多くの商品はお客様の為にあります 第九話
とても綺麗な女性が店内に入ってきた。
彼女もまた常連の一人である。
店員の一人である相良勝馬を追う通称『かつさん』だ。
彼女はレジの方をチラっと見たのが分かった。
少し残念そうな顔であった。
その表情に俺は少し苛立ちながらも、快感を感じていた。
かつさんは、俺と同じこのコンビニで夜勤バイトをしている相良勝馬さん目当ての女性である。
俺も、相良さんとは1度だけ会ったことはあるが、ほとんど知らないと言っても過言ではない。
ただ、1つだけ間違いないのは、典型的なイケメン・ナルシストである。
俺は、一緒にバイトに入った時はやりずらかった。
仕事ができないというわけではない。
むしろ、俺の仕事がなくなってしまうくらい、仕事は速く、それでいて丁寧だ。
いや、山本がいい加減すぎるんだ。
じゃ、何がやりずらいんだって?
だから、俺の仕事がなくなっちゃうんだって。
これじゃ、給料ドロボーだよ。
まぁ、レジはやったから、ドロボーとは言わせないがな。
いかん、さて話はかつさんにもどそう。
本を見ている振りをして、その隙間から恨めしそうにかつさんは俺を睨んでいる。
俺を睨むな。
なぜ、睨んでいるのか。
それは、今日の金曜日は相良さんが夜勤に入ることが多いから彼女は期待していたのだ。
『俺を恨むな。
恨むなら、劇団に所属し、明日から舞台の相良さんを恨んでくれ』
そう思うのだが、俺の気持ちは彼女に伝わるはずもなかった。
「しかし、今日は長いな」
普段、かつさんがいないと分かると、すぐに帰ってしまうのだが、今日は俺だと分かっても帰らない。
「もしかしてだけど~、彼女は俺に惚れたんじゃないの?」
芸人のネタ風に頭の中に歌が流れる。
いかん、仕事中に妄想はいかんぞ。
「どうしたんだろう?」
いつもなら、相良さんがいないことが分かるとすぐに帰ってしまうのだ。
今日に限ってしぶとい。
まぁ、あまり気にする必要もないか。
店長を見るやいなや、彼女は帰っていった。
今日はひとつ俺には謎が残った。
彼女はどうして今日は長かったのか。
「大方、バイト同士だと思っていたんだろう」
それが判明したのは休憩中だった。
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