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祭り

 さあ祭りに繰り出そうということで、みんな出て行った。われさきに部屋を出ていこうとするものだから、押し合いへし合いしていて、部屋の入り口は大変だった。わたしは奥の方にいたので、すんなり外に出ることができなかった。それで仕方なく、ひと段落するのを待った。

 わたしの友人たちの方がひと足先に出て行った。わたしが外に出ていけたのは、ほとんど最後のひとりだった。階段を下りて、ビルの外に出たときに、わたしはお金を一銭も持っていないことに気がついた。これから海に行くのだから、水着を着ていたからだし、これから祭りに行くのだから、浴衣を着ていたからだった。財布を入れるポケットがなかった。わたしは部屋に取りに帰ろうかどうか迷った。そうでなくても、出遅れているというのに、そんなことをしたらますます遅れてしまう。でも、お金が必要な局面になりそうな気もするのだった。祭りに行ったら、あれやこれや欲しくなるよね。友だちが型抜きを買っているのに、自分だけ指をくわえているのは嫌だよね。

 それでわたしは、やはり部屋に取りに帰ることにした。それでも財布ごと持っていくのではなくて、プリペイドカードと紙幣を二枚だけ持って出た。少し行ったところからアーケイドの商店街が始まっていて、その取っ掛かり近くに、駄菓子屋だか土産物屋のようなこじんまりしたお店があって、そこでおばさんに「これチャージできますか」と聞いたら、あっさり「できるよ」ということだったので、そこで紙幣二枚をカードに入れてもらった。もう追いつけそうにないなと、諦めかけていたけれど、友人たちはそのちょっと先で待っていてくれた。

 その友人たちと一緒に、階段を登って、二階にある食堂のような座敷に上がった。畳敷きで、テーブルと座椅子が並べられていた。そこはKの実家だった。Kは入口近くに座っていた。わたしはその奥のテーブルに着いた。向かい側には幼馴じみの少女が座った。Kの母親らしきおばさんが、甲斐甲斐しく料理の用意をしてくれていた。

「さあ、ごはん」と、彼女のところに、お櫃を渡した。まるで彼女が配膳を担当するかのように。彼女はそれを、わたしの方へ押して渡した。

「すぐにお食事なら、味噌汁も用意しますよ」

 わたしたちが黙っていると、味噌汁を入れてくれた。わたしはお膳に用意された定食のような食事を食べようとした。

 彼女は「わたしは要らないわ」と言った。「子どものころは、なにかのせいにして言い訳してからじゃなければ断れなかったけれど、いまは、ただ要らないとだけ言えるようになった」

 わたしはなるほどと思ったけれど、わたし自身は言い訳もできず、断ることができないでいた、いまだに。わたしたちがほとんど箸をつけないうちに、食後のデザートとしてフルーツパフェも用意された。そのときKの右腕が大きく上を指さした。Kの腕は、そのまま銃のような形態となり、エネルギーのようなものが球状に集まったかと思うと、反動をつけて真上に向けて光線銃のような太くて重い熱線が発射された。

 空を見上げると、雲やなにかのさらに上空に飛んでいた白い曲線でできた飛行物体が、破壊され崩れ落ちてくるさまが見て取れた。

「宇宙船に当たったのか」

 そう、それはわたしたちが「宇宙船」と呼んでいたもので、宇宙人たちからこの星を守るために、防衛ラインを作っていた何隻もの飛行物体の一つだった。

「これはエヴァなのか」

「そうだね、たぶん」

「それなら行かなくちゃ」

 わたしたちは慌てて外に出ていった。友人たちは全くテーブルの上に名残惜しそうにしていなかったけれど、わたしだけはいぎたなくパフェのグラスからできるだけ飲み干そうとしていた。

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