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少年夢物語  作者: Rei
3/7

最期の時

「不採用、ですか…」

面接官はパサリと僕の履歴書を放った。

「君の心意気は伝わったのだがね、この経歴では、いささか……」

「お願いします!絶対に誰よりも働きます!ですから、仮でもいいので、採用して下さい!!」

「残念だがね、既に決定事項なんだよ。」

淡々と語る口調からは残念な思いなど、微塵も感じられない。

最後の頼みの綱がぷつと切れた音がした。

「そう、ですか……本日は、私のために時間を割いて頂き、誠にありがとうございました。」

そう言って部屋を始めとする出て行こうとすると、面接官に、もう一度席につくよう言われた。

「私の友達はこの会社の社長でね。」

急に話しだした面接官に動揺が隠せない。

「あの、なんでしょうか…」

「いいから最後まで聞きなさい。」

強くいわれて、そのまま黙り込んだ。

「社長の名前は、夜桜仁と言うんだが、聞き覚えはないかね?」

夜桜……雫の身内か。

「数年前からかな。彼から自分の息子が身分不相応な奴に入れ込んでいると相談を受けてね。何でもそいつは貧しい事を良いことに、雫に物を食べ物を買わせたり、挙げ句の果てに一夜を共にして、援助交際までしたそうだ。」

震えが止まらない。身体中から嫌な汗がでる。

彼はゆっくりと立ち上がると僕の方へ歩みより、胸ポケットに紙幣を押し込むと、背後に立った。

「彼は大層困っていたよ。そいつの名前は、三日月夜虹と言うそうだが、君の事だね?」

こっくりと頷くと彼満足そうにニマっと笑う。

「君は、彼の息子にも、他の友人にとっても、将来に影響を及ぼす、邪魔な存在なんだ。」

そんな事…とっくに…

「どうすべきか、分かるだろう?その金で手を引いてくれないなら、そうだな…」

彼は舐めるような視線で僕をみた。

「私が相手してあげよう…」

頬に触れかけた手を思いっきり振り払う。

「もう、彼らには、二度と会いません。なのでこれで失礼させて頂きます。」

そう吐き捨て蹴破るように部屋をでていった。

目の前が霞んでみえて、その度に目を擦る。それで目が痛くなっても歩き続けた。



「おーい!夜虹!!」

面接の帰り、ふらふらと家へ帰る途中、ふと後ろから呼び止められた。

「…ライ」

走って僕の所に駆けてきたのは、シズ達同様、高校の友達で、ライこと、満月頼人だ。

「久しぶりだな…ってどうしたんだ!?その顔は!!」

泣き腫らして酷い状態の僕をみた彼は、慌てたように頭を撫でて来た。

「大丈夫か??何があったんだ??また、だいぶ痩せたようだし…」

「何でもないよ。大丈夫。」

ふとライを見やると、彼は、両手に大きな袋を下げていた。

「どっか行ってたの?」

「ああ、いや、シズが俺達全員に各自食材を持ってコウん家集合って言い出してな。ほら。」

そう言って彼は、片方の袋を広げてみせる。美味しそうな肉や、野菜が入っていた。

「またたっぷり作ってやるからな~だから、元気だせ。」

「…ごめんね、無駄になっちゃう。」

「??どういう意味だ?」

彼の問いかけを無視してそっと彼に抱きつくと、彼も荷物を地面に置いて僕を強く抱きしめてくれた。

「…ライってさ、昔から体温高いよね。」

そのまま彼の体温と鼓動に身を任せると、温かい何かが胸を満たした。その何かをもっともっととねだるように頭を彼の胸に擦り付ける。

…どの位そうしていただろうか?彼の身体からそっと離れる。

「あのね、ライ、僕、もう、皆と会えないんだ。」

「は?何言って…」

「僕が、いると、邪魔だから。あ、でね、出来れば僕の貯金全部使って家賃払ってくれるかな?もう、お金は要らないから…」

「冗談だよな!?そうだと言ってくれ…」

「さようなら。」

「コウ!!」

彼が伸ばた手をすり抜け、道路に飛び出すと、車がブレーキ音と共に止まり、その間を縫うようにして走る。聞こえる野次もすべて聞こえず、ただひたすら駅へと走る。

駅では、まさに電車が、発車しようとしていて慌てて一番高い切符を買うと、その電車に駆け込む。ギリギリで乗ったせいか周りからの視線が痛かった。

電車が動き出すと同時にライがホームに上がってくるのが見えた。彼も僕を見つけたようで目が合うと口を動かした。だが、それは、すぐに見えなくなり、声も届くことは無かった。



終点の駅につくとまずホームの階段をおりて改札をくぐった所にある自動販売機でココアを一つ買う。

ガコンと、落とされたココアを冷えた手のひらで包み込むと、そこから心地の良いあたたかさが広がった。それを持って日没寸前の海に突き出ている崖へと足をすすめた。

  

夕日がしずみかけた、半分朱く、半分蒼い海は月と星の光をそっと反射し、まるで、宝石を散らしたようだった。

(綺麗…)

潮風はひんやりとしていて僕の肌に針で突き刺しているような痛みを与えた。

「ララ~ラララ~」

小さな声で、そっと歌を紡ぐ。母が、よく歌っていた歌だ。ココアをしっかりと握りしめたまま、崖の縁へと足を進める。下をみると、穏やかな波が静かに、だが確実に、崖の岩を削っていた。

その光景をみて、思わず、笑みがこぼれて涙が落ちた。

ここから落ちれば命は無いだろう。

この波に乗って、どこまで行けるのだろうか?

「ララ~」

歌いながらそっと身を海の方へ倒していく。足も地面をはなれ、感じるのは、浮遊感とヒュウヒュウと風を切る音だけ。

父さん、母さん、ごめんね…僕、もう無理だよ…

この思いが、二人に伝わりますように…



身体中全てが海に叩きつけられ、舞った水しぶきの冷たさを感じながら、僕の意識は閉じた。

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