は浮かれている自分が少し恥ずかしくなった。
「彼氏でもできたんですか?バレンタインデーだったし」
「できてないよ!!……でも」
「でも?」
「同居人に、花束とチョコもらって大好きって……言われたかな」
「それで付き合わないとかないですよ、何してんすか真悠さん!!」
「そうだよね……」
マルの事は、好きだと思う。
マルを思い出せば、心が暖かくなるし、顔もほころぶ、マルを前にするとドキドキもするし、触れたい、触れられれば嬉しい。
これを恋と言わずなんと呼んだら良いのだろう。
マルが、人間だったらなら、素直に認めてしまえるのに。
それに、マルが好きなのは飼い主として……
真悠は、複雑な気持ちのままマルの待つアパートへ帰宅した。
ドアを開けるといつものごとくマルが抱きついてくる。
「真悠、おかえり!今日は、オムライス作ってみた」
マルは最近、お昼のテレビの影響か、料理までめきめき上達していたのだ。
「今日、テレビでやってたひまわりオムライスだけど、ところでヒマワリって何?」
「マルは、まだ夏を知らないんだね?このカレンダーを5枚か6枚めくった頃に見れるかな」
真悠は、ふふんと得意げに話すと、マルは目を輝かせて真悠を見つめる。
「見たい?」
ブンブンと頭が取れるんじゃないかというくらいにマルは頭を縦に振ると、真悠は笑いながら小指をマルに向けた。
「じゃあ、約束!連れてってあげるね」
マルは不思議そうに、頭を傾げながら小指を見る。
「小指を、絡ませるんだよ」
「こう?」
「そう!ゆーびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます」
「ま!!真悠に針千本なんて飲ませられん!」
「嘘ついたらだよー!嘘つかないから大丈夫!じゃあ、マルも指切り」
「ん?」
「ずっと、私と一緒に居てね?」
「うん……
何だっけ?ゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます?」
一瞬、マルの顔が曇った気がしたが、真悠は嬉しさで気付かなかったと言うより、気付きたくなかったのかもしれない。




