衛兵に捕まる
「クェーッ、クェックェ、クェー!」
「クックルドゥドゥドゥ」
騒がしい朝の音がする。
この世界には鶏や雀は居ない、だが朝になると鳴く鳥系の生物が沢山飼われている。
俺は風呂場に入ってシャワーを浴びる。
顔をごしごしと洗う、腫れていないかが心配だったが、杞憂だった。
かえでには酒場付の食堂もついており、深夜を除き朝から晩まで営業している。
味もなかなか良い、調理はおばちゃんがやっているから当然といえば当然かもしれない。
俺は1階に下り、食堂の扉を開ける。
「おばちゃーん、朝飯ー、釣りはいらねー」
俺は大銀貨を一枚おばちゃんに向け、投げる。
「あいよー」
おばちゃんは大銀貨を見事にキャッチし、お盆に乗せた朝ごはんを出してくれた。
このツーカー具合を初見でやっているのだから、おばちゃんは流石だ。
今日のメニューは、卵かけごはんに味噌汁と漬物にさんまの塩焼き。
FQ17では流体プログラムの処理量の問題で、海の中はシミュレートされていない。
そのため、実際に海が存在しているのは海の中に作られたダンジョンや街だけであった。
しかし、そんな狭い領域では世界中の海産資源を賄えるわけがない。
そこでFQ17では魚養殖システムを利用して、魚を家畜として育て、提供していたのだ。
だからモンスター肉じゃない魚が出てもおかしくないのだ、のだ!
「ご馳走様でした」
俺は、実家の味を思い出す朝ごはんを腹に詰め込み、せかせかと部屋に戻る。
これからラグナにいって、手始めにアコたんを攻略せねばならぬのだ、ゆっくりしている暇はない。
部屋に入る、鎧が干されている。
窓から外を見る、まだ陽は低いが今日は暑くなりそうだ。
鎧を見る、GM仕様の薄いながらの何物の攻撃も通さない装甲である。
当然、熱も空気も通さない。
もう一度外を見る、陽が眩しい。
俺はそっと、鎧を4次元ポケットである冒険者鞄に仕舞い込んだ。
「うー、オンナオンナ」
今、女を求めてラグナへ向かっている俺は、異世界にトリップしたごく一般的な男。
強いて違うところを挙げるとすれば、GM権限を持ってるってとこかナ。
先ほど手始めにアコたんを攻略すると言ったな、あれは嘘だ。
俺はアコたんが辻ヒールしている霧の森ではなく首都ラグナを徘徊している。
ラグナには褐色巨乳金髪ショートかつ関西弁の女の子、ジュディアがいるからだ。
面倒見が良く姉御肌の彼女は、女に尽くして欲しい男にとって彼女候補として垂涎の的である。
「しゃーないなぁ、ウチがおらんとほんまダメなやっちゃで」
大体こんな感じのキャラである、これで人気が出ないはずがない。
しかし彼女はFQ17人気投票ランキングでは紙面上に上がらない程人気がない。
何故か?
カップリング相手がいるからだ!
そう、彼女にはFQ17の開発者が定めたカップリング相手がいるのだ。
彼女との連続クエストを進めると、プレイヤーと彼女の仲は良くなる。
しかしそれ以上にカップリング相手との仲が進行しそのままゴールインする。
もうゴールしてもいいよね。
あかん!
そうやってジュディアは、彼女と結婚しようと近づいた多数の男性プレイヤーにトラウマを残していったのである。
不人気なのも仕方ないよね。
しかし、ジュディアとカップリング相手が出会うのは、彼女に関する最初のクエスト時である。
そして、ここはもうNPCがプログラムで支配されているVRMMOの世界ではない。
つまり、ジュディアとカップリング相手が出会う前に仲良くなってしまえば良い。
そうすれば、俺は、俺達は、彼女を攻略することができるのだ!
先ほどそのことに思い至った俺は、時間制限のあるジュディアを先に攻略することに決めたのだった。
これは俺の為の攻略ではない、共に散った戦友たちの無念を晴らすための攻略だ。
ジュディアとの初クエストは、冒険者ギルドで出会うことで始まる。
だがそのルートはジュディアのカップリング相手との出会いの場でもある。
敵に塩を送るようなものだ。
非正規ルートを通るため、街を徘徊しているジュディアを捕まえるのが吉。
俺はそう考え、街を徘徊している。
街をしばらく徘徊していると、大通りに出たところでジュディアを見つける。
丁度武器屋に入っていくところだ。
チャンスだ、俺は足早に武器屋に向かう。
「スタァァァァップ!」
遠くから俺を止める声がする、大通りに居る沢山の住民が俺を見る。
背筋がぞくりとする、やばい、この声は・・・
唯一無敵属性がついたNPCで、街中であれば世界中どこでも飛んでくる最強のキャラクター。
灰色の鎧を付けた彼を、人はこう呼ぶ。
「ガード(衛兵)だ」
ガードが俺のもとまですっ飛んでくる。
移動速度が明らかに人間を超えている。
飛んできたガードはため息をつきながら俺に聞く。
「お前は罪を犯した、服役しろ」
あれ?おかしいぞ、普通なら保釈金を支払うか服役するかを聞くはずなのに。
そもそも俺が捕まる理由がわからない。
「俺が何の罪を犯したというんだ?」
ガードが呆れた顔をする。
「本当にわからないのか?」
俺は首を振る、昨日この世界に来たばかりの俺に罪なんて犯せる暇があるわけないじゃないか。
ガードは俺の反応を見るともう一度ため息をつき、首を振ってから続けて一言。
「国王殺しだ」
「あっ・・・」
俺はGMソードで斬られて光になった王様を思いだし、素直に両手を差し出した。
あれ?おかしいなぁ。
もっと女の子が出てきて酒池肉林の作品にするつもりだったのに。
まだ女性キャラが可哀想な子と、可哀想な子(耳が聞こえない)と、可哀想な子(一言もしゃべってない)と、おばちゃんしか出てない。
おかしいなぁ・・・。